退任挨拶
札幌医科大学 名誉教授 平塚 博義
平成15年12月に琉球大学から異動して以来、14年間に亘って教授職を務めさせていただき平成30年3月をもって定年退職となりました。この間、教職員をはじめ多くの大学および附属病院関係者にお世話になり感謝申し上げます。卒後研修制度のなかった昭和53年、わが国の歯科医師数7万人あまりで歯科医師不足だった当時、実学の教育体制で即戦力として育成された私は田舎町の歯医者になる前の研修のつもりで本学の全日制研究生として口腔外科学講座に入れていただきました。上司に恵まれたために口腔外科の虜となりここまでに至りました。現在も環境は大きく変わっていませんが、症例数の少ない口腔外科疾患の術者は上級者に限られますので、手術をしたくてすっかり長居をしてしまったというのが正直なところです。臨床では、多くの診療科の協力を得て高い臨床能力の提供に拘りました。特に、手術療法を主体とした従来の口腔癌治療に加えて、放射線治療科の協力のもとに動注照射という選択肢を増やすことができました。IVR専門医の協力を得て高度な集学的治療を行うことによって進行口腔癌でも手術回避できる症例があること、たとえ手術回避を達成できなくても縮小手術が可能であることも判明しました。また、手術を避けられない症例は形成外科に再建手術をお願いして治療成績を上げることができましたし、隣接領域に拡大した再発症例の治療には耳鼻咽喉科や脳神経外科の協力を得ることができました。こうして札幌医大の口腔癌の8割が治癒しています。一方で、多くの口腔外科疾患に非観血的な治療を選択しがちな教室員に観血的治療で治癒させるという基本方針を体得させるのに腐心しました。これも多くの専門領域を担保できる大学附属病院だからこそ可能であったことです。今後も道民に対し積極的に高度な手術療法を提供できる歯科口腔外科であって欲しいと願っています。大学院では病理学第一講座(菊地浩吉教授)でがん免疫の研究指導を受けました。爾来、口腔外科学講座の中で主だった研究の一つの流れとなって続いています。私自身は口腔癌組織に浸潤するリンパ球解析とその臨床的意義に関する指導を受けました。4年という期間限定の仕事でしたので臨床病態との関係は解析できたのですが、生存率との関係までは手が届かずにいました。30年以上経った現在でも癌組織に浸潤するリンパ球サブセットと生存率に関する論文が多数掲載されています。そこで、定年退職前の2年間に取得した科学研究費を使って改めて自験例のリンパ球浸潤の臨床的意義を解析して、CD8陽性リンパ球浸潤と生存率の有意な相関が明らかとなりました。30年かけて肩の荷を下ろしたことになります。
歯科医師となって40年が経過しています。このうち32年と数か月を札幌医大で過ごさせていただき、愛着が尽きません。札幌医科大学の益々の発展を祈念いたしまして退任の挨拶とさせていただきます。ありがとうございました。