退任教授・役職者

退任のご挨拶

解剖学第2講座
名誉教授
藤宮 峯子

2008年6月に着任してから、14年間を一気に駆け抜けて来た感じです。着任当時は札幌医大医学部初の女性教授として珍しがられましたが、私は自分の顔が見えないので、男性教授と一緒にいるのがとても自然で快適に感じていました。

着任直後から精力的に取り組んだことがあります。それは、前任者の村上弦先生が始められた、献体を用いたサージカルトレーニングを、学内外にしっかり認めてもらえる形で継承して行くことでした。その為に、1)解剖実習室の改装を行い、明るく清潔な実習室でトレーニングを行えるようにする事。2)倫理委員会の定めるガイドラインを作成し、生前同意や遺族の同意を十分に取った上で献体を使用する事。3)凍結遺体は2次感染の危険性がある為、それに代わる固定法を導入する事、などです。幸いこの3つとも叶えることが出来、全国に先駆けて「献体を用いたサージカルトレーニング」を開始することが出来ました。その後、本学倫理委員会が制定した献体の利用に関するガイドラインや、生体に近い柔らかさが得られるThiel固定法などは、札幌医大方式として全国に広がり、後続校がどんどん出ました。私が札幌医大に赴任した当初は、日本解剖学会や厚労省は、献体を学部学生の教育以外に使うことに抵抗を示していましたが、札幌医大方式が全国に広がると一転して、厚労省が助成金を出して各大学におけるサージカルトレーニングを推奨するようになりました。

献体して頂いた方のご篤志に精一杯答えるのが、解剖学講座教員の使命と考えて来ました。臨床医の手術手技トレーニングと同時に進めたのが、道内の医療系の大学や専門学校の学生さんへの肉眼解剖学教育です。始めは本学学生の解剖実習時間内に見学者として入って頂いていたのですが、その後、専門学校の学生さんは、前期に本学の学生実習が終わった後、後期に集中して来て頂くことにしました。また、専門学校の教員には、解剖学第2講座の訪問研究員として肉眼解剖の手技を学んで頂き、引率学生の指導をして頂くようにしました。コメディカルの学生への新しい解剖学教育の方法として、これも札幌医大方式として全国から注目されています。

さて、在任中に、教育研究機器センター長、動物実験施設部長、標本館長を拝命致しました。教育研究機器センター長の時は、黒木医学部長の下で、機器センター各部門の改組を行いました。部門長には、准教授や講師を積極的に抜擢し、本学の研究の実情に合った研究機器の導入を心がけました。センター長として感動したのは、各部門の技師さん達が、高いプロ意識とプライドを持って大変熱心に仕事をされていた事です。このような共用機器センターがあり、専門技術を持った技師さんが常駐しているのは決して当たり前の事ではなく、札幌医大の研究者は本当に恵まれていると思います。各講座で高額の研究機器を購入出来なくても、機器センターを利用することで世界最先端の研究が行えるのは、本学の誇りだと思います。
動物実験施設部長の時にも、同様の思いを持ちました。前職の滋賀医大では、動物のケージ交換は全て研究者の責任でやっていました。忙しい臨床医の実験動物は、世話をして貰えなくて悲惨な状況でした。一方、札幌医大では、動物の世話は全て動物施設部の職員が丁寧に行っており、動物が死んでいれば研究者に連絡までしてくれるのです。部長として施設内の見回りをした時、遺伝子改変動物の部屋で一日中防護服に身を包んで汗を流して働いている職員や、ケージの洗浄室で熱湯の湯気が立ち込める中、長靴姿で重労働をしている女性職員達に頭が下がる思いでした。この人達こそ、札幌医大の発展に多大の貢献をしていると思いました。
標本館の館長を務めた時には、標本館の職員が毎日ショーケースをピカピカに磨いて、まるでガラスが無いかのごとく綺麗にしてくれている事に感動しました。職員はさも当たり前のように、学内外の見学者が気持ちよく標本を観察出来るようにと心を込めて働いていたのです。このような人々の働きぶりは、人間として尊く、教えられる事がたくさんありました。

14年間の在任中に、1)旧棟の解剖実習室の改装、2)新棟の解剖実習室の設計、3)新棟の動物実験施設の設計と、大学の歴史に残る事業に関われたのは幸運でした。新棟の解剖実習室の設計においては、実習台が39台入る広い実習室を作ることが出来、医学部学生110人と保健医療学部学生40人の計150人同時に解剖実習が出来るようになりました。両学部の学生が、同じ実習マニュアルを使って一緒に肉眼解剖実習が出来るのは、おそらく全国でも札幌医大だけだと思います。
動物実験施設の設計については、動物施設副部長とスタッフが、まさに人生をかけて熱心に取り組んでくれました。この二人は、全国の大学と研究所の附属動物実験施設をくまなく見て回り、考えられる限り最高の動物実験施設を設計してくれました。こうして、こだわり抜いて完成したのが新棟の動物実験施設なのです。

このように、札幌医大で過ごした14年間は、多くの素晴らしい出会いに恵まれ、のびのびと楽しく活躍することが出来ました。関わった全ての方々に感謝の思いで一杯です。素晴らしい環境と、有能な人材に恵まれた札幌医科大学の益々の発展をお祈りします。