平成29年(2017年)理事長・学長年頭挨拶

理事長・学長 塚本 泰司

理事長・学長 塚本 泰司

 平成29年1月4日、仕事始めにあたり、本学臨床教育研究棟1階講堂において、塚本 泰司理事長・学長より、本学教職員に向けた年頭の挨拶を行いました。
 塚本理事長・学長は、学生教育や臨床研究などの取組や施設整備、臨床研修センターや附属病院の経営に関すること、法人の認証評価など大きく6つの項目に分けて本学の課題について話し、新年の抱負を述べました。
 年頭挨拶の内容については、次のとおりです。


—平成29年 理事長・学長年頭挨拶—

 皆様、明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願い致します。
 本年も大学教職員の皆様、学生の皆さん、同窓生の皆様にとって良い年であることを願っております。
 昨年12月初旬からの、例年にない大雪で、航空機、JR、バスなど交通機関がマヒするような日がたびたびありました。
 北海道の各地あるいは道外からの方々も、大学で予定した行事に、欠席を余儀なくされるなどの影響も出ました。異常気象の余波を受けている感じがあります。大学の前の南1条通りの道路脇の積雪も2メートルを遥かに超え3メートルに迫る勢いです。もうこれ以上の降雪は遠慮願いたいものです。
 幸い、年末年始期間は穏やかな日が続き、何よりでした。皆様は、この年末年始の休暇を有意義に過ごされたものと思います。

 さて、昨年4月に本学の理事長・学長を拝命して9か月が経過しました。周囲の教職員の方々に支えられながらの9か月でした。就任後に実施を考えていたこの大部分は、手を付け始めたばかりで残念ながら目に見えるものになっていません。内心忸怩たる思いもありますが、この9か月の反省を踏まえ、今後の大学の運営に関する考えを皆さんと共有したいと思います。
 昨年4月の就任の際に、教職員の方々に私は、困難な道ではあるが、これまで本学が歩んできた「地域医療への貢献」と「医学・医療への攻究」という道を一層確かなものにしたいという思いを表明致しました。これまでの9か月はその実践のために何が必要かということを確認する時間でもありました。その結果、大学運営上、一層の工夫が必要な課題などがある程度認識できたと思っています。今年は、そのような問題点の解決あるいはその糸口を見出すように努力したいと思います。
 
 以下、教育・研究に関する事項として研究支援体制、新棟への移転準備、教養教育につて触れます。ついで、臨床に関する事項とし臨床研修センターおよび病院運営に関し、最後に大学運営に関連する事項として法人の実績評価および認証評価受審に向けた自己点検・評価を取り上げます。これらの事項の課題とその解決に向けての方針を述べたいと思います。

「研究支援に関連する体制の見直しに向けて」                                                                   
 まずは、研究支援体制の見直しについて触れます。本学は、「地域医療への貢献」と同時に「医学・医療の攻究」を建学の精神に掲げこれを実践してきました。その成果の1つが、昨年12月23日に竣工式を行ったニプロ株式会社の再生医療研究開発センターです。神経再生医療科・整形外科を中心としたチームの、これまでの研究成果が高く評価された結果と言えます。
 北海道、札幌市、さらには公的機関の資金援助を受けて進めてきた骨髄間葉系幹細胞治療の研究開発と細胞治療薬を製造する施設がここに完成しました。産・官・学の力が見事に結集した成果であると思っています。
 しかし、研究を取り巻く環境は研究助成資金あるいはその枠の減少など、次第に厳しくなってきていることは日々実感しているところです。企業からの本学への奨学寄附金も極端に総額が減っているわけではありませんが、これまでとは異なり競争的資金の様相を呈してきています。もちろん、このような競争的資金獲得に積極的に取り組んでいくことは不可欠で、これをなくしては十分な研究も進めることができないということになります。本学としても、あらゆる手立てを通じて研究資金の獲得に努めるつもりでおりますが、なかなか思うようにいっていないのが実情です。
 一方、講座あるいは診療科によっては積極的に研究資金を獲得しているところもあります。こういった状況を大学として、ぜひサポートして外部からの資金をできるだけ多く獲得することを考えていかなればなりません。その際問題になるのは、本学の研究サポート体制の在り方です。時代にマッチしたものにしていく必要があります。この点についてはこれまでも、いろいろな対策を立ててきました。現在ある産学・地域連携センターの設置もその1つです。先に述べた神経再生に関する研究成果にはこのセンターも寄与していたと考えています。
 現在のサポート体制を増強するためには、いくつかの問題を解決する必要があります。本学として臨床研究を一層推進していくためには、自主臨床研究を含めて包括的なサポート体制が欠かせません。そのため、仮称ではありますが、臨床研究支援センターを設置し、その中に研究開発のマネジメントをはじめ、統計・データーマネジメント、教育・品質管理などのセクションを配するような体制が望ましいと考えています。もちろん、そこには専任の教員配置も欠かせません。このようなシステムを構築することで、各診療科・講座の自主臨床研究がさらに研究しやすいようになり、さらに外部資金を獲得できるようなものに結び付いていくという事に期待しております。
 今ある大規模な医師主導治験は、基本的には自主臨床研究が発展したものです。したがって、外部資金を獲得できるような良質な医師主導治験が出てくるためには、良質な自主臨床研究がなければなりません。その意味でも、このような臨床研究を強力に支援する体制造りが必要であると考えています。もちろん、この体制造りには教員配置や組織全体の大幅な改組も必要になりますので、来年度には形にしていきたいと考えています。

