退任教授・役職者

退任のご挨拶

呼吸器外科学
教授
渡辺 敦

この度、同窓会HPに寄稿の機会を設けて頂き心から感謝いたします。
私は、1985年に札幌医大を卒業し、すぐに当時の小松作蔵先生が主宰されていた胸部外科に入局しました。札幌医大胸部外科は、初代教授和田寿郎先生が1958年本邦初の心臓移植を行い、この手術報道を目にした時に、驚嘆と衝撃を受け我が人生の選択に影響を受けたことは否めません。

卒業後の15年間は胸部外科医として、北海道内を中心に心大血管、食道、呼吸器の手術を行ってきました。1989年胸腔鏡手術に出会い、1993年に自ら教室関連では初めて胸腔鏡手術を施行しました。1999年に大学へ復帰し、2000年からほぼ呼吸器外科の専属となりました。2013年北海道で初めての独立した呼吸器外科教室が誕生し、初代教授として着任いたしました。この間、胸腔へのアプローチとして開胸手術、胸腔鏡手術、ロボット手術を経験することができ、まさに、呼吸器外科の変革発展期を実体験することができました。一方、手術術式も今や早期肺癌の標準術式となっている楔状切除と区域切除を含む縮小手術から、進行肺癌に於ける周囲組織切除再建を含む拡大切除も経験してきました。さらに、昨今、分子標的薬あるいは免疫チェックポイント阻害剤等の開発により集学的治療の意義が増加しています。周術期において、術前、術後、さらに術前後サンドイッチ治療などこちらの治療も研究段階のものであり、その確立に向けてさらに多くのエネルギーが費やされていくことになると考えています。また、胸郭変性疾患である漏斗胸に対するNuss手術(胸骨挙上術変法)も、本邦2例目に施行されました。現在、東京以北最多の症例数となっております。

教育面では、ほぼ毎日朝回診の後に術後症例の所見に関して、専攻医、初期研修医を指導しました。また、臨床実習学生を相手にした患者さんに接した直後にワンポイントレッスン(と言っても60分間程度を要しています)を行い、症候論と医療機器などの説明を行ってきました。また、専攻医への育成も周術期管理、手術指導を含め綿密に行い、取得まで最短で7年の研修期間要する呼吸器外科専門医資格取得に役立てました。

研究面では、臨床研究では、呼吸器アレルギー内科、臨床病理診断部、放射線治療科、診断科、麻酔科などのご支援、肺癌の手術成績、肺癌に対する手術手技の工夫、IP合併肺癌の手術成績等、外科の臨床症例を対象とした研究ながらCitationが100を超える論文を複数発表しています。礎的臨床研究では肺脈管走行の3DCTによる検討、肺動脈遮断法による耐圧効果と組織変化の研究、特殊電気凝固モードによる気瘻閉鎖機序の解明などもおこなってきました。さらに、当施設のフロンティア研究所のご協力を頂き、濾胞性リンパ球と肺癌の関係、2.5D培養を基礎にしたタイトジャンクションと肺癌悪性度進行過程の探求、肺癌と癌遺伝子の関係の追求など多くの基礎的研究を行ってきました。

学会活動では、日本胸部外科学会理事、日本呼吸器外科学会理事・監事、日本肺癌学会理事なども務めさせて頂きました。呼吸器外科専門医制度改革、呼吸器外科テキスト作成、肺癌ガイドライン(肺癌、胸腺上皮性腫瘍)作成, 専門雑誌の査読委員は勿論のこと編集委員などに携わらせて頂きました。これらの甲斐があり、2023年に第76回日本胸部外科学会の呼吸器外科分野会長を務めさせて頂きました。

2024年4月1日から附属病院病院長に着任予定です。札幌医科大学および医学部同窓の皆様方のご支援をお願いするとともに、ご活躍、ご発展を祈念して、ご挨拶とさせていただきます。