平成23年度札幌医科大学卒業式並びに大学院修了式 卒業証書・学位記授与式 祝辞
平成23年度札幌医科大学卒業式、ならびに大学院修了式にあたり、医学部同窓会を代表して、一言お祝いを申し上げます。
厳粛かつ感動的な、先ほどの式典に引き続き、卒業証書・学位授与式に臨まれ、医学部長からひとり一人、直に、卒業証書と学位記を、手にされた卒業生の皆さんと、大学院医学研究科修士・博士課程を、修了された若き新進気鋭の先生がた、並びに、今日の晴れ舞台を待ち望まれ、ここにご参列されておられる、ご父兄の皆様とご関係各位に、心からお祝いを申し上げます。
昨年3月11日の、余りにも悲惨な爪痕を残した東日本大震災と、大量の放射性物質を放出して、世界を震撼させた福島原発事故から、早くも1年を経過しました。震災からの再生と復興に、深刻極まる原発事故災害からの復旧に、日夜心血を注いでおられる、地元被災者の方々と関係者に、ここにおられる皆さん方とご一緒に、厚い敬意を表したいと思います。
さて、こうしたお祝いの席で、個人的なことではなはだ恐縮ですが、私自身にとりましても、昨年は試練の1年でした。昨年4月、偶然発見された左腎癌の内視鏡的手術を、本学泌尿器科で受けました。10月には、左前腕腫瘍の再発で、左腕の完全喪失を意味する、左肩関節離断術を、「平静の心」、を胸に抱いて、本学整形外科で受けました。少し複雑な思いで、今ここに立たせていただいていますが、私にも備わっているかもしれない、「鈍感力」、そのお陰でしょうか。
「平静の心」、ラテン語Aequanimitas の邦訳で、心の平静・沈着・冷静、落ち着きの意です。皆さんもご存知の、ウィリアム・オスラー先生が、1889年ペンシルバニア大学を去るときの卒業式での、告別講演のタイトルでもあります。その中で、先生は、「内科医・外科医を問わず、医師に取って「沈着な姿勢」、これに勝る資質はありえない」、「成功を収めている時、あるいは失意に打ちひしがれている時を問わず、「平静の心」を持つことは、至難なことであるが、それは、心のあり方として必要である」と述べています。
一方の、「鈍感力」、と言う言葉は、第63回直木賞を受賞し、今なお文壇で活躍中の、本学1958年卒、第5期生、渡辺淳一先生のエッセイ集の書名です.先生は、その中の冒頭で、「それぞれの世界で、それなりの成功をおさめた人々は、才能はもちろん、その底に、必ずいい意味での「鈍感力」を秘めているものです。鈍感、まさしく本来の才能を大きく育み、花咲かせる、最大のちからです」、と述べています。あのオスラー先生も、講演の中で、「感受性の鈍さ」を、適度に身につけることの必要性を説いている点とも、合致します。
不幸にめげない明るい「平静の心」、偉大なる「鈍感力」、本日晴れて本学を巣立って、医師・研究者の第一歩を踏み出す皆さん方にとっても、価値ある言葉のひとつ一つではないでしょうか。
私どもの母校札幌医科大学は、間もなく創基67周年・開学62周年を迎えます。「進取の精神と自由闊達な気風」、「医学・医療の攻究と地域医療への貢献」という、二つの建学の精神を掲げ、しかも理念に、「最高レベルの医科大学」を目指しています。この様な素晴らしいフロンティア・スピリットに満ちた環境の中に、籍を置いた本学医学部卒業生は、59期生の皆さんを含めて総勢5,013名、前身の道立女子医学専門学校卒業生115名を加えますと、5,000名を超える同窓生が、道内はもとより、全国各地と世界に散らばって、医療の「現場」と「先端」で、活躍しておられます。
今や全国でも、有数の医科大学・医学部のひとつに、成長した本学を卒業される皆さんと、大学院修士・博士課程を修了された先生方は、それを誇りにして、さらに研鑽を積み、患者様や医療界の方々からばかりでなく、520万道民をはじめ、多くの人々から、信頼される医師・研究者に成長し、母校のさらなる、「発展」と「名声」に、寄与される様、熱い思いを込めて、期待しております。
「医師になりたい! 医師になろう!」という、希望に燃え、強いモチベーションをもって入学され、ハードな勉学の傍ら、多方面で青春を謳歌し、卒業される皆さんには、「若さと言う未知のエネルギー」と、「無限の可能性」があると信じます。初心を決して忘れることなく、そのモチベーションに更なる磨きをかけ、「医師の道を歩んで来て良かった」と、肌から実感出来る日が、必ずや、訪れることを念願しています。
最後に、卒業生の皆さんが、設立52周年を迎えた医学部同窓会へ、こぞって入会されることを、心から歓迎して、祝辞とさせて頂きます。
平成24年3月16日
札幌医科大学医学部同窓会
会長 矢花 剛
《参考・引用》
日野原重明・仁木久恵訳:平静の心─オスラー博士講演集新訂増補版、2011、医学書院、東京
渡辺淳一著:鈍感力、2007、集英社、東京