対象疾患



原発性肺癌
肺は右肺が三葉、左が二葉に分かれており、がんに対する手術では肺がんの存在する肺葉と、胸腔内のリンパ節を切除するのが標準的な手術方法です。肺がんの患者さんは高齢の方が多いので手術後の体に対するダメージのより少ない低侵襲手術が理想的であり、札幌医大では低侵襲手術に積極的に取り組んでいます。リンパ節廓清も、省略せず開胸と比較して同等以上の廓清を行っています。2016年は原発性肺癌に対する解剖学的肺切除手術のうち91.4%が完全鏡視下手術(カメラを見ながら行う手術)でした。また、切除する肺の量を減らした縮小手術も行っており、肺がんの進行度に応じて様々な術式を使いこなしています。近年の科学技術の進歩により、以前では小さい傷では手術を行うことが難しかった、進行した肺がんの患者さんに対しても、最近では小さな傷で手術が行うことが可能となっております。
低侵襲手術:約15mmの2つの切開孔と約30mmの皮膚切開で肺の切除を行います。.


   皮膚の切り方           術中写真           創を閉じた後の写真

症状:咳、血痰、発熱、胸や背中の痛みなどから発見されることもありますが、無症状で、検診などを契機に胸部レントゲンあるいはCT検査、PET検査などで発見される患者さんが増えています。
診断: 画像診断で肺癌が疑われた場合、痰の細胞診検査、気管支内視鏡検査などにより病理学的(顕微鏡レベルでの)確定診断を試みます。これらの検査でも診断がつかない、小さな病変については手術中に組織検査を行い(迅速診断)、手術適応があれば傷を閉じることなくそのまま根治手術を行います(一度の手術で診断と手術治療が終了します)。


CT: 右上葉が無気肺となっている      PET-CT: 右上葉起始部に取り込みあり

治療: 呼吸器内科、放射線科、病理との合同カンファレンスを毎週行っており、手術適応を決定します。小型腫瘍に対しては胸腔鏡手術と縮小手術を組み合わせ、体への負担を軽減しつつ根治的手術を行います。肺の縁に存在し、腫瘍径20mm以下の進行度(ステージ)IA(T1a)-早期肺癌に対しては、積極的に完全鏡視下(カメラを見ながら行う手術)区域切除を2009年以降約1例に施行しております。一方、進行した腫瘍では主に標準的な肺葉切除とリンパ節廓清を施行しますが、抗がん剤や放射線を手術に併用させることもあります。

 術後経過: 一般的には手術の翌日には食事・歩行が可能になります。退院までの平均的な期間は部分切除では術後3日程度、区域切除・肺葉切除では術後7-10日程度です。

 ロボットを使用した呼吸器外科手術
 ロボット支援手術では内視鏡とロボットのアームを患者の体内に挿入し、3Dカメラによる3次元画像を見ながら、医師が自由自在に動くロボット鉗子を操作して手術を行います。従来の内視鏡手術に比べロボット支援手術は、アームの先が自由に動くため、より人の手に近い精細な治療を行えるのが利点となります。先端の器具を自在に動かせるため、細い血管や神経の剥離、気管支などを縫う場合でも、非常に正確な作業ができるため、患者さんの生活の質をなるべく損なわないような治療が可能となり、質の高い医療が提供可能となります。札幌医大付属病院でも前立腺、大腸癌の手術ではすでに使用されており、呼吸器外科でも早期の導入に向け、目下準備をしています。2017年度中に開始予定です。

ロボット手術の様子
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転移性肺癌
他臓器を原発巣とする悪性腫瘍が肺に遠隔転移(肺転移)して生じた転移巣を転移性肺腫瘍といいます。原発巣は大腸癌が最も多く、腎臓癌、乳癌がこれに続きます。転移性肺腫瘍は手術が可能であるほど予後良好の傾向があり、胸腔鏡手術のよい適応です。診断目的に手術を行う場合もあります。
 一般的には原発巣が制御されていること、他臓器転移がないこと、肺転移個数が限られていること、全身状態が良好であることが手術の適応になります。転移性肺腫瘍に対しては抗がん剤治療も重要ですが、手術は集学的治療(多くの領域が協同で治療を行うこと)の一環として積極的に行う方針にしています。当院では2015年、2016年に各々に41、43例の転移性肺腫瘍手術を行い、全例胸腔鏡で行われました。

感染性疾患
 呼吸器外科の感染症で多くは、膿胸という病気になります。これは胸膜で包まれた胸腔に細菌がはびこり、膿がたまる病気です。多くは胸腔鏡による手術の良い適応となります。
縦隔腫瘍
 縦隔は左右の肺と横隔膜に囲まれる部分です。縦隔内に発生する多様な腫瘍を総称して縦隔腫瘍といいます。頻度が高いのは胸腺腫、先天性嚢胞、神経原性腫瘍です。多くは無症状であり、画像検査により偶然に発見されます。縦隔腫瘍は多彩であり、悪性度・発生部位や大きさに応じて胸腔鏡を積極的に使用して手術を行っています。元来、縦隔腫瘍は診断が困難なため胸腔鏡を有効に使用することで確定診断をして、適切な治療を早期に行うことができます。2015年には28例の縦隔腫瘍手術を行いました。そのうち、20例71.4%は胸腔鏡で行われました。

胸壁疾患(胸壁変形)
 ロート胸(漏斗胸):成人の方への手術もおこなっております。
 
 漏斗胸はどんな病気ですか?
 漏斗胸とは前胸部が凹んでいる病気です。その程度は患者さんごとに違います。深さの程度、対象性など様々です。逆に、前胸部が突出する状態は鳩胸といいます。5歳以下で漏斗胸といわれ他の症状がなかったら、5歳を越える頃まで経過をみましょう。漏斗胸は男性に多く、男女比3:1です。血縁者内での発症は約30%にみられます。

 漏斗胸の原因は?
この病気の原因ははっきり分かっていません。おそらく、肋骨の形成異常ではないかと思われます。この病気の子供さんは肋骨や肋軟骨の支持力がふつうの人より弱く(肋骨や肋軟骨が柔らかいあるいは細い=形成異常)、息を吸うたびに少しずつ前胸部が落ち込んで、だんだん凹みが明らかになってくるのではないかと思います。
 漏斗胸は自然に治ることがありますか?
 5歳までは凹みが浅くなる人もいます。小学校から中学校にかけて胸の形は少しずつ変化することがあります。特に10歳を過ぎる頃から変形が進行する人がいます。小学校の低学年ではほぼ左右対称に凹みますが、10歳以降では非対称性変形が進むことがあります。成人になったら凹みが目立たなくなったということはよく聞きます。確かに、大人になって太ってきて皮下脂肪が厚くなると全体に体が丸くなるので、軽度の変形であれば目立たなくなります。ただし、肋骨の変形が治るということではありません。
 漏斗胸と心肺機能
 心臓に関しては、肺に血液を送り出す右心室というポンプが圧迫され機能が落ちることがあります。また、心電図上脚ブロック(電気の通り道の障害:不完全右脚ブロック)や電気軸の変位(右軸偏位)を認めることがあります。肺機能に関しては、強度の凹みでない限りは測定上正常なことが多いです。しかし、ロート胸術後に運動能力が高まることはよくおこります。
 手術が必要な人は?
 胸の凹みが強い人は手術が必要ですが、その程度を判定するにはCTの検査が必要です。CTで高度の凹みが明らかになった場合は、手術を受けることをお勧めします。
  漏斗胸の手術を行うのに適した年齢は7歳から10歳くらいと考えています。当初、当施設では5歳で手術をすることを進めていましたが、まだ肋骨が柔らかく、手術に使用するバーを支える力が足りないために変形が進むこともあるため、7歳から10歳くらいが適齢と考えています。
 手術以外の治療はありますか?
 1)吸引法 (バキュームベル、バキュームエッグ)
 胸壁に大きな吸盤をつけてこの陰圧で胸壁を持ち上げる方法です。手術以上の効果は望めません。長期間毎日胸にこの装置を付ける必要があります。
 2)運動療法
 運動:水泳などの運動は肺活量を増やして胸の形を良くします。簡単な体操プログラムがあり、1日4-5回やってもらいます。
 Nuss手術とはどういうものですか?
 この手術はNuss先生が1998年に論文で世界に知らせました。それまではRavitch(ラビッチ)手術というのが主流で、胸部の正面を開いて骨を切り、胸骨に切り目を入れて持ち上げる方法を行なっていました。Nuss手術では傷が胸の正面にできません。また、骨を切ることもありませんので、低侵襲手術と言えます。

バーが2本入り、良好に矯正されてます。