退任教授・役職者

学長退任挨拶

学長 島本 和明

 学長就任後、2期6年の任期を満了して、平成28年3月31日で無事退職を迎えることができました。この間、多くの難題もございましたが、御支援、御協力いただきました本学教員・職員、そして同窓会の諸先生、学生の皆様に心より深謝いたします。この機会に、私の学長任期6年間を反省も含めて振り返りたいと思います。

1.最初の三年間~中期計画後半の遂行

 平成22年4月に学長に就任し、25年3月までは、独立法人化後の最初の中期計画の後半三年間の計画遂行に全力を尽くしてまいりました。

 学長就任時、第一の課題として取り組んだのが附属病院の赤字解消でした。平成20年度、21年度と2年度に渡って附属病院は大きな赤字を抱えており、大学の経営改善にはまず附属病院の赤字解消が喫緊の課題でした。病床利用率向上に向けて、自ら毎日のように看護部に出向いたり、全診療科の教授の皆様に繰り返しお願いして回ったことが懐かしく思い出されます。特に、臨床系の教授に会うためにアポを取ろうとするとなかなか会えないので、臨床研究棟13階から順に降りて、地下1階まで教授室回りを繰り返し行い、居ない教授のみ後で回り直すことを何回も行って、病棟利用率向上、手術件数増加をお願いしました。病院長時代の経験を活かしたやり方でしたが、臨床教授全員に会い、各診療科の教員数や臨床・研究機器の有無、あるいは大学の重要課題への意見や希望も直接聞くことができ、各教授にはご迷惑をおかけしたかもしれませんが、大変有益であったと思っております。その結果、就任一年目から10億円を超える黒字を出すことができました。

 22年度の病院の黒字のうち、10億円は全て病院に戻し、320列のCT、血管造影装置、手術室の増室と改修、各科の診療機器整備など診療環境改善と、医員や臨時職員の方々へのボーナスに1.5億円を使うなど、職場環境改善などに当てました。附属病院と大学のトイレのウォシュレット化も、この病院黒字でようやく行うことが出来ました。平成23年はやはり10億円近い資金を病院への投資に当てております。手術室改修、ハイブリッド手術、ロボット手術のためのダビンチの導入、地下の医材SPD用スペース工事、臨床第2講義室の研修医ルームへの改築などです。平成24年度も約10億円は病院に還元し、3年間で約30億円を投入して診療環境、就労環境を大きく改善することができました。この3年間で、看護師も大幅に増員しました。また、不足していた臨床工学士を含めて、他の医療現場でも定数を増加させることができました。この間、病床利用率は90%近い値を出してくれています。そのような頑張りで病院の整備ができているわけで、病院現場で大変な努力をされている全ての医療職、事務の皆様のお蔭と感謝申し上げますと共に、病院現場が頑張れば、自らの臨床・研究・就労環境を改善できることを実感していただけたことが大きな収穫であったと思っております。

 加えて、医学部、保健医療学部、医療人育成センターの研究に対しましては、23年度、24年度に渡って12億円の目的積立金をくずして、研究機器の整備にあてました。このように、附属病院へ30億円、両学部研究機器に12億円を投入しましたが、それでも中期計画の一期目前半3年間の目的積立金16億円から、学長になって前半の3年目となる第一期中期計画6年間の終了時には、更に目標積立金を4億円積み上げ、20億円の目的積立金を残すことができました。目的積立金は、中期計画終了時に、北海道と協議して、全額、大学・病院整備などに使用することで、新中期計画へ繰越しすることについて北海道の了承を得ることもできました。

 平成25年3月での6年間の第一期中期計画の評価をみますと、お陰様で、大学の運営は第一期の過去6年間、北海道の評価委員会による評価でA評価は毎年91%を超え、合格圏で終えることができました。特に最終年度は、A評価以上100%で、中期6年計画の最終年度を有終の美をもって終了できましたことは、大変うれしく思ったところです。

2.後半の三年間~新中期計画の遂行

1)新キャンパス構想実現

 平成25年度からの新中期計画ですが、私にとって学長最後の年となる27年度で第二期中期計画前半の3年間を終えました。私がもっとも力を入れて参りました新キャンパス構想では、先ず最初に、西19丁目街区の軽グラウンド跡地に体育館・リハビリ実習施設と保育所が整備され、平成26年11月に完成しました。いずれの施設も利用者からの評判がよく、順調に稼働しております。

