医学部腫瘍内科学講座の研究グループの研究成果が米国の医学雑誌に掲載されました

JNCI
April 2016 108 (4)
 
 本学医学部腫瘍内科学講座の加藤淳二教授、大須賀崇裕医師らの研究グループによる研究「Relationship Between Increased Fucosylation and Metastatic Potential in Colorectal Cancer」が、米国の医学雑誌 「Journal of National Cancer Institute」に掲載されました。この研究成果は、「大腸がん」の治療に大きな期待が持たれています。
 詳細は、以下の研究成果の内容をご覧ください。
 (HPからの掲載文・画像の無断転載、引用禁止)
<今回の研究の背景>
  • 大腸がんは、日本人のがん死亡数で肺がんに次ぐ第2位で、進行がんでは未だに治療が難しい病気のひとつです。
  • フコースは糖の一種で、人間の体では血液型の決定や免疫などに関わっています。
  • これまで私たちは大腸がんでフコース転移酵素(タンパク質にフコースを結合させる酵素)が、大腸がんの転移する能力の獲得に関係していることを発見しました。
  • したがって、大腸がん細胞でフコースの取り込みが盛んである可能性が考えられていましたが、これまで科学的に証明されておりませんでした。
  • また、これまで私たちは抗がん剤にフコースを結合させる技術を用いて、膵-臓がんで高い治療効果を報告しました。
  • もし大腸がんにおいてフコースの取り込みが盛んであることが証明できれば、その技術を応用して大腸がんでも高い治療効果を得ることができる可能性があります 。
<研究の結果>
  • 承諾を頂いた札幌医科大学附属病院で手術を受けた患者様の摘出したがん組織の一部を、フコースの取り込みを示すレクチンで染色しました(図1)。染まりの強さで分類したところ、がんが他の臓器に転移していたり、血管の中にがん細胞が入っていたり、癌が大腸の壁の深いところにまで達していた検体で、レクチンの染まりが強いことがわかりました。
  • また、大腸がん細胞株を使った実験では、大腸がん細胞株は正常細胞に比べて細胞内に多くのフコシル化蛋白(フコースがついた蛋白質)を認めました(図2)。
    これらにより、大腸がん細胞は正常細胞よりもフコースをたくさん取り込んでいることを、初めて科学的に証明しました。
    そこで大腸がんに対する抗がん剤であるSN38をリポソーム(脂肪の膜)に包んで、フコースを結合した薬剤と結合させなかった薬剤で大腸がん細胞株に対する効果を検証したところ、フコースを結合させた薬剤の方がよりがん細胞を死なすことがわかりました(図3)。
  • 最後に動物実験として、マウスにがんを植え付けてから、治療をしないグループ、SN38だけ投与したグループ、リポソームに包んだSN38を投与したグループ、さらにそれにフコースを結合させた薬を投与したグループに分けて治療を行ったところ、フコースを結合させた薬を投与したグループで生存期間が延長し、腫瘍の縮小がみられました(図4、図5)。
<結論>
大腸がんはフコースの取り込みが亢進していることを証明しました。
フコース結合リポソーム内包抗がん剤が有効な治療法となる可能性が示されました。

<図説>
 (※いずれも本論文のFigureより一部改変して抜粋)

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情報発信元
  • 医学部腫瘍内科学講座