退任教授・役職者

退任のご挨拶

薬理学講座
名誉教授
堀尾 嘉幸

1999 年(平成11年)8月から 2021 年3月まで20年間あまり札幌医科大学でお世話になりました。自分にとって1999年は少し前の気分ですが、10年一昔と言いますからずいぶん前のことになってしまいます。札幌医科大学に来ることが決まって、初めて研究室を持ち自分の方向性を持つ研究ができるという興奮がありました。一方、先輩の先生方を含めて大学の方々と「うまくやっていけるのかなあ?"はみご"になったらどうしよう」という気持ちも少しありました。 "はみご"とは関西弁で「はみ出した子」つまり仲間に入れない子という意味です。しかし、諸先輩の方々は優しくとてもよく面倒を見ていただき、"不安"はすぐに消えました。気が楽になり、「学外から来ても何とかなりそう」と思うことができました。本学が仲間内だけの閉ざされたような大学ではなかったことは私にはとても幸運でした。

私は基礎の薬理学講座を担当しました。薬理学は名前のままに薬を広く浅く教える科目です。幅広い領域からなる医学では、どこかしらの領域で毎年のように新しい薬が出てきて、教員は授業プリントやスライドを改定する必要に迫られます。学生さんと同じかもしれませんが、強制的に勉強させてもらえることになっていました。また、薬理を担当すると自動的に臨床研究審査委員会(IRB)の委員の一人となって、附属病院で行われる臨床研究や新薬の治験の審査をすることになります。IRB委員会は最新医学の一面を知ることができる立場ですので、各分野の研究のトレンドや薬を知るよい機会となっていました。振り返ってみると、結局、総計では概算で2000名を超える同窓の皆さんの医学教育の一端を担当したことになりました。大丈夫だっただろうか?と思わないでもありません。

研究ではうまくいったこと、そしてうまくいかなかったこともありました。うまくいかなかったことの方がずっと多かったです。その中では自分で手を動かして実験することを命題としてきましたが、自分の力だけではどうしようもなく、多くの同窓生の先生方に研究を一緒に行っていただいたことがとても有難いことでした。加えて他大学の基礎系医学部講座・教室に比べて多いスタッフ数とともに、毎年、決して少なくない研究費を大学から教育研究費としてサポートして頂きました。このことは、その時々に流行する研究にとらわれずに、また、研究費獲得のための研究を行わなくても自分の研究課題を継続する上で必須のもので、これもとても有難いものでした。「研究の選択集中」のスローガンの元に全国の大学でスタッフの減員と教育研究費に相当する各教室へ配分されるお金が著しく減額されてしまっています。このようなことが、昨今言われている日本の研究レベルの著しい低下に関連しているとの指摘が例えば大隅良典先生などから繰り返しなされています。私もこのような考え方に共感を覚える一人です。本学が今の世の風潮に流されない仕組みを継続されていることを誇りに思い、今後も継続されることを祈っています。

この20年間の大学生活を振り返ってみますと、本学は建学の精神にある「自由闊達な気風」そのままの精神気風を持ち続けているそんな大学だと思います。その原動力はあえて言いますと同窓生の皆さんの"自由で緩やかな母校を思う気持ちの力"ではないかと思います。私もこれから「自由闊達の気風」を支える名誉同窓生として同窓会の方々とともに本学をサポートできればと思っています。