 平成27年6月より、西17丁目街区体育館跡地に教育研究棟(施設Ⅰ)の工事が開始され、平成29年12月に完成予定となっています。この教育研究棟には学生講義室が整備され、フロンティア医学研究所と医療人育成センターなどが移ることになっており、その後、東側(病院側)に新たな教育研究棟(施設Ⅱ)、そして、現在のRIセンター(旧がん研究所)の場所に管理棟・動物実験棟の増築が始まります。

 また、保健医療学部棟の増築となる教育研究棟(施設Ⅲ)も、平成27年の夏より工事を開始し、秋には病院西棟の増築工事も始まりました。さらに、札幌市長との直接交渉により、17丁目の緑道が札幌市より譲渡されたことにより、今後は教育、研究そして診療にふさわしい空間として活用できるものと期待しております。スクラップ&ビルドにより工事を行うため、少し時間はかかりますが、ようやく新キャンパス構想が実現しつつあるところです。

 特に病院西棟(増築棟)につきましては、新キャンパス構想の当初の予定にはなく驚いたところでしたが、多くの方々の後押しもあって、病院増築も新キャンパス構想に追加され、平成27年度から工事が始まっています。病院は念願の個室の増加と、6人部屋の4人部屋化が図られるとともに、外来化学療法室や治験センター、リハビリセンター、内視鏡センター(平成28年4月から消化器内視鏡センターと呼吸器内視鏡センターとして分離独立)も整備されます。西棟完成後には、4人部屋化を含めた南棟、北棟、中央診療棟の改修も予定しており、これらの整備が進むことにより患者さんの診療、療養環境や利便性の向上など、附属病院が大きく変わるものと思っております。せっかくの機会ですので、図で新キャンパスの完成予想図を見ていただきたいと思います。今回の新キャンパス工事は、大学設置者である北海道により行われており、厳しい財政状況の中、ご支援をいただいている道庁、道議会、道民の皆様に感謝申し上げます。

 平成27年度からは医学部、保健医療学部、医療人育成センター、附属病院すべての施設で工事が行われており、外来・入院患者の皆様をはじめ、学生、教職員の方々にもご不便をおかけしておりますが、完成までの間、何卒、ご理解、ご協力をお願い申し上げます。また、施設整備に加え病院機能充実のため、平成28年度は、病棟薬剤師、臨床工学士、理学療法士等、医療職の増員を予定しております。

2)医学部改革~橋渡し研究推進

 医学部におきましては、新キャンパスを含む現在の中期計画への準備段階として、先端医学研究の橋渡し研究による応用を実践する場として、がん研究所から名称を変更したフロンティア医学研究所の7部門の教授・准教授が揃い、全部門で活発な活動をして頂いております。また内科の再編による、血液内科、免疫・リウマチ内科の診療科2科の新設も具体的に進んでおります。平成28年度にはさらに、病院ICU部門担当教授選考も予定しております。この6年間で、医科知的財産管理学、病院管理学、呼吸器外科学、放射線診断学、遺伝医学、神経再生医療学部門の新しい教室も整備されました。また、懸案であった心臓血管外科学講座の改革もできました。

 研究面では、橋渡し研究支援加速ネットワークプログラムにおきまして、本学の脳梗塞、脊髄損傷の再生医療や、癌ワクチンの研究が全国的にも大きく注目され、オーソドックスなテーマを正攻法で行っていく本学の研究が高く評価されています。本望教授の脳梗塞神経再生医療、山下教授の脊損患者の再生医療や、鳥越教授の癌ワクチン、とくに癌幹細胞ワクチンは、医師主導治験として全国注視の中、進行しております。とりわけ神経再生医療は極めて良好な臨床成績を上げております。すでに新聞報道されていますように、国の先駆けパッケージ戦略による「先駆け審査指定制度」の指定が決まったことから、保険適用も前倒しの可能性が高まり、ニプロ株式会社による再生医療研究開発センター(ニプロ札幌ビル)の建設が決まり、昨年11月に西19丁目で起工式がありました。学長任期中に起工式を迎えることができ、本当に嬉しく思っております。神経再生医療を本学の特徴ある橋渡し研究として推進するため、フロンティア医学研究所に神経再生医学部門を作ると共に、附属病院で神経再生医療科を作り、基礎と臨床を兼ねる教授職を新設、本望教授を選任したことは、その後の展開に大きくプラスに働いたものと考えております。

