【研究発表】成熟肝細胞の元となる細胞をマウスで同定

健常なマウス成体肝臓からの肝前駆細胞の分離と生体外での増幅・分化誘導方法を用いた機能的肝細胞の大量調整

札幌医科大学医学部附属フロンティア医学研究所組織再生学部門 准教授・谷水 直樹らの研究グループ(教授 三高 俊広)は、健常なマウス成体肝臓に存在している肝前駆細胞を、ICAM-1(+)EpCAM(-)細胞として同定しました。

FACS(細胞分離装置)を用いて分離したICAM-1(+)肝細胞は、in vitroで長期間、安定に培養することが可能で、分化誘導すると代謝機能やCYP活性を持つ成熟肝細胞へ分化することが確認されました。
また、肝臓へ移植すると、肝臓内に生着して増殖し、成熟肝細胞になることが分かりました。

この研究は文部科学省科学研究費補助金のもとで行われたもので、その研究成果は、国際科学誌Stem Cells(ステムセル)の2016年12月号に掲載発表されました。
Stem Cells:Volume 34, Issue 12,December 2016 ,Pages 2889–2901
 URL: http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/stem.2457/full 

研究のポイント

  • 肝細胞は、多くの代謝機能を持ち生命維持に欠かせない細胞です。
  • 重篤な肝疾患を治療するためには、機能的な肝細胞を補うことが必要ですが、成熟肝細胞を生体外で増やすことは困難です。
  • 万能性幹(ES/iPS)細胞から肝細胞が誘導されていますが、肝細胞機能が充分発達していない場合が多いという問題点があります。
  • ICAM-1(+)肝細胞は、高い増殖能を持ち、効率よく機能的な肝細胞に分化する能力を持っています。
  • 長期間培養後にも、高いCYP活性を誘導することができるので、薬剤スクリーニングに用いる細胞としても利用できる可能性があります。
  • 成熟肝細胞を生体外で大量に作出するためのソースとなる細胞を同定できました。

研究の背景

肝臓は再生能力の高い臓器として知られています。生体肝移植でも応用されているように肝臓の2/3を切除しても、10日程でほぼ元の臓器サイズを回復します。しかしながら、慢性的に障害された肝臓では、再生能力が低下し、成熟肝細胞の機能も低下しています。機能的な肝細胞を補完することができれば、肝疾患の治療に繋がると考えられます。
成熟肝細胞は生体外に取り出すと、増殖せず、急速に分化機能を喪失します。肝内および肝外の幹細胞をソースにして、生体外で肝細胞を調整する試みが行われてきています。iPS細胞やES細胞からの肝細胞分化誘導が報告されていますが、その肝細胞機能は充分とはいえません。
我々は、従来から肝細胞自身の増殖能に着目してきました。今回、マウスを用いて、高い増殖能と肝細胞分化能を安定して維持する細胞の同定を試みました。

研究の意義・今後の展開など

健常な成体肝臓に、成熟肝細胞の元となる細胞が存在することを証明し、生体外で機能的肝細胞を増幅することが可能になりました。ヒト肝臓にも増殖可能な肝細胞が存在していることはわかっているので、今回と同様に増殖性の前駆細胞をヒト肝臓組織片から分離・同定することができれば、薬剤スクリーニングや細胞移植に用いることが可能な機能的なヒト肝細胞を大量に作出できる可能性があります。

お問い合わせ先

札幌医科大学 医学部附属フロンティア医学研究所組織再生学部門 准教授 谷水直樹
※連絡先電話番号・メールアドレスは、上記PDFに掲載。

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