塚本泰司理事長・学長就任挨拶

                就任挨拶の様子

就任挨拶の様子

 平成28年4月1日から4年間、札幌医科大学理事長・学長を拝命しました。
 就任にあたり、今後の抱負についてお話させていただきたいと思います。
 本学の建学の精神は、「進取の精神と自由闊達な気風」、「医学・医療の攻究と地域医療への貢献」であります。これに基づいて「最高レベルの医科大学を目指す」という大学の理念が出てきた訳であります。この精神は65年以上たった現在、まさに我々が進むべき道として一層の重要性を増していると考えています。その理由は以下の通りであります。
 既に御存知のように、全国の全ての大学は大きな変革の只中にあります。国立大学は国の方針により、将来大きく3つのタイプの大学にその目指す機能が分かれていくようになることが予想されます。第一は世界で卓越した教育・研究を展開できる大学で、主にいわゆる総合大学が対象になると思われます。第二は全国的あるいは世界的に特色ある教育・研究を遂行できる大学、第三は人材育成や課題解決で地域に貢献できる大学、であります。この流れは、国立大学はもとより公立あるいは私立大学にも当然その影響を及ぼしてくるものと思われます。
 翻って私たちの札幌医科大学のこれまでの65年以上の歩みを振り返ってみますと、建学の精神にもある「自由闊達な気風と進取の精神」を基盤とした「医学・医療の攻究と地域医療への貢献」を拠り所にし、最高レベルの医科大学を目指すことを理念に掲げ、これを実践してきました。これはまさに、我々の大学が今後の国立大学に要求される第二と第三の機能を既に開学以来果たして来たことに他なりません。すなわち、我々の目指すところは今までも、またこれからも、困難な道ではありますが、「医学・医療の攻究と地域医療への貢献」であります。このことは島本前学長も就任に際して述べられていたことは皆様の記憶にあると思います。私もこのことを、ここで改めて確認したいと思います。

 それでは、初めに現中期計画後半の運営方針、次いで札幌医科大学の教育、研究、臨床そして地域医療支援について述べさせていただきます。
 まず、現中期計画後半3年間の運営方針について述べるとともに、平成31年度から開始される新中期計画への橋渡しについても若干触れさせていただきます。
 現在進行中の中期計画に関しては、その進捗は既に半ばまで達し、その成果は順調であります。既にこれまでの3年間の成果を踏まえ平成28年度の年度計画も作成されています。何よりも、これを確実に継続、実施することが重要であると考えています。
 新中期計画との関係でいえば、教育研究棟の一部および大学管理施設の建設は平成31年度以降にも及びますので、現在の進捗状況を深く注視する必要があると考えています。同時に、順次完成する教育・研究棟の適切な運営、研究用備品配置の計画などにも配慮すべきと考えております。新中期計画に盛り込むべき事項も多々あると思われますので、これらを適切に取捨選択し、大学における教育・研究のバックボーンを支えるという意味でも、大学としてこれらをサポートするように考えています。教員の方々とコンセンサスを形成しながら教育・研究設備の充実を図っていきたいと思っています。
 新しい教育・研究棟の建設ばかりではなく、継続して使用する現教育・研究棟のリフォームとその後の活用も重要な課題です。現保健医療学部棟のリフォーム、活用方法については既に検討が行われていますが、保健医療学部の教員の方々の意見を十分に聞きながら進めていきたいと考えています。リフォームを取り巻く資金的な環境は決して楽観視できる状況ではありませんが、副理事長はじめ事務局の方々のバックアップも得ながら納得のできるものにしたいと思っています。

