【研究成果】組織修復機構にもとづく新たな間葉系幹/間質細胞治療~細胞老化—クリアランスーリモデリング連鎖を呼び起こす~(医学部 解剖学第二講座)

 札幌医科大学医学部解剖学第二講座の千見寺貴子助教、齋藤悠城大学院生、藤宮峯子教授らは、「慢性炎症性筋疾患に対する細胞老化システムを利用した新たな間葉系幹/間質細胞治療」を報告しました。本研究成果は国際科学雑誌EBioMedicineに掲載されました。
<研究概要>
 世界的に最も臨床研究が行われている細胞治療のプラットホーム「間葉系幹/間質細胞」は、生体内に投与後すぐに消失するにも関わらず、なぜ治療効果が継続するのか、未だそのメカニズムは不明な部分が多く残されています。
 札幌医科大学医学部解剖学第二講座の千見寺(ちけんじ)貴子助教(研究当時、現北海道大学医学部保健学科准教授・札幌医科大学医学部解剖学第二講座客員講師)、齋藤悠城大学院生(研究当時、現メイヨークリニック博士研究員)、藤宮峯子教授らの研究グループは、その治療メカニズムを明らかにするために、まず組織が修復されるときの生体内の間葉系間質細胞を解析しました。 
すると、生体内の間葉系間質細胞は、組織損傷後に細胞老化因子p16ink4aを発現すると同時に、貪食細胞が集積し、すみやかに除去されました。除去されることで組織修復を促す、という一見矛盾したような考えに思えますが、 私たちの体にある細胞はダメージを受けた後、「細胞老化」という現象を起こし、免疫細胞を呼びよせて、自身をクリアランスさせ、組織を修復に導く、という生体防御システムをもっています(細胞老化—クリアランスーリモデリング連鎖)。そこで、培養環境でp16ink4aを強く発現する間葉系間質/幹細胞を作成し、慢性炎症性筋疾患モデルマウスに投与したところ、細胞老化—クリアランスーリモデリングが促され、組織修復が高まることがわかりました。
 また、胎盤抽出物を添加して培養した間葉系幹/間質細胞は、細胞老化因子の発現を高め、より良い治療効果を発揮することを証明しました。
 本研究成果は、2019年5月23日、The Lancet誌とCell誌の共同オープンアクセス誌EBioMedicineオンライン版に公表されました。

<今後への期待、今後の展開>
 この成果は、間葉系幹/間質細胞治療の新たな治療メカニズムの解明であると同時に、慢性炎症を発症するさまざまな疾患への応用が期待され、実用化へ向けた開発が進められています。

図
 【論文情報】
タイトル: p16INK4A-expressing mesenchymal stromal cells restore the senescence–clearance–regeneration sequence that is impaired in chronic muscle inflammation
著者:Takako S. Chikenji, Yuki Saito, Naoto Konari, Masako Nakano, Yuka Mizue, Miho Otani, Mineko Fujimiya
掲載誌:EBioMeidcine DOI : 10.1016/j.ebiom.2019.05.012

【用語解説】
*細胞老化について
ダメージを受けた細胞が細胞老化することで、Senescence-Associated Secretory Phenotype(SASP)と呼ばれる現象を起こし、免疫細胞の動員を増加させる。老化した細胞は免疫細胞によってクリアランスされ、正常な組織リモデリングが完了する。一方、正常にクリアランスされない老化細胞の存在も知られ、それらは慢性炎症を引き起こす。

<本件に関するお問い合わせ先>
所属・職・氏名:札幌医科大学解剖学第二講座・客員講師・千見寺貴子
札幌医科大学解剖学第二講座・教授・藤宮峯子
TEL:011-611-2111(内線 26400) FAX:011-618-4288
E-メール:takako.chikenji★gmail.com
※★を@に代えて御送付ください。
 
 

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