【研究発表】小型肝細胞の元となる前駆細胞の長期間培養法の確立

ラット成体肝臓からの肝前駆細胞の分離と生体外増幅・分化誘導による機能的肝細胞の創生

<研究の概要>
 札幌医科大学医学部附属フロンティア医学研究所組織再生学部門 大学院生・石井雅之(現消化器・総合、乳腺・内分泌外科学講座)らの研究グループ(教授 三高 俊広)は、健常ラット成体肝臓に存在している小型肝細胞の前駆細胞を同定し、継代培養可能な長期間培養法を確立しました。
 初代培養した小型肝細胞を抗CD44抗体で分離し、Matrigelを塗布した培養皿で無血清培養すると、アルブミン分泌能など基本的な肝細胞機能を持ちながら増殖し、娘細胞を供給しながら幹細胞としての機能を維持する細胞が出現することを見出した。継代可能で2ヵ月以上増殖し続けるが、不死化はしなかった。その細胞は、CYP活性や胆汁分泌能を持つ成熟肝細胞へ分化誘導することができ、移植モデルラット肝臓へ移植すると、肝臓内に生着して増殖し肝細胞に分化する。一部の細胞は細胆管細胞にも分化した。この結果は、肝細胞を体外で増幅する手法を確立に繋がる。
 この研究は、本学医学部 鈴木拓(分子生物学教授)及び二宮孝文(解剖学第一講座准教授)との共同研究であり、文部科学省科学研究費補助金のもとで行われました。その研究成果は、国際科学誌Scientific Reportsの2017年4月号に掲載発表されました。 

Masayuki Ishii, Junichi Kino, Norihisa Ichinohe , Naoki Tanimizu, Takafumi Ninomiya, Hiromu Suzuki, Toru Mizuguchi , Koichi Hirata & Toshihiro Mitaka
Hepatocytic parental progenitor cells of rat small hepatocytes maintain self-renewal capability after long-term culture
<研究のポイント>
● 肝臓は、血漿タンパクの合成や薬物などの解毒、胆汁分泌など多くの代謝機能を持つ、生命維持に欠かせない臓器です。
● 現在、致死的肝疾患患者に対する治療法として、肝臓移植が行われていますが、絶対的なドナー数不足などの問題があるため、新規治療法として肝細胞移植に期待が寄せられています。
● 重篤な肝疾患を治療するためには、機能的な肝細胞を補うことが必要ですが、成熟肝細胞を生体外で増やすことはとても困難でした。
● ES/iPS細胞や多能性幹細胞などから肝細胞様細胞が誘導されていますが、腫瘍化の懸念や肝細胞機能が充分発達していない場合が多いなどの問題点があります。
● 小型肝細胞は高い増殖能を持ち、効率よく機能的な肝細胞に分化する能力を持っていますが、継代培養が出来ず、長期間の培養ができませんでした。
● 本研究で、CD44陽性小型肝細胞中にマトリゲル(Matrigel)依存的に増殖可能な、小型肝細胞を供給する親にあたる細胞が存在し、その細胞は継代培養が可能で娘細胞として肝細胞を供給することを見出しました。この方法により肝細胞を増幅させることが可能になりました。
● 長期間培養後にも、成熟化誘導すると、グリコーゲン産生能やCYP活性を回復でき、毛細胆管網を形成し胆汁分泌能を獲得するようになることから薬剤スクリーニングに用いる細胞としても利用できる可能性があります。
● 移植モデルラット肝臓に脾臓経由で移植すると、生着増殖し肝細胞に分化します。
● 以上のことから、肝細胞を生体外で大量に作出するための培養法を確立できました。
図 ラット肝臓の小型肝細胞の継代培養と移植モデルラット肝臓への細胞移植

図 ラット肝臓の小型肝細胞の継代培養と移植モデルラット肝臓への細胞移植

<研究の背景・実施期間など>
 肝臓は再生能力の高い臓器として知られており、肝臓の2/3を切除しても、10日程でほぼ元の大きさに回復します。しかしながら、慢性的に障害された肝臓では成熟肝細胞の機能が低下し、再生能力も悪くなります。外から機能的な肝細胞を補充することができれば、肝疾患の治療に繋がると考えられますが、成熟肝細胞は生体外に取り出すと、増殖せず急速に分化機能を喪失することが問題でした。iPS細胞やES細胞からの肝細胞への分化誘導が報告されていますが、腫瘍化の制御や肝細胞機能が充分ではないなどの問題があります。
 我々は、従来から肝臓に存在する前駆細胞(小型肝細胞)に着目し研究してきました。小型肝細胞は増殖能が高く、凍結保存可能なことから細胞移植のソースとして有用であると考えていましたが、唯一の弱点が細胞を播き直して増やし続ける、継代培養ができないことでした。今回、ラットを用いて、高い増殖能と肝細胞機能を安定して長期間維持する小型肝細胞の培養方法の検討を試みました。

<研究の意義・これからの可能性、今後への期待、今後の展開など>
 小型肝細胞の親に相当する細胞を同定し、生体外で機能的肝細胞を増幅することが可能になりました。ヒト肝臓にも小型肝細胞が存在していることはわかっているので、本法と同様に増殖能の高い前駆細胞をヒト肝臓組織片から分離・同定することができれば、薬剤スクリーニングや細胞移植に用いることが可能な機能的なヒト肝細胞を大量に作出できる可能性があり、ドナー不足の解決に繋がると考えています。

<本件に関するお問い合わせ先>
所属・職・氏名:札幌医科大学医学部附属フロンティア医学研究所組織再生学部門・教授・三高俊広
TEL:011-611-2111(23900)          
FAX:011-615-3099
E-メール:tmitaka☆sapmed.ac.jp ※ ☆印を@に変えて送信してください。
 

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