 次に、附属病院に関してです。
 札幌医科大学附属病院の上位目標が安全で質の高い医療を提供することにあることは言うまでもありません。そのことは、附属病院の理念・基本方針にある通りです。利益を追求することは附属病院の上位目標ではありません。しかし、安全で質の高い医療を提供できるような環境を作り出し、それを維持し、さらにその成果を患者さんに還元するためにも、附属病院における適切な利益の確保は不可欠です。これなくしては、附属病院、ひいては大学の円滑な運営は困難です。そのためにも、附属病院の経営基盤の強化は重要であると考えています。
 記憶に新しいところでは、前回の中期計画の際にも附属病院の収益により高額かつ大型機器である放射線診断機器装置、ハイブリッド装置、ロボット装置などの設置が可能になりました。
 今後は、病院長をはじめ病院の執行部、病院経営管理部とも十分に相談し、この目標に向けて必要な方策と取っていきたいと思います。
これらの方策の中には、島本前学長が既に西棟増築に際して盛り込んだ個室ベッドの増床、また、現病棟の4床化に伴う個室ベッドの増床、などがあります。さらには、現在の病院の中央棟のリフォームもあります。この中には、現在中央棟3階に位置する手術部、ICU、救急部のリフォームも含まれています。高度急性期医療機能を担うためにも、手術室の増室は不可欠ですし、ICUの増床も視野に入れる必要があります。事務局の方々と適切な戦略を作成し、設置者と綿密な協議を行っていきたいと考えています。
 大学における研究をどのように支援して行くかは、また後ほど触れますが、中期目標との関係では、現在実用化に向けて順調に進んでいる神経再生医療、がんワクチンに関して臨床研究推進部の活動を通して、この流れを一層強化・支援して行くつもりでいます。
 幸い、神経再生医療学と整形外科学が共同で行っている自家骨髄間葉系細胞を用いた脊髄損傷に対する細胞治療が、厚生労働省の先駆け審査制度に指定されましたので、自家骨髄間葉系細胞が再生医療製品として保険診療で認可される期間が大幅に短縮されました。通常の患者さんに使用できることが現実のものとなってきたと言えます。このような状況から、この再生医療製品を用いた治療を本大学が主導して実施できるような大学、附属病院におけるシステムを構築したいと思っています。

 次は、学生支援体制と教職員の労働環境の改善についてです。これまでも、島本前学長が推進されたこれ関する多くの項目がありますので、これらを着実に継続し、強化するつもりでいますが、さらに、今後は保健管理センターの体制充実を図りたいと考えております。今後は専任の医師あるいは保健師を配置し、学生を支援する任に当ってもらう体制を構築したいと考えています。
 これに関連して、学生の生活指導体制にも配慮が必要と思われます。学生部、学生委員会とも連携した学生の生活支援、指導体制の充実を図る必要があります。
 以上が、現在考えております中期計画後半3年間の運営方針と一部新中期計画へつながる方針の概略であります。