「教育研究棟の建設に関連する課題に向けて」
 次に、新棟への移転準備についてです。教育研究棟の建設も順調に推移し、予定通りの移転が可能のようです。移転に当たっての各種備品整備も具体的になってきます。基本的な整備は北海道からの支援を受けて行うことになります。道の財政も、昨年の大雨災害への対応などで厳しい状況にあると聞いていますが、関係部署と協議しながら、大学にとって有益になるよう進めたいと思っています。
 島本前学長の昨年の年頭のご挨拶の中でも、両学部の新棟移転に関しては、「目的積立金のさらなる投入も視野に入れ」と述べられています。具体的な状況を考慮しながら、今後その都度検討していくつもりです。

「教養教育に関連する課題の解決に向けて」
 3つ目は、教養教育に関連する課題解決に向けての対策です。
 学生教育、特に教養教育の改革に関しては、島本前学長の下でこれまでも教職員の方々にご協力いただきながら進めてきたところです。
 医療人育成センターのあり方については、教養教育研究部門と教育開発研究部門の役割を、人員も含めて慎重に検討してきました。できるだけ早期に最終結論を出すつもりでいます。
 何より、学生に「医療者として最も適切な教養教育を行う」こと、これが最大の目標です。最近の言い回しを使うと、学生に対する教養教育ファーストです。このことを念頭に置いて、大学、教員の方々に協力頂き、よりよい体制を作っていきたいと思います。
 
「臨床研修センターの機能拡充に関連する課題の解決に向けて」
 臨床に関する事項として、まず、臨床研修センターの機能拡充について触れたいと思います。
ご存知のように、保健医療学部の入学者の大部分は北海道の高校卒業者であります。一方、医学部では一時はその割合が低下し危機感が持たれていました。幸い、平成25年からの北海道医療枠の設定により北海道内の高校から本大学に入学する割合も増加し、昨年度はその割合がほぼ80%となり当初の目的を達成している感があります。建学の精神に貢献するためにもこういった方法も考えていかなければなりません。
 今後は卒業後の初期研修もさることながら、その後の医師のキャリアパスを考慮したきめの細かいサポート体制が必要と考えています。特に特別枠の学生に関しては、北海道の指定した病院に行くわけです。大学としてこれらの学生のケアを十分投与することが必要だと考えます。初期臨床研修の機能ばかりでなく、その後の医師のキャリアをサポートするセンターを考えており、専任の教員の配置するということもこれから行っていかなければなりません。
 これは、看護キャリア支援センターに匹敵するものと考えてもらって結構です。この看護キャリアセンターは看護部、保健医療学部が非常に力を投入して頂き、今年も札幌あるいは地方の都市に出向いて色々な看護師のキャリアをサポートしてきたという実績があります。北海道としても非常に喜ばしいことであると、お褒めの言葉をいただいているところです。そのため、現在の臨床研修センターの機能を拡大し、さらには専任の教職員を配置した医師キャリアセンターともいうべき組織を考えています。

 このようなセンターを配置する理由は以下の通りです。
 まず、本学の卒後初期臨床研修プログラムに参加する本学卒業生の割合をどのようにして増加させるのか、という点は大きな課題です。平成29年度の本学卒業生の参加人数27名(他大学卒業を加えると33名)は少なすぎる印象があります。専門医研修時に大学に戻ってくればそれで十分という考えもありますが、定員充足率が50%以下というのはやはり再考しなければならない点と思います。
 こういったことをキャリアセンターを通して底上げしたいと考えています。
 また、新専門医制度への対応も考えると、この研修を本学で受ける医師の絶対数を増やす必要があります。大学として、初期臨床研修以降のサポート機能も持たせることが必要になってきます。
 今ある臨床研修センターを拡大して、キャリアセンターという形をとりながら、ぜひ医師のキャリアアップにつなげていきたいと思います。
 なお、先述した先行する看護キャリア支援センターは、看護部、保健医療学部の協力を得て順調に経過しています。看護師、助産師の再教育あるいは地域での教育活動など目に見える成果を上げています。本学が果たすべき地域貢献の一端を担っていただいていることに感謝いたします。

