退任のご挨拶
─わき目を振って一見無駄な時間を過ごすのも悪くない─
放射線診断学
教授 畠中 正光
2011年に赴任して以来、14年半にわたって札幌医大でお世話になり、2026年3月をもって定年退職いたします。その間、山あり(谷あり)^2ではありましたが、皆様に支えられて無事役割を終えることができほっとしております。
赴任直後に最も驚いたのは、建学の精神にも「医学・医療の攻究と地域医療への貢献」と謳われているように、本学の役割として「地域医療への貢献」の比重が非常に高いことです。前任の大学は「医学の進歩および(どちらかと言えば)研究者の育成」に注力しており、地域医療は大学というよりは行政の仕事と考えている感が強かったので面喰いました。本学の設立母体が北海道であることを考えれば、医療行政の比重が高いこと自体、当然と言えば当然なのでしょうが、地域に派遣可能な医師を増やすために医師国家試験の合格率に(私から見れば)相当に高い目標が設定されるなど驚きの連続でした。教授陣は医師国家試験合格者発表の時期になると落ち着きません。直近の医師国家試験でも本学は96.4%(新卒:97.1%、既卒:85.7%)の合格率であり、まずはほっと胸をなでおろしたいところですが、新卒者の合格率では自治医大、北海道大、京都大がなんと100%を達成しており、97.1%の本学は82校中25位とQ1に入っておりません。随分とハイレベルの争いだと思います。
他大学も同様なのかもしれませんが、医師国家試験合格を目指して効率よく勉強する学生が多いのも本学の特徴ではないでしょうか。私が大学に入った1979年は学生運動の残り火が燻っており、ヘルメット・手拭・角棒姿の学生らしき人物が構内の一部を占拠し、時々アジテーションを行っていました。往時が良かったなどとは思いませんが、学生には時間がたっぷりあったので人生・宇宙・時間・科学・医学・政治・宗教などについて堂々巡りの議論をしたものです。試験には出そうもない知識はこういった「非効率≒無駄な時間」に学んだ気がします。
フランス革命の余波で処刑場の露と消えたラヴォアジェの質量保存の法則に対し(パリで学会があった時も私はコンコルド広場には行きませんでした)アインシュタインがE=mc^2を提唱したことの重要性は、医師国家試験には出題されそうにありませんが、私の分野で言えばFDG-PET/CT検査における反対方向に放たれる(電子と陽電子の運動エナジーを考慮すれば厳密には反対方向ではありません)一対の消滅放射線について理解するときの感動が違ってきます、エナジー・質量とは何なのか、より深く理解したいとの好奇心もわきやすいように思います。後進の皆さんには、効率の良い最短ルートのみではなく、多少わき目を振って学問の奥深さを味わっていただきたいところです。
札幌医科大学の今後益々の発展、北海道の医療の充実を祈念して退任のご挨拶とさせていただきます。