第42回日本IVR学会総会

宇佐見 陽子
軽井沢プリンスホテル 2013.5.16〜18

 
 
 5月16~18日まで軽井沢プリンスホテルで第42回日本IVR学会総会が行われました。今年は聖マリアンナ医科大学放射線科が主幹で、テーマは「領域を超えた知恵と技術の融合」でした。感想を一言でいうと、「各科や各地域・施設の垣根を越えて、熱いディスカッションが繰り広げられ、自分自身も非常に勉強になり、大成功であった」と思いました。

その成功の要因はプログラム構成によるものが大きいと思われました。今回は「実臨床でみんなが今困っている事・今後問題になりうる事」について、かなり的を絞って、シンポジウム・教育講演・ランチョンセミナー・技術セミナーが綿密に組まれていました。参加者も1300人超えで、会場と懇親会もかなり賑わっておりました。

 学会は、IVR領域において偉大な存在であった奈良県立医大放射線科名誉教授の故・打田日出夫先生の「打田先生を偲ぶ会」で幕開けし、2日目の夜の懇親会では聖マリアンナ医科大学の故・滝澤謙治先生を偲んでジャズセッション(バンドメンバーはほぼ全員医者なのに超レベルが高い!)が行われました。IVR界においてとても貴重な存在であった先生方がお亡くなりになられたのはとても悔やまれますが、学閥を超えてこの様に偉大な先生方を偲ぶ事ができるのは日本IVR学会の結束の強さと感じました。


 また、座長や司会進行において、若手IVRistが積極的に起用されていました。中島先生はじめ、幹事の先生方の若手に対する期待を強く感じとられました。と同時に、自分とほぼ同期の先生が立派に座長をこなしており、とても刺激になりました。
懇親会では、他大学のIVRの先生方や東京修業時代にお世話になった聖路加国際病院放射線科の斎田先生、小林先生、不破先生とも久々にご挨拶・お話ができ、なんか良かったです。

 今回は、
A)自分の発表(ゼラチンスポンジ単独による末梢門脈塞栓法の有用性について)
B) PTPE関係の他の発表
C) 自分が実臨床で今困っているところ
  ①PVP vs BKP
  ②B-glue
  ③Beads
  ④Ⅱ型エンドリーク
  ⑤内臓動脈瘤
  ⑥外傷IVR
  ⑦他
にfocusを当てて聴講しました。
以下かなり長文です、ご容赦ください。


A、B) PTPE関係(自分の発表)について

 香川大学の発表:エタノールによるPTPE。やはりかなり痛い(患者様が寝台で飛び上がるくらい)様です。
静岡がんセンターの発表:左葉塞栓成績のまとめ。左葉は育ちにくい。スポンゼルがmigrationしないように、術後の体位をかなり気にしている。コイルは使用していない。

宇佐見の発表:問題なく発表できました。以下質疑応答。

質問1:スポンゼルがmigrationして問題になった事はないですか?あるなら、コイル追加した方がよいのでは?
回答1:3週間後のCTを全て確認してみましたが、誤塞栓、逸脱はありませんでした。末梢塞栓であるかぎり、コイルしなくても大丈夫そうです。

質問2:時間かかりませんか?エタノールですと30分くらいで終わりますが。
回答2:2時間はかかります。その分被爆も多いと推察されます。今後は、中枢側をバルーン閉塞してパウダーにしてみてもよいかな。と。個人的には思っています。

質問3:NBCA+コイル塞栓は結構、いいですよ。ただ、NBCAだとmigrationしうるのでコイリングが必要ですが。(座長:東海明神先生より)
回答3:他文献の比較で残肝容積増大の点からはNBCAが有用とおもいますが正直、現時点で技術的に自信がありません。

コメンテーター(鳥取大学:神納先生)から:HCCの術前PTPEと胆管がんの術前PTPEは分けて考えた方がよいのではないでしょうか?HCCの場合は手術できなかったときにTACEかませなくてはいけないから。少なくともHCCの時は、永久塞栓物質は避けた方がよいのでは?
回答4:その通りと思います。


結局:よく育つ予測因子、画像上は今のところわからない。作原先生の小さい方がよく育つ事だけは分かっている。
 
 
以下それぞれについて記載いたします。
(①PVP vs BKP ②B-glue ③ Beads ④Ⅱ型エンドリーク ⑤内臓動脈瘤 ⑥外傷IVR ⑦他)

 

①椎体形成術(PVP)vs BKP vs 骨穿孔術の住み分けと使い分け

 シンポジウム:
 BKP(浜松医大整形外科・戸川大輔先生)の主張:脊椎外科医はその患者さんの脊椎を患者様が死ぬまで見ていく覚悟で異物(セメント)を入れている。なので、異物であるセメントを絶対にリークさせたくない。BKPはセメントがリークしない点や椎体高が確実に上がる点が利点である。しかし、施設が限られる、全身麻酔が必要の点で敷居が高くなってしまう。また、BKPは術者によって結構レベルの差がある。

