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分子・器官制御医学専攻:遺伝子医学領域

ゲ ノ ム 医 科 学

スタッフ 教授 時 野 隆 至  講師 山 下 利 春  中 田 修 二

ヒト癌を対象にした発癌機構の解明
  病気の発症には、遺伝的要因と環境要因が関与しており、単一の遺伝子変異による「遺伝病」をはじめ、癌、感染症、生活習慣病などの疾患にも複数の遺伝子が複雑に関与していることが明らかになってきた。世界レベルで行われているヒトゲノム解析の進展による膨大なヒト遺伝子情報の蓄積から、これらの疾患の発生原因、発病メカニズムを根本から解明し、従来の方法では解決することが困難であった疾病も克服することが可能になってきた。
  本専攻科目では、ヒト遺伝子情報を基盤として、癌をはじめとした疾患関連遺伝子の特定、疾患の診断法、有効な予防法などにつながる分子レベルの基礎的研究とヒトウイルスゲノムの解析を行います。


研究テーマ
1 ヒト悪性腫瘍の発生機構の分子遺伝学的及び分子生物学的研究
2 癌抑制遺伝子p53機能解明
3 メラノーマ発生機構の解明及び遺伝子診断・治療
4 胃腸炎ウイルスの遺伝子解析


研究内容の具体例
 種々の腫瘍において、その発生及び進展、悪性化にかかわる癌遺伝子・癌抑制遺伝子を同定することによって、発癌の機序を明らかにし、遺伝子情報に基づく革新的な診断法、予防法への応用を目指します。
 広範な種類のヒト悪性腫瘍で高頻度に欠失及び変異が認められている癌抑制遺伝子p53は転写因子として機能します。p53によって発現制御される遺伝子(p53標的遺伝子群)は細胞周期、アポトーシス誘導,DNA修復、染色体ゲノムの安定性、血管新生阻害など多種多様な機能を発揮して、その結果、癌細胞の化学療法・放射線感受性に 関わっています。本専攻科目では、新規のp53標的遺伝子の単離と機能解明を行っています。
 メラノーマは、悪性度の高い癌の一つで日本でも増加傾向にあります。私達は、(1)メラノサイトとメラノーマに特異的な遺伝子の構造、発現、機能の研究と、(2)メラノーマの遺伝子診断と遺伝子治療の基礎的研究を行っています。
 ウイルス性胃腸炎は、乳幼児から成人にかけて頻繁にみられ、医学的問題のみならず社会経済的問題を引き起こす。各胃腸炎ウイルスの遺伝子解析をとおして、その発症防御に関わる臨床的並びに基礎的な研究を行っています。


大学院での研究生活について
  大学院の目標は研究者としての基本を身に付けることにあります。最先端の領域で与えられたテーマについて研究計画を立てること、実験材料の調整や測定など必要な実験技術を習得すること、実験結果を客観的に評価すること、学術論文にまとめることなどです。その過程で研究において何が重要かを見抜く力を養うことができれば、すばらしいことです。


大学