退任教授・役職者

退任のご挨拶

札幌医科大学 医学部臨床検査医学講座
教授
渡邉 直樹

 昭和44年に入学して以来、米国留学期間を除くと、人生の約2/3(42年6ヶ月)の長きに亘り、札幌医科大学で過ごしたことになります。卒業後、がん研究内科(現内科学第四講座)の大学院へ入学し、以来、漆崎一朗、新津洋司郎両名誉教授をはじめ諸先輩のご指導のもと、内科医としての修練を積んでまいりました。平成7年に黒川一郎名誉教授の後任として附属病院検査部部長(教授)を拝命し、平成12年には臨床検査医学講座を開講させて頂きました。18年7ヶ月に亘り大過なく務めさせて頂き、今春退任の日を迎えることになりました。改めて、ご厚誼を頂きました皆様方に感謝申し上げます。

 就任当時、医療の高度化、専門分化に伴い、臨床検査のほとんどは、病院の検査室あるいは臨床検査センターで実施されるようになっていました。その結果、臨床医と検査室との関係が希薄となり、さらに包括化医療(DPC)の採用で検査業務実績も不透明化していました。まさしく、全国の臨床検査医学講座/検査部が在り方を模索していた時代であったように思います。就任直後から副部長(技師長)らと話し合い、1)クライアント(設置者や診療科)のニーズに則した検査内容の充実と、2)医師のみならず臨床検査技師も含めた研究活動の活性化を基本方針とし、組織の付加価値をキーワードにしました。従来の状況から見れば、大胆かつ大幅な変貌が必要でした。その中で、異職種が混在する臨床検査医学講座/検査部内はもとより、診療科および事務局との調整役(潤滑油)を果しながら、牽引者となることを自分の役割と位置付けました。

 まず、検査内容の充実を図るべく、1)外部委託から院内検査への取り込みや新規検査項目の採用、2)日当直検査や輸血検査の24時間体制化、3)診療前検査項目の大幅拡大および、4)細菌検査の365日化などを試みてきました。同時に、これらを円滑に行うため、11の係を6ユニットに統合し、人員配置の柔軟性向上を図りました。その結果、検査項目数は年間390万件以上と、増加の一途をたどっております。しかし、日常検査業務の充実やサービスの向上は重要ですが、それだけでは一定の限界があります。何故なら1)サービス事業は一過性に好評をもたらすが、評価は長続きせず種も尽きる、2)所詮は給与対象内の努力であり付加価値とみなされない、などのためです。

 このような状況を克服するには、日常検査業務の枠を超えた付加価値が必要となります。そこで、保険収載項目のみならず未収載項目に関しても可能な限り、基礎、臨床を問わず実費で研究支援を行ってきました。脳梗塞患者や脊髄損傷患者を対象とし、現在進行中の自家骨髄間葉系幹細胞による医師主導治験においても、生物製剤の安全性試験などは検査部で行っています。また、感染制御部(旧感染管理室)も担当してまいりました。感染制御の主力は感染管理認定看護師(ICN)を中心とするメディカルスタッフですが、極めて小さな組織なため、あらゆる検査情報を最初に知る臨床検査医学講座/検査部の、日常検査業務の枠を越えた積極的な支援無しには成り立ちません。さらに、検査部の解析能力を用いれば、ノロウィルスの遺伝子診断、MRSAや緑膿菌の遺伝子タイピングなどに加え、職員の感染症関連抗体検査や特定健診および施設の環境検査など大学事業に関連する業務も可能であり、内容が特殊であるほど、外部委託に比べコスト面での貢献も出来ます。

 一方、中央部門と雖も大学人として、研究マインドを持ち続けることが重要となります。そこで、本学臨床検査医学講座/検査部では「医師、臨床検査技師を問わず大学人として臨床検査や教育に加え、研究活動を行う」ことを方針としてきました。これまで、医師4名に加え、臨床検査技師11名が大学院医学研究科を修了し、医学博士を取得しています。また、平成26年3月までに医師、看護師(ICN)各1名に加え、さらに臨床検査技師6名が修了予定で、他で取得した2名を加えると臨床検査技師の約40%に当たる19名が医学博士と言うことになります。臨床検査医学の分野では、極めてユニークかつ先駆け的組織となっています。特筆すべきは、学位取得が臨床検査技師の単なるキャリアアップだけではなく、その技術力や大学人的発想の柔軟さが、新規検査項目の円滑な導入や日常検査業務以外の研究協力および各種事業などに威力を発揮していることです。

 最後に、汗を厭うことなく、共に全力で走り続けてくれた仲間に心よりの感謝を伝え、また、皆様の臨床検査医学講座/検査部への変わらぬご支援をお願いし、退任のご挨拶とさせていただきます。