PVPだとセメントの分布の予測がつかない。のが、欠点と思う。

異物をいれるとその次の治療(アラインメント矯正・ネジ入れられないなど)がやりにくくなる。PVPをした患者様も結局は整形外科を頼ってくる。脊椎のプロじゃない人が安易にPVPを行う事を非常に懸念している。PVPの適応を厳密に判断してその後も継続してfollowするのが重要。と強調されていた。

技術的な点についていうと、BKPの場合、セメントは半固形でいれる。(一方、PVPは液体でいれる)という大きな違いがある。

骨穿孔術(長野赤十字病院第一麻酔科・荻原正洋先生)~新鮮骨折で骨髄浮腫主体で圧が高そう、椎体高保たれている症例が良い適応。二針法で圧ぬきしっかり。嘘かと思うくらいホントに効くらしい。異物はのこらなく合併症はないが、制動効果はなので、グラグラ・cleft(+)なのは効かない。

結論)それぞれの手技の適応についてしっかり吟味しましょう。責任をもって治療しましょう。疼痛が骨折によるものなのか、しっかり判定することも大切(変形によるものも実は多い。体動時痛かどうか?圧痛レベルも参考になる。)
 
  

②B-glue

 
(ランチョンセミナー6:バルーン閉塞下NBCA塞栓術の現状:聖マリ:濱口先生、東京ベイ浦安市川医療センター:不破先生、東海大学:小泉先生)
Bglueだと、NBCAがオニキス的な動態をしめす。じっくり末梢まで到達させられる。よって、細い血管の他、PTO、high flow AVF等も十分に確実に充填できる。しかし、中枢側でバルーンにしっかりくっつくくらい圧入してしまうと、さすがにバルーンカテが抜けなくなる。この点は注意しなくてはいけない。小泉先生はコイルとの併用で、内臓動脈瘤でコイルの本数が少なくできますよ、という症例を提示されていた。

個人的にはコイル塞栓でもいいのでは?という症例にも手をつけている印象をうけた。

 

③Beads

 
(ランチョンセミナー3:ビーズ上陸への心構え:国立がんセンター中央病院荒井保明先生)
粒、弾性係数、血流、で塞栓レベルが異なる。使用感も商品によって異なる。粒は全く透視ではみえないので、初心者になったつもりで適切に使用してください。(誤塞栓のリスク高)との事。今年末から来年初めには確実に使用できるようになる。(施設基準、術者制限は今のところないもよう。)

 

④Ⅱ型エンドリーク

 
シンポジウム:
治療適応:persistent(6か月以上持続)のもの:1年/5mm瘤径拡大。で大体一致
1)
聖マリ:治療したn=29回 6症例再開通、19例が(inflowのブランチのみの塞栓)new feeder出現。
2)
沖縄県立中央病院:6か月以上リークが続くもののうち40%が拡大する。(2007JVIRより)。よって、適切な時期に適切に治療するのが大切と思う。同施設において、IMA16例、iliac-lumber13例施行。→不十分に塞栓したら半分再発した。In-sac-outつめたら、再発ゼロ。Dynamic CTでは何型エンドリークなのが分かりにくいこともある。(開窓付ならなおさら)混合型もある。診断も重要。
3)
獨協医大:Ⅱ型エンドリークの頻度8~45%or30~40%と報告は色々。この内、半分は自然消失。半分はpersistant。
Direct punctureも積極的に施行している。10例/年 sac内にしっかりマイクロいれてしっかり造影できるのが利点。Inflow outflowもしっかりglue+coilで塞栓。2006~2012年TAE23人30回 19人中11人で再発した。6人で再治療
→しっかり詰めることにした。回転DSAも併用すると、in outの把握を立体的に確実にできる。Triaxial system(東海メディカル)はシステムが安定しているので蛇行していても末梢側まで確実にカテを進められる。
4)
大阪大学or東海大学:手技のコンセプト「瘤内部の奥までしっかり入れて瘤内の塞栓。Inflow、outflowをきっちり確認し、瘤内をしっかり詰める。Outflowも詰める、sacを詰める inflowを詰める。」手技的成功率:90%(18/20)clinical success78%(14/18)
5)
慶応 4DCT 血管造影前にinflow outflowの動態がほとんどわかりかなり有用。実は混合型も結構ある。(ⅠとⅡ、ⅡとⅢ)。Ⅱは遅く描出されてくる。今後は被ばく低減(200mSv)とプロトコールの最適化が課題。

結論:瘤内のsacにきちんといれて、しっかり造影。エンドリークの動態(inflow out flow)を把握して、両方しっかりつめると再発がない。NBCAは1:1~1:6までいろいろ。Sacまで到達できないときは1:6とかで(聖マリ)薄目にする。sacへ確実に到達するためには、Triaxial systemも有用。


