研究内容(日野)
		
		 がんは、遺伝子の変異などによって細胞周期制御が破綻し、細胞が無秩序に分裂することで起こります。正常な細胞周期では、CDK4/6-サイクリンD複合体は細胞分裂後の複製準備期からDNA複製期への移行時に機能しますが、がんの中には、例えば乳癌において、エストロゲンレセプター(ER)シグナルの下流に位置するサイクリンDの発現が亢進しているものが見いだされており、CDK4/6の異常な活性化による細胞周期異常ががん化の一因と考えられています(図1)。
近年、CDK4/6を分子標的とする阻害薬が3種類開発され(abemaciclib, palbociclibおよびribociclib)、日本ではabemaciclibおよびpalbociclibがER陽性手術不能乳癌又は再発難治性乳癌の治療薬として承認されました(図1)。これらのCDK4/6阻害薬は、細胞周期停止による抗腫瘍効果を期待して開発されたもので、臨床においても画期的な薬剤として使用されています。特に、abemaciclibについては術後療法としての有効性も示され、適用拡大しています。一方、耐性の獲得による「再発」や、耐性化後の治療法、治療効果の予測因子の探索といった面で、課題も多く残されている状況です。これらの課題に対し、CDK4/6阻害薬の細胞周期停止効果以外の側面も含めた作用メカニズムの理解が求められています。
我々はこれまで、このCDK4/6阻害薬の細胞死の分子機序を解明すべく、その表現形を様々な角度で検証してきました。その中で、培養癌細胞株を用い、同阻害薬のうち、abemaciclibのみがリソソームに由来する巨大な空胞形成を誘導する事を見いだしました(図2)。この巨大空胞は、蛍光顕微鏡を用いたライブイメージングや電子顕微鏡観察から、abemaciclibの作用により、わずか30分という早い時間スケールで空胞が形成され、時間を追う毎に空胞が拡大して細胞質の大部分を占めること、空胞内には細胞内小器官の消化遺残物を含むことを明らかにしてきています(図2)。さらに、abemaciclibは細胞周期停止のみならず、アポトーシス、ネクロプトーシス、オートファジー細胞死等の既存の細胞死とは異なる形の細胞死を誘導することも明らかにしており、abemaciclibによる空胞形成は、細胞死と連動していることが示唆されています。(Iriyama , Hino et al., Leuk Lymphoma 2018、Hino et al., Cancer Sci 2020、Tanaka and Hino et al., Biochem Biophys Res Commun 2022)
	
これらの結果は、abemaciclibがCDK4/6以外の標的に作用して起きている可能性があり、標的因子の探索や、空胞形成に繋がる経路の探索を進めるべく、研究を行っています。また、空胞形成と細胞死の直接的な関係はメカニズムの観点ではまだ明らかではない点が多く残されており、ライブセルイメージング等を駆使して解明に向けた観察、検討を行っていきます。
この研究は、これらメカニズムに立脚した、がん治療における化学療法でのCDK4/6阻害薬の適用拡大や、併用薬剤候補の選択等、今後、同薬を広くがん治療に臨床応用していく上で基盤となる学術的、臨床的に重要な知見を得ること、さらに、巨大空胞形成のメカニズム因子を標的とした創薬のスクリーニング等の為の情報を得ることにも繋がり得る者と考えています。
また、ここで着目している空胞はリソソームに由来することから、その形成メカニズムに迫ることにより、リソソームの多様な機能や、その制御メカニズムの解明にも繋がるものであると考えられます。これは、リソソーム輸送調節因子遺伝子の変異を原因として白血球細胞に巨大顆粒を形成する遺伝性免疫疾患Chediak-Higashi症候群をはじめとした、いわゆる「リソソーム病」の原因、及び治療法開発にも繋がることが期待できるのではないかと期待できます。
	
	 
	
近年、CDK4/6を分子標的とする阻害薬が3種類開発され(abemaciclib, palbociclibおよびribociclib)、日本ではabemaciclibおよびpalbociclibがER陽性手術不能乳癌又は再発難治性乳癌の治療薬として承認されました(図1)。これらのCDK4/6阻害薬は、細胞周期停止による抗腫瘍効果を期待して開発されたもので、臨床においても画期的な薬剤として使用されています。特に、abemaciclibについては術後療法としての有効性も示され、適用拡大しています。一方、耐性の獲得による「再発」や、耐性化後の治療法、治療効果の予測因子の探索といった面で、課題も多く残されている状況です。これらの課題に対し、CDK4/6阻害薬の細胞周期停止効果以外の側面も含めた作用メカニズムの理解が求められています。
我々はこれまで、このCDK4/6阻害薬の細胞死の分子機序を解明すべく、その表現形を様々な角度で検証してきました。その中で、培養癌細胞株を用い、同阻害薬のうち、abemaciclibのみがリソソームに由来する巨大な空胞形成を誘導する事を見いだしました(図2)。この巨大空胞は、蛍光顕微鏡を用いたライブイメージングや電子顕微鏡観察から、abemaciclibの作用により、わずか30分という早い時間スケールで空胞が形成され、時間を追う毎に空胞が拡大して細胞質の大部分を占めること、空胞内には細胞内小器官の消化遺残物を含むことを明らかにしてきています(図2)。さらに、abemaciclibは細胞周期停止のみならず、アポトーシス、ネクロプトーシス、オートファジー細胞死等の既存の細胞死とは異なる形の細胞死を誘導することも明らかにしており、abemaciclibによる空胞形成は、細胞死と連動していることが示唆されています。(Iriyama , Hino et al., Leuk Lymphoma 2018、Hino et al., Cancer Sci 2020、Tanaka and Hino et al., Biochem Biophys Res Commun 2022)
これらの結果は、abemaciclibがCDK4/6以外の標的に作用して起きている可能性があり、標的因子の探索や、空胞形成に繋がる経路の探索を進めるべく、研究を行っています。また、空胞形成と細胞死の直接的な関係はメカニズムの観点ではまだ明らかではない点が多く残されており、ライブセルイメージング等を駆使して解明に向けた観察、検討を行っていきます。
この研究は、これらメカニズムに立脚した、がん治療における化学療法でのCDK4/6阻害薬の適用拡大や、併用薬剤候補の選択等、今後、同薬を広くがん治療に臨床応用していく上で基盤となる学術的、臨床的に重要な知見を得ること、さらに、巨大空胞形成のメカニズム因子を標的とした創薬のスクリーニング等の為の情報を得ることにも繋がり得る者と考えています。
また、ここで着目している空胞はリソソームに由来することから、その形成メカニズムに迫ることにより、リソソームの多様な機能や、その制御メカニズムの解明にも繋がるものであると考えられます。これは、リソソーム輸送調節因子遺伝子の変異を原因として白血球細胞に巨大顆粒を形成する遺伝性免疫疾患Chediak-Higashi症候群をはじめとした、いわゆる「リソソーム病」の原因、及び治療法開発にも繋がることが期待できるのではないかと期待できます。