退任のご挨拶
放射線医学講座
教授 坂田 耕一
1995年に、医大に就職し、28年もの間、働かせていただきました。当初は、こんなに長く、医大で、働くことになるとは予想していませんでした。しかし、医大の暖かい校風、多くの優秀なスタッフや若手の先生との出会いが有り難く、長期にわたり働かせていただく理由になりました。医大での28年間は、成長していく若手の先生方と、放射線治療の先端技術を学び導入して、患者さんに寄り添った癌治療を行うことができ、本当に幸せでした。
私が取り組んできた放射線治療について、述べさせていただこうと思います。私は、1983年に卒業し、放射線治療医となり、現在まで40年以上、放射線治療医として働いています。私が卒業した当時の放射線治療は、治療技術が低く、治せる癌は少なく、副作用も頻回に起き、重い副作用もおこりました。しかし、この40年間で、放射線治療技術は著明に進歩しました。画像誘導放射線治療の開発により、癌組織に、1~3ミリの誤差で、正確にX線を照射することが可能になり、また、強度変調放射線治療の導入により、X線を集中して癌に照射できるようになり、癌の治癒率の向上や、副作用の著明な減少が実現しています。
しかし、進行癌では、放射線治療でX線を照射した部位が治癒しても、その後、高率に転移が発生します。放射線治療は局所療法であり、遠隔転移の発生を予防することには無力です。以前より、放射線治療にはアブスコパル効果の存在が知られていました。アブスコパル効果とは、 放射線を癌組織に放射線治療を行うと、放射線が照射されていない遠方にある癌も縮小することです。放射線照射で活性化された細胞傷害性Tリンパ細胞が放射線照射外にある癌細胞を探し出して殺してしまうためと考えられています。残念ながら、このアブスコパル効果は稀にしか起こりません。ところが、2010年代後半のチェックポイント阻害剤の出現が、この状況を一変しました。放射線治療とチェックポイント阻害剤の併用で、アブスコパル効果を増大させることが可能になりました。 放射線治療とチェックポイント阻害剤は、肺がんの化学放射線治療で応用され、進行肺癌の治療成績の改善に大きく寄与しています。このように、放射線治療で活性化されたTリンパ球が、魔法の弾丸のように働き、照射していない癌にも、放射線治療は効果を発揮できるようになって来たのです。
医大での放射線治療医としての診療や研究は、終えることになりました。今後は、放射線治療科の教室員のみなさんに、癌の最先端技術を駆使した放射線治療やIVR診療について、バトンを渡します。
私のような平凡な指導者の元でも、優秀な、やる気のある教室員が、入局してくれました。その結果、北海道における放射線治療では、札幌医大や関連病院における患者数が増加しました。今後は、私は、民間病院で、医大の後輩と協力しながら、癌の放射線治療を継続して行きたいと思います。本当に、長い間、ありがとうございました。