 多くの教室で極めて優れた基礎研究・臨床研究が行われておりますが、次のシーズ開発に大学をあげて推進することが大切と思っております。

3)保健医療学部改革

保健医療学部では、助産学専攻科も4年目を迎え、順調に推移しております。旧保育所跡地では、助産学専攻科のスペースを含めた保健医療学部棟の増築となる、教育研究棟(施設Ⅲ)の工事も既に始まっております。保健医療学部の皆さまには、リハビリ実習施設に加え、新しい教育研究棟(施設Ⅲ)、改修される保健医療学部棟に大いに期待して頂きたいと思っています。

 附属病院との協力で、リハビリテーション部での理学療法士、作業療法士の研修制度も全国に先駆けて開始し、2年目になります。平成26年4月に開設されました看護キャリア支援センターも、看護学科の協力を得て、附属病院での看護師、看護学生教育を一新致しました。附属病院看護師の多くの課題も整理されつつあり、また本学看護学科からの附属病院への就職も大幅に伸びており、その成果がすでに見られているところです。保健医療学部が、日本を代表する保健医療学部としてさらに発展することを期待しております。

 医学部、保健医療学部共に、大幅な研究備品の整備も行われており、両学部共に新キャンパスに備えて、目的積立金のさらなる投入も視野に入れて、大きく変貌しようとしているところです。

4)外部資金確保

 独法化に伴って、外部資金の確保が重要になってきていることは言うまでもありません。文部科学省科学研究費は採択が厳しい状況になってきましたが、厚生労働科学研究費を合わせますと、何とか予算を確保しております。道の地域医療再生計画から、これまで3つの特設講座へ毎年約1億円を出して頂いており、癌プロと合わせて4つの特設講座がありますし、また計5つの寄付講座も出来ています。特設講座・寄附講座を大幅に増やすことができましたことも、本学の研究・臨床に大きな役割を果してくれているものと思っております。

 文科省の医学教育改革事業での2つのプログラムに加え、平成25年より総合診療医養成を中心とした拠点形成事業が、5年間3億2000万円の予算で進行しています。グローバルスタンダードに基づく新制度による医学教育認証を出来るだけ早く受けるためにも、学生教育、専門家教育に大きな一歩を進めてくれるものと期待しています。

 また、北洋銀行の支援によるFM北海道での「医の力~札幌医科大学最前線」の放送は、3年半をもって終了、平成27年7月に記念講演会を行いました。新和ホールディングスによる寄付や札響ロビーコンサート、道新との健やか北海道プロジェクトによる公開講座、ハーバー研究所のメイクアップサービス、株式会社ホリからの寄付と北海道しそハスカップゼリーの共同開発、中央バス、留萌・大地みらい・稚内の3信金、十勝毎日新聞との連携、本学医学部卒業生で亡くなられた小野和子様の御意志により平成26年に創設した小野和子奨学金など、多くのご支援を道内企業、同窓の先輩から頂きつつ、大学、病院の整備と広報宣伝を行っております。

 多くの道内企業、自治体と連携協定を結び、大学への支援をお願いできたことも、この6年間の大きな成果と思っております。特に、北海道しそハスカップゼリーは、共同開発製品として大学のマークが入っており、大学のファミリーマートはもとより、新千歳空港、(株)ホリ 通販サイト、札幌プリンスホテルでも発売されております。学内の知名度がまだ充分ではございませんが、売り上げの1%が大学収入になります。ポリフェノールの多い健康的なゼリーですので、是非お試しください。

 私の学長時代の連携協定を一覧表で示します。

 幸い、外部資金全体では約20億円と、皆さまのご尽力のお陰でしっかりと確保することが出来ております。

5)地域医療への貢献

 道立江差病院での周産期医療体制確立、北海道立羽幌病院、市立根室病院、市立苫小牧病院麻酔科への支援等を行ってきました。一方、地域医療支援委員会活動を通して、道内医療機関への医師派遣を行っていますが、卒後研修必修化の影響を受け、常勤医師派遣は平成16年の453人から平成22年には321人まで減少していました。しかしながら、各診療科の努力で、平成27年で446人まで回復しています。卒後研修必修化前のレベルまで戻したいと思っておりますが、その可能性に手応えが出てきていると思われます。

