札幌医科大学医学部 麻酔科学講座 │ 安全で質の高い麻酔科医療の提供、世界に通用する麻酔科医の育成

救急 / ICU

救急

Beyond the operation room 〜手術室から勇気を持って打って出る為に〜

札幌医大の初代教授のエピソードでこんな話を聞いたことがある。
とある地方病院から麻酔科医の派遣を依頼された。その病院は、麻酔科医は1人だけ欲しいと考えていたようだが、教授はそこに3人派遣した。教授は彼ら3人に「手術麻酔をするだけでなく、ICUも立ち上げろ」と命じてその病院へ送り込んだとのことだった。
真実は定かではないが、自分はこの話が凄く好きだ。そしてこれは札幌医大麻酔科の歴史と信念を象徴するエピソードだと勝手ながら思っている。

近年、救急医と言うポジションが社会的コンセンサスを得て行くまで、北海道においては札幌医大の麻酔科は救急・集中治療領域において、各地の救命センターで最後の守り手となっていた。手術麻酔は勿論のこと、3次救急や集中治療、ドクターヘリや災害医療まで、非常に広い領域を、札幌医大麻酔科はカバーしていた。

今では麻酔科のサブスペシャリティとなると、「心臓血管麻酔」「末梢神経ブロック「小児麻酔」「産科麻酔」といった分野に枝が広がるが、自分が医局説明会を受けた頃はサブスペシャリティとして、「救急」「集中治療」「緩和」「ペイン」と言う4本柱が紹介されていた。当時の医局長は「関連病院は医局の宝です」と何度も言っていた。ある時は救急医として、ある時は手術麻酔医として、ある時は集中治療医として活躍出来、多くの場面で自分達を鍛えられる各地の関連病院を「宝」と表現していた。「病院前から術後のICUまで全て我々が一貫して診る」というのが、札幌医大麻酔科の矜持なのだと諸先輩方の働きぶりを見て肌で感じたものだった。

救急医学を勉強すればするほど、麻酔科学とはかけ離れた分野だと思うことが良くある。
医局を跨がって両者の立場を経験させてもらったが、勤務時間でやっていることが救急医と麻酔科医ではまるで違う。
それでも、麻酔科医に救急の素養が必要であることはやはり疑いがない。
Miller麻酔科学の内容の約2割は救急・集中治療領域であり、その中には災害医学やPrehospitalに関する記載があるし、専門医試験では必ずと言って良いほど心肺蘇生のスキルを要求される。
欧州の先進国の中でも、救急医がいないので、重症患者が来るときはまず麻酔科が呼ばれるという国が存在する。

実際、手術室で患者を待つより、救急外来や病棟まで麻酔科医が足を運んで蘇生を始める方が遥かに良い結果を得られることはしばしば経験する。重症外傷であれば麻酔科医は間違いなく患者蘇生の一翼を担う。麻酔はあくまで手段であり、outcomeは「患者の蘇生」と「よりよい転帰」なのだ。麻酔科医が救急・集中治療の素養を得ることは患者のoutcomeを改善する規定因子であると確信している。

近年、お隣の救急医学講座と麻酔科学講座の二つの医局の関連病院が重複して来たことで、各地の救命センターで蘇生の場面でタッグを組むのをしばしば経験出来るようになった。
手術麻酔も救急集中治療も、高度化してきた事で両立が困難になって来ていることは事実だろう。
だが、ちょっと垣根を越えれば頼りになるお手本がすぐそばにいるという現在の環境は、麻酔科医でありながら救急医としての素養を身につけられる大きなチャンスとも言える。これもまた、関連病院という宝を多く抱えた札幌医大麻酔科の魅力と言える。

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