1) 献体脳標本における死後脳所見と生前の認知機能との関連性の検討
アルツハイマー病 (Alzheimer's disease: AD) は脳へのAβやタウなどの異常タンパクの蓄積が原因とされるが、その治療法は確立されていない。これまでに、死後の脳解剖でAβやタウが過剰に蓄積し、病理学的にはADの診断であるにも関わらず、生前認知障害がみられない例が報告されている。当大学に献体された白菊会の方の脳を検索した結果 (倫理委員会承認研究)、上記のような脳病理と生前の認知機能が乖離する例が存在し、そのような症例ではアストロサイトの機能が維持されていることを明らかにした (Kobayashi, et al. Sci Rep. 2018)。現在、さらにその詳細なメカニズムを調べ、認知症予防に貢献したと考える。
2) 刺激豊かな環境での飼育が認知機能に与える効果についての検討
刺激豊かな環境 (Enriched Environment: EE) で、糖尿病モデルマウスを飼育すると、糖尿病による認知機能障害が抑制されることを報告している (Kubota, et al. PLos One. 2018)。EEとは、滑車や迷路などが設置された広い空間で、複数のマウスを飼育することにより、感覚・運動・社会的相互作用が刺激される装置である。さらにADモデルマウスをEEで飼育すると、認知機能障害が抑制されることを見出している。現在アストロサイトに着目してEEと認知機能との因果関係を調べている。
3) 骨髄間葉系幹細胞によるアルツハイマー型認知症に対する有効性の検討
当講座では、骨髄間葉系幹細胞 (Bone Marrow derived Mesenchymal Stem Cell: BM-MSC) を糖尿病モデルマウスに投与すると、その認知機能障害が改善することを見出している (Nakano, et al. Sci Rep. 2016)。そのメカニズムとして、BM-MSC由来のエクソソームがアストロサイトの炎症を改善させることを明らかにした。現在BM-MSCのADモデルマウスに対する有効性を検証しており、認知症の治療法の糸口を見出そうと努力している。
4) マインドフルネスストレス低減法による認知症発症抑制効果の検討
マインドフルネスストレス低減法(Mindfulness based stress reduction: MBSR)は、認知行動療法の1つで、禅の思想や座禅等の仏教的な瞑想から宗教的要素を除いた臨床的技法であり、うつや疼痛に有効であることが知られている。最近、MBSRが認知症発症を抑制することが報告されているが、そのメカニズムは明らかとなっていない。当講座では、大学院生の橋爪紳が中心となり、千歳市町内会の高齢者にMBSRを実施している(倫理委員会承認研究)。MBSRの前後で、認知機能や血中microRNAを評価し、MBSRの有効性のメカニズムを検索している。