3.直面する課題

1)優秀な学生の確保と医療人育成センター改革

 最後に、本学が直面する2つの課題について触れたいと思います。

 本学が抱える大きな課題の一つに、両学部共に優秀な、質の高い学生の確保があります。
 医学部は、道内で従事する医師を養成するための「北海道医療枠」が注目を集めております。平成26年4月に開設されましたアドミッションセンターも順調に稼働しており、平成28年度からは医療人育成センター入試部門から教員を移して独立した組織として、さらに入試制度を改善・整備することになっております。

 もちろん入学後の教育も重要です。本学が行っている両学部合同のチーム医療実習の意義・大切さにつきましては、北海道さらに全国から注目されているところです。文科省GPを活用した医学部の臨床実習の拡大や内容の向上も、学生全員に拡大し、継続していくことが大切と思います。学生に魅力的なカリキュラムを作り、実践することも重要と考えております。とくに教養教育につきましては、両学部の新しいカリキュラムと連動し、学生にとって魅力的な教養教育が実現できるよう、教養教育改革を推進して参りました。幸い、医療人育成センターの教養部門の諸先生との話し合いがスムーズに進んでおり、生物・物理・化学のリメディアル教育(入試時に選択しなかった科目の再教育)の実施、英会話の必修化、英語による日本文学講座等も行われました。

 医療人育成センターのあり方につきましては、センター教員との話し合いの中で、入試部門よりアドミッションセンターへの教員異動に加えて、教養教育研究部門と、教育開発研究部門の業務・定員について検討を開始し、新学長のもとで医療人育成センターの中期・長期の目標を定めるよう整理をしているところです。

 これらの努力が、最終的には、良い学生、研修医、医員の確保にも重要なアプローチになるものと思います。卒後研修センターの充実と活性化も大いに進めて参りたいと思います。医療人育成センターの教員の皆さまも、新教育研究棟で全員活動できますので、大いに期待して頂きたいと思っております。

 学生の国際交流につきましては、中国医科大学、カナダのアルバータ大学、韓国カトリック大学と充実してきました。学生教育のグローバリゼーションという流れの中で、積極的に進めていくべき課題と考えております。

2)附属病院の経営改善

 本学が抱えるもう一つの課題は、附属病院の平成26年度、27年度の収支です。平成26年4月の診療報酬改訂で診療報酬は変わらず、平成26年度は消費税3億円、電気・ガスの値上げで1億円の計4億円の支出増加があり、人件費増等を合わせると6億円以上の支出増加がありました。

 収入面では病床利用率でも頑張って頂いておりましたがまだ足りず、昨年度の同時期では約2億円の赤字、平成27年度も約1億円の赤字が見込まれています。平成26年度は、種々の努力で病院赤字を補い、かろうじて大学全体としては黒字でしたが、平成27年度は、現在までのところ、法人からの支援を含めてまだ厳しい見通しですが、12月、1月、2月の頑張りで何とか大学全体としては黒字になる見込みとなりました。全国の多くの大学病院で赤字が見込まれております。本学は頑張っている方だとは思いますが赤字は避けなければなりません。

 附属病院から毎年5~6億円、大学会計に黒字を回しておりましたが、26年度、27年度と3億円前後に減少しています。附属病院の経営は、大学全体の運営を考える上で極めて大きな意味を持ちます。今後、入院・外来共に患者単価を上げて頂き、経営改善にご協力頂きたく、宜しくお願い致します。

4.おわりに

 本学は、平成28年度は開基71周年、開学66周年となります。本学のさらなる飛躍のため、教職員、病院職員の皆さまが一体となって、塚本新学長と共に歩まれ、札幌医科大学がさらに発展されることを心より祈念しております。学長として6年間、第二内科教授として13年間、そして入学以来51年間、札幌医科大学には大変お世話になりました。札幌医科大学に心より感謝致しまして、学長退任の挨拶と致します。