口演発表0-192東海大学・森先生: 分枝2.5mmが責任血管とする一つの目安 
口演発表0-194 山口大学・岡田先生:頻度32例/112 28.5% IMAによるもの20例(17.9%)壁在血栓多い人はエンドリークの発生・増大が少ない。(血栓が防波堤になるからかもしれない?)
口演発表0-196 熊本大学 田村先生:2001~2012年 EVER324人のうちⅡ型エンドリークで治療した人12例(3.7%)瘤内いれてIn flow out flowを1:3で塞栓できたものを成功とする。成功例9例(75%)は全く再発なし。Feedingのみ3例→2例再発(一例は全部詰められてこれも再発なし。)。

結論:in out sac まできっちり詰めましょう。
 

⑤内臓動脈瘤

ワークショップ:
他施設での治療適応について。アーケードの動脈瘤と腹腔動脈ステントの治療戦略について。現状を確認してきた。
Isolation+packingの時NBCAを併用しコイル数減らす施設が結構ある。ステントとバルーンアシスト→使い分けは意見が分かれる。が、基本的には無理してステントおかない(抗血小板薬内服必須になる為)。バルーンアシストを積極的に施行している施設は意外に少ない印象。特に脾動脈瘤に関しては躊躇せずisolation+packingしている印象。(脾梗塞もそれなりに起きているが。)
Followは造影MRIが基本。Coil impactionが考えられれば血管造影。これは納得。

熊本大学での治療戦略:neckは1/2以下で瘤内packing(バルーン・ステントアシスト)。Neckが1/2以上ではisolationが基本。この際末梢虚血の確認の為バルーンテスト必須。ステントは薬剤服用必須、血栓のリスク↑ので、なるべく入れたくはない。

⑥重症外傷におけるIVR。IVRとdamage controlは重症外傷治療の両輪である。

特別講演:東北大学救急医学教授:久志本先生
重症外傷の病態と治療戦略につき、ご自身の経験を踏まえてわかりやすく講義いただいた。
外傷死の病態と対策:即死(これは予防しかない)、中期(48hr以内。ここは主に出血が関与:われわれ:救急医・外傷外科医・IVRistはここをターゲットとする)、数日(sepsis、MOF:ICU的要素強い。)

*死の3徴 低体温、アシドーシス、凝固障害

外傷の治療:①止血②損傷部位を同定③汚染予防(ここまでがDCS(damage control surgery)の目的)、④再建(後でよい)。とりあえず③まで速やかに行い、ICUにいれて復温・全身管理に持って行って、非可逆性の凝固障害→死の流れを食い止める。
実は、外傷そのものが凝固を狂わせる。との事。(特に脳、消化管粘膜、胎盤、肺は凝固因子多く、この部位の損傷は全身の凝固障害を起こさせやすい。)重症外傷による凝固障害の原因は輸液・輸血による希釈性因子のみではない。
DCIRという概念(DCSのIVR版)が出てきている。とりあえず、何とかかんとか出血をコントロールして、被害を最小限にとどめる。(とどめないと非可逆性になる)9割の遅い治療より6割の早い治療がよい。スピードが命。

久志本先生が考えるIVRが特に有用な損傷:
①DCSではコントロールしにくい動脈性肝損傷C.f)Packingは門脈・静脈系に有用。②血胸:多数肋間にわたる胸壁損傷。Cf)肺損傷はopeへ。(この場合CTでair leak+)多数肋間にわたると外からだと出血点がわかりにくい為。
③ショックを伴う後腹膜出血、腹腔内出血 
④DCS後の持続性出血
→重要なのは、科間の垣根を越えて共通認識を持つこと。(この際のリーダーは救急医)外傷診療は刻々と大胆に判断・治療戦略が変わっていく。短時間のコックピット作業。
ここをいかに救急医が上手く操るかが外傷診療の醍醐味。

シンポジウム:外傷のIVRを考える。
北里大学・かしみ先生:骨盤のみ不安定でショック→両側5Frシースを初療室でいれてしまう。DCIRにのっとって5分+5分で両側内腸骨つめ。術中のFASTも重要。(はじめはFAST-で骨盤のみと思っていても腹腔内出血が途中ではっきりしてくることがある。)

⑦他発表で興味深かったもの。

O145:日本医大山口先生:SMA解離におけるステント治療について。
適応:症状あるも保存的に収まればよい。が、CTで拡大したり症状が遷延するもの。ベアステント(8×80mm LUMINEX)で真腔を広げるのみで偽腔も閉塞してくる。(半年後には)24例 19例保存治療でよくなる。5例ステント入れた ベアでも偽腔の血流が自然とへる。

ポスター:聖マリ:骨盤AVMをB-glueで上手に塞栓していた。(コイルで一本化したあとB-glueでほぼnidusの完全塞栓。)



以上です。ここまで長文を読んでくださった先生(一体何人いるのでしょうか・・。)はIVRに興味がある方と認識いたします。
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。
 
   
 
 
 
  
  
  
 
 
HOME > 研究活動 > 2013 > 宇佐見 陽子

研究・研修活動

 
活動報告


研究業績