 それでは、次に大学の役割である教育、研究、臨床、そして地域医療支援について触れたいと思います。
 まず教育についてです。
 大学には、優秀な高校生を入学生として確保し、適切な教養教育、学部教育を行い将来の医療人として相応しい学生を育成する義務があります。これが大学のプライオリティーであります。
 入学者に関しては、アドミッションセンターが中心になり、北海道の各高校を継続的に訪問し、その結果、優秀な高校生を確保できている状況があります。このような地道な努力をされてきたセンターの教員の方々に敬意を表するとともに、その体制を充実することが必要とも考えています。保健医療学部の学生は、幸いにして、北海道出身者が多く、卒業後は大部分が北海道の地域医療に貢献してくれています。大学としては非常に喜ばしい状況と思っています。
 一方、医学部入学者では以前は北海道外出身者が多く、その大部分は初期研修、専門医研修をともに道外で行い北海道内には定着する傾向が低いことが指摘されていました。アドミッションセンターが中心なり、推薦入試の「特別枠」、「地域枠」のみならず、一般入試の「北海道医療枠」として入学者を選抜するする制度が構築されています。その結果、平成28年度は一般入試の定員75名中北海道出身は52名、69%と昨年同様70%前後に達するようになってきました。もちろん、入学者の学力は以前と変化なく、かえって最近では一般入試では「北海道医療枠」で受験する受験者の学力の方が優れている結果も見受けられます。これら52名に推薦入試での35名を加えると定員110名87名、79%が北海道出身となっており、北海道の医療を担う優秀な若い力を確保するために、このセンターの更なる機能充実に注力する必要性を認識しています。
 また、このような「特別枠」、「地域枠」、「北海道地域枠」の学生は、在学中は医学部学生キャリア形成支援委員会の指導を受けていますが、卒業後は初期研修、あるいはその後の専門医研修を円滑に受けることができよう、医師としてのキャリア・アップの道筋が見えるような仕組みも整えたいと考えています。このことはまた、後ほど述べます。
 医療人育成センターの両学部での教養教育では、多くの成果が集積されてきております。医療人となるための基礎学力、能力を身につける教養教育の強化がさらに必要です。そのための体制とこれを円滑に運用する仕組みの改善を通して、医療人育成センターの一層の充実を図ることが重要な課題と認識しています。
 新しいセンター長を中心とした委員会のメンバーの先生方と議論を積み重ね、今年度秋までには一定の方向性を打ち出すようにしたいと思っています。何よりも学生のための教育を充実することが重要ですので、時代の状況に相応しい教養教育の在り方とその体制の充実を目指し行きたいと考えています。
 医学部における医学教育認証制度、保健医療学部での「より臨床に即した教育内容の充実」という取り組みのいずれも、既に担当学部の教員により開始されていますので、それを強くサポートしながら、進捗過程を見て行きたいと思っております。
 大学院生の研究支援については、若手医療者のリサーチマインドを醸成する意味でも、基礎研究の重要性を訴えていくつもりです。この点に関しては今年度の学部入学式、大学院研究科、助産学専攻科の入学式でも強調するつもりでいます。良質な地域医療を展開するためには良質な教育を受け、良質な研究マインドを持った医療者が不可欠と信じているからに他なりません。
 助産師教育課程の教育内容の一層の充実も不可欠です。特に北海道ではすべての地域を産科医のみで対応することは到底不可能です。助産師の存在なくしては北海道の周産期医療・母子保健は成立しないことは火を見るより明らかです。さらに、助産師自体もその充足数が十分でないことを考えれば、助産師教育課程の入学者が将来教育スタッフとして活躍してもらう必要もあります。その意味で、この課程の教育内容の一層の充実も不可欠であり、保健医療学部と十分な意見交換を行い、その意向に沿って慎重に進めたいと考えています。

 次に、研究です。
 冒頭でも触れましたように、開学の精神は私たちに「医学・医療の攻究と地域医療支援への貢献」を目指すことを指示しています。
 神経再生医療、がんワクチンなどに見られるように、先端医学研究を基盤とした橋渡し研究の実施に対するサポートが大学の責務であることについては、先ほども強調した通りであります。さらに、基礎講座も含め基礎研究のための基盤整備の必要性も十分に認識しております。現在、注目を集めている橋渡し研究も、その成果が昨日、今日に得られたわけではありません。10年前、20年前から多くの研究者が関与し現在の状況が作り上げられてきたことは明らかです。このことは、次代を担う基礎研究の充実をわれわれに示していると思います。すべての研究の種が大きく花開くわけではありませんが、種を蒔かなければ実を刈り取ることはできません。基礎研究の充実は不可欠です。
 ここ数年は診療科の再編、連続する講座の教授選考など、研究には多少ざわついた状況があったと思われます。しかし、それも一段落し従来の研究に相応しい状況が戻って来つつあると理解しています。研究に関しても底力のある大学と思っていますので、これまで通りの力を発揮できるような研究環境を整えたいと考えています。研究資金獲得に私自身も努力したいと思います。
 臨床研究も欠かせません。医療における研究では基礎研究と臨床研究のバランスが重要です。質の高い臨床研究の成果は、基礎研究の成果に優るとも劣らないほど重要であることを身に染みて感じてきました。臨床で問題になっているテーマを見つけ出し、前向き研究を多施設共同で行いその結果を専門領域のコア・ジャーナルはもとより、例えば臨床研究であればNew England Journal of Medicine、JAMAなどに投稿し、採択させることができるように願っています。本学の医学部、保健医療学部の基礎と臨床の実力を結集すればそれも高嶺の花では決してないと思います。そういった意味で、両学部、基礎、臨床問わず研究の必要性を強くアピールし、リサーチマインドを持って研究に従事する若手医療人の確保を推進したいと考えております。

 次に附属病院における臨床について触れたいと思います。
 昨年度、内科の診療科再編が決定され新しい診療科が誕生します。この流れは、大学病院の新専門医制度への対応や診療の高度化などに伴う必然的なもので、全国的な状況と理解しています。新しく設置される診療科への協力体制が何より重要です。また、外科系の診療科も体制が整い、附属病院の機能も一層充実してきたことは明るいニュースと考えています。このような各診療科の充実に伴い、以前にもありましたが、複数の診療科がまとまって疾患センターを設置し、患者さんへの医療提供を充実したものするという動きが出てきています。今後もこのような動きを、病院の診療機能の充実にむすびつけたいと思っていますので、積極的に支援したいと考えています。
 現在、その実施時期に新たな検討が加えられる可能性があると聞いてはいますが、新専門医制度では研修病院となる関連病院との連携がより一層重要になります。附属病院を基幹病院とする研修病院群を早急に構築し、専門医研修環境を整える必要があります。本学でも附属病院と各診療科とが一体となって、関連病院との更なる連携を検討し、その大枠は決定されていると思っていますが、それを充実したものとし、多くの若手医師を専門医研修病院群にリクルートできるような体制構築を強力に進めたいと思っております。
 
 札幌医科大学の大きな使命の一つである地域医療支援の継続、強化を一層進めたいと思います。
そのためには、推薦入試の「特別枠」、「地域枠」で入学した学生および「北海道地域枠」で入学した学生に向けた初期研修環境のそれぞれ整備、準備に万全を期したいと考えております。このようにして、卒前臨床教育、初期臨床研修、そして専門医教育との有機的な連携など、学生にとってより良い学習、研修環境を提供することができると思われます。
 その意味で、初期臨床研修後の専門医教育、特に新しい専門医制度をも見据えたバックアップ体制の構築が不可欠ではないかと思っています。現在の臨床研修センターの機能に、初期研修を修了した若手医師のキャリア形成を支援するような機能を追加したいと思っています。もちろん、センターの名称の変更は必要になるかもしれません。現在、病院には看護キャリア支援センターが設置され、看護師のキャリア形成の支援を行っていますが、その医師版を考えています。こうすることで、「特別枠」、「地域枠」、「北海道地域枠」の学生がロールモデルを探し出しやすいようになり、ひいては地域医療へより一層関与できるのではないかと期待するところです。
 医師以外のメディカルスタッフの地域医療支援、例えば、看護キャリア支援センターを介した地域病院からの看護師等の研修受け入れなど、積極的に支援していきたいと考えております。幸い、今年度からは、この看護キャリア支援センターが病院の新設組織となりましたので、更なる充実を果たして行く絶好の機会が到来したと思っています。
 地域医療支援の継続と強化はこれからも大学の大きな使命です。これらかも教職員の皆様のご支援を得ながら北海道の医療を支えていきたいと思っています。地域医療の充実のためには附属病院での臨床が充実していなくてはなりません。この原則は決して崩すことはできないと考えています。

 最後に大学運営の基本方針について述べさせていただきます。
 再三、再四、札幌医科大学の建学の精神に触れさせていただきました。ここにある方向性には今後とも微塵の揺るぎもないと確信しています。大学を構成する一人一人はこの建学の精神を共有していると思います。したがって、多少の意見の違いは建学の精神の実践という思いの前では、大きな問題ではないと信じています。建学の精神を実践しやすい環境を作ることが私の使命でもあります。そのためにも、対話により教職員の方々から多くの意見を吸い上げる一方で、責任をもって決断するという運営を貫くつもりでおります。
 学長室のドアはいつも空いています。いつでも気軽に声をかけていただければと思います。建設的な対話は大いに歓迎です。医療は患者さんとの対話から始まり、診断、治療に至りまた患者さんとの対話に戻ります。この繰り返しです。皆さんの訪問を待っています。
 教職員の方々の今後のご支援とご協力を切にお願いする次第です。

平成28年4月1日 理事長・学長 塚本 泰司

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