 「附属病院の経営に関する課題の解決に向けて」
 次は、病院の経営についてです。
 附属病院の収益は、診療報酬の改定などの影響を受け、厳しい状況が続いています。平成27年度は、法人全体として、経常利益は9,400万のプラスとなりましたが、病院単体では2,500万のマイナスでした。 
 平成26年度も消費税増税などの影響を受け厳しい状態にありましたので、中期計画の2期目に入ってからは同様の傾向が続いています。これは診療報酬の改定が大きく影響している事ではありますが、全部の病院に影響されることであって、本学だけのことではありません。平成28年度は、これまで以上に病院収支が落ち込むことが予想され、法人の当期総利益は2億円程度の減益が見込まれています。今年度は入院・外来単価ともこれまでにない増加を示していますが、入院・外来の患者数減少を埋め合わせるまでには至っていません。
 そのため、全く不本意ではありましたが、臨床系講座の教育研究費の一部執行保留(当初予算比▲15%)を実施いたしました。臨床系の先生方には誠に申し訳なく思っています。病院長、経営管理部長などが日々教職員の方々にその状況を訴えていると思います。病院としても増収増益に向けた方策を考えてきていますが、残り3か月の一層のご協力をお願いする次第です。 
 なお、附属病院の経営改善策の一環としてこれまでとは違った面からの病院の経営を見直すことも必要と考えています。
 これまで、機会あるごとに述べているように、附属病院の上位目標は利益を出すことではありません。しかし、適切な病院の収益、適切な利益確保は大学あるいは附属病院の次の事業を展開する上では不可欠です。なぜ必要かというと、これが確保できないと病院の次の事業がなかなかできないという事です。大学法人予算の70%以上は病院の収益からなっています。どうぞ、これらの点をご理解いただければと思います。
 繰り返しますが、利益を出すことは上位目標ではありませんが、適切な利益と適切な収益は、病院・大学を運営するために、ぜひ必要だという事を御理解ください。

 次は、展望のあるお話しをしたいと思います。国際交流に関するものです。本学では昭和52年からフィンランドをはじめとする世界の大学と交流協定を結び研究者の派遣・受け入れを行ってきました。平成11年からは、学生のアルバータ大学での語学研修も始めています。しかし、時代の推移とともに国際交流の在り方も変化しています。昨年は、マサチューセッツ州立大学との協定延長に関してもこれまでとは違った形での協定締結が必要になりました。国際交流部長の當瀬教授のご尽力で継続が可能になりましたが、今までやってきている国際交流に加えて、さらにどういった交流が可能かと考える節目だと思っている。 
 幸い、北海道がハワイ州と提携することを正式に表明しております。本学としてもハワイの州立大学と本学で何か交流できないかと、現在検討しております。国際交流をさらに推進し、国際的な医療・保健の研究あるいは臨床を促進する観点から、北海道の動きを踏まえながらハワイ州立大学との交流の可能性を探っていきたいと思っています。

 「法人の実績評価および認証評価受審に向けた自己点検・評価に関連する課題」
 最後に、法人の実績評価および認証評価受審について述べ、新年の挨拶を終了したいと思います。
 大学法人第2期:平成27年度の評価結果が示されました。過去2年間の実績に対するものと同様に高い評価であり、A評価(達成度90%以上)以上は全110項目中110項目(100%)でした。また、法人全体の平成27年度総利益も目的積立金とすることが北海道から認められました。この間の教職員の皆様のご協力に感謝する次第です。
 認証評価受審に向けた自己点検・評価も昨年12月までに評価報告書の大筋が完成しました。概ね良好な評価結果が得られたと考えていますが、一部の項目で本学の取組が不十分な点も明らかになりました。今年はいよいよ認証評価を受けることになりますが、この評価結果を踏まえて本学の教育・研究などの質の向上に、引き続き務めて行く必要があると考えています。
 これとは直接関係するわけではありませんが、「学生支援」に関連して「保健管理センター」の充実が必要であると改めて考えています。このことは就任時にも触れたところですが、専任の医療職の配置が不可欠と思っています。
 また、現在国においても検討されている就学支援について、本学としても給付型の奨学金制度などに向けた就学支援基金を創設することなども考えています。

 最後になりましたが、本学を最高レベルの医療の知を集めた「医の知(いのち)の殿堂」としたいと思っています。本学のさらなる発展へのご協力をお願いし、新年の挨拶といたします。
 今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。


平成29年1月4日
北海道公立大学法人札幌医科大学 理事長・学長 塚本 泰司