退任教授・役職者

退任のご挨拶

札幌医科大学 公衆衛生学講座 教授 森 満

 私は、1999年7月1日に医学部公衆衛生学講座教授として着任しましたので、16年間以上の勤務でした。私が公衆衛生学の研究を開始することになったきっかけは、1975年6月、医学部4年生のときの札幌医科大学大学祭の特別講演にまでさかのぼります。私はその大学祭で特別講演の企画を担当しました。そして、そのころ「医学とは何か」などの著作で社会医学の重要性を説いていた故宮本 忍日本大学名誉教授に特別講演の演者をお願いしましたが、演題は「医の原点」でした。講演の中で、疫学研究の重要性を強調されていましたことから、それに興味を覚えて、疫学研究を行っていた三宅 浩次名誉教授(前札幌医科大学医学部公衆衛生学講座教授)の門をたたき、1978年4月、卒業と同時にその大学院に入学しました。

 私の研究の出発点となる1978年から1982年までの大学院時代の研究課題は、卵巣がんの症例対照研究でありました。1999年に佐賀医科大学(現・佐賀大学医学部)から札幌医科大学に着任後も、齋藤 豪産科婦人科学教授らの協力をいただいて文部科学省科学研究費補助金などによる卵巣がんのリスク要因に関する疫学研究を継続してリスク要因を明らかにしてきました。さらに、1999年から、文部科学省科学研究費補助金などによる前立腺がんのリスク要因に関する疫学研究が開始され、塚本 泰司学長(前泌尿器科学講座教授)、舛森 直哉泌尿器科学講座教授らの協力をいただいて、前立腺がんの疫学研究を行ってきました。

 2001年から、厚生労働省が主導した「ヘルスアップ・モデル事業」に札幌市保健福祉局が参画したのを契機に、札幌市と共同して高齢者の健康づくりの介入研究を行いました。そして、2008年からは、北澤 一利教授(北海道教育大学釧路校)、尚和 里子博士(特定非営利法人地域健康づくり支援会ワンツースリー理事)らと共同して高齢者における「ふまねっと運動」実施の有効性に関する研究を行ってきました。そのようなことがありまして、2017年4月に前身の専門学校を改組して開校する北海道千歳リハビリテーション大学の学長に就任する予定ですが、そこでは、予防リハビリテーションの教育・研究に取り組みたいと考えています。予防リハビリテーションは、北欧の福祉の3原則に準拠しています。北欧の福祉の3原則とは、①継続性の原則、②自己決定の原則、③自己資源開発の原則ですが、精神・身体の残存能力、それまでに獲得した技術、技能、趣味などを自己資源と定義して、できる限り自己資源を失わないように、むしろ、増やすように、生活することを目指すもので、そこに介入するのが予防リハビリテーションであると考えています。

 小林 幸太先生(メンタルアシスト北海道代表)らと共同して、北海道内の労働者を対象にメンタルヘルスに関する研究を行ってきました。 その結果、過剰なストレスをどのように認知し、それにどのように対処しているかによって、精神的な健康状態が異なることが明らかになりました。そこで、認知行動療法の理論に基づいた予防的介入による労働者のメンタルヘルスの向上が期待されます。2017年5月には、第27回日韓中産業保健学術会議を札幌市の京王プラザホテル札幌で主宰する予定です。学会長講演の演題は、「Overwork and severe economic disparity among Japanese workers」というものです。これら3カ国ではいずれも、過重労働による健康障害や労働者間の賃金の格差がもたらす貧困層の健康障害が問題となっていますので、そのことを論じたいと思っています。

 がんの疫学研究、高齢者の健康増進研究、産業保健・環境保健の研究などを通して、私の在任中に26人の医学博士号取得者と9人の医学修士号取得者を輩出することができました。論文審査に際しまして、副査や審査委員を務めて下さいました衛生学講座の小林 宣道先生をはじめ、多くの先生に深く感謝申し上げます。どうも有り難うございました。

 最後になりましたが, 札幌医科大学在職中にご支援いただきました大学執行部と教職員の皆様, これまでご指導ご鞭撻をいただいた基礎医学および臨床医学部門の先生方に心から感謝申し上げまして, 退任の挨拶とさせていただきます。