退任教授・役職者

退任教授の挨拶

札幌医科大学医学部
地域医療総合医学講座
山本 和利

1999年に地域医療総合医学講座の教授に就任し、1年間は一人で外来診療を週2回行い,1日5から7名の新患を診てきた。その後は毎日診察室3で診療を行ってきた。札幌医科大学初の総合診療科開設であったが、蓋を開けると一筋縄ではいかない患者がたくさん受診した。多数の医療機関を渡り歩いても痛みが治まらない患者、腹痛を訴えても誰も話を聴いてもらえない患者、特殊な健康信念を抱える患者、全身の痛みと発熱を訴える患者、等々。臓器専門医では問題解決できない患者に寄り添い、問題解消に努めてきた。

教育については、学部の正規科目として「医学史」(1年生)や「地域医療」(4年生)、「臨床疫学(EBM)」(4年生)の講義を学内・学外のメンバーの力を借りて継続した。臨床実習開始前に行う臨床入門・共用OSCE、医学概論4(narrative-based medicine)、医学概論5(プロフェッショナリズム)、卒業試験前のpost-cc OSCEは当講座が中心となって運営した。5、6年生の必修臨床実習(地域医療実習)は学外で行った。この実習を契機に学外講師の先生方と教育会議を定期的に持つようになり、道内における地域医療ネットワークとなり、後期研修プログラム(通称ニポポ)を行う北海道プライマリ・ケアネットワークの構築につながった。これまで「脱専門化セミナー」として行ってきたセミナーもニポポに移行させて指導者講習会として再出発させた。

特別推薦枠学生(通称FLAT)たちと定期的な学習会(ランチョン・ミーティング、症例勉強会)や地域の現場へ出かけての実習(キャンプ)を行った。保健医療学部との地域医療合同セミナーにも関わり、一部の教官が夏の実習の引率に当たった。5、6年生の総合診療科の臨床実習は大学外での地域医療実習となっており、学生からも好評であり、札幌医科大学の特徴のひとつになっている。開設15年目に、文部科学省の企画する「未来医療研究人材養成拠点事業の『リサーチマインドを持った総合診療医の養成』に採択された(5年間継続)。当教室が中心となって大学内外の当教室関係者や他の部署の関係者と折衝を重ね、採択にこぎ着けた。当教室員・同門会員たちが日頃、地域の第一線の医療機関で学生・研修医教育や診療に真摯に取り組んできたことが大きく評価された。早朝に行っている全国規模のテレビ会議も申請書が採択される上で大きな力となった。

研究にあっては、質的研究手法で学生実習のあり方や地域医療に対する態度等を調査・検討してまとめた。

就任後20年間、地域医療の充実、総合診療の確立を目指して地道な活動を続けて来た。当講座の再編が行われ、31年度からは名称も総合診療医学講座となる。入院病棟も持ち、内科5診療科と協力してやってゆき、総合診療科長が地域医療教育センター長も兼ねる構想が打ち出されている。今後とも当講座が札幌医科大学の一員として北海道の地域医療に貢献できることを切に期待する次第である。