妊娠期の葉酸過剰摂取が出生仔に及ぼす影響に関する研究

研究内容(和田)

 妊娠期における葉酸(folic acid, FA)の適正な摂取は神経管閉鎖障害の予防に不可欠ですが、その一方で過剰摂取が児の代謝に与える影響については未解明の点が残されています。私たちは、妊娠マウスへのFA過剰投与が出生仔の膵β細胞機能と肝脂質代謝に及ぼす影響を検討し、さらにその機序の一端として腸管上皮バリア機能の関与を検証しました。

まず、妊娠マウスに通常FA(2 mg/kg)または高FA(40 mg/kg)を含む食餌を投与し、出生仔について耐糖能・膵・肝の表現型を評価しました。高FA群由来の出生仔では、膵島インスリン陽性領域の縮小と、空腹時・非空腹時インスリン濃度の低下を認め、雌では軽微な耐糖能障害を認めました。雌の肝臓ではトリグリセリド含量の増加を認め、脂質蓄積に関与するPparγ2やCidecの発現上昇が生じました。これらより、胎仔期のFA過剰曝露は出生早期からのインスリン分泌能低下と肝脂肪化リスク増大に結び付くことを示しました(文献1)。

次に、このFA過剰の影響に腸管バリア機能が関与するという仮説を検証するため、妊娠期FA過剰モデルの出生仔に高脂肪高ショ糖(HFHS)食を与え、腸内発酵を介してバリア機能に作用しうるフラクトオリゴ糖(FOS)を一部置換して比較しました。FA-HFHS群では体脂肪重量が有意に増加し、FOS置換によって対照群と同レベルまで低下しました。
雌では空腹時血糖がFA-HFHSで上昇し、肝臓における脂肪滴の増加はFOS置換によって減弱しました。さらに、雄の小腸においてFOSにより杯細胞数と割合が増加し、雄の大腸ではFA群の杯細胞割合が低下するなど、性差を伴うバリア指標の変化を認めました。FOS摂取により盲腸重量と体外水素ガス排出が増加したことから、腸内発酵産物が酸化ストレス抑制を介して出生仔の代謝異常を緩和する可能性が示唆されました(文献2)。

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 現在、妊娠期のみならず、普段の生活における葉酸を含む栄養素の過剰や欠乏による生体への影響について研究を続けています。

1) Kintaka Y, Wada N, Shioda S, et al., Heylion. 2020.
2) Kintaka Y, Okuda A, Wada N, et al., 安定同位体と生体ガス医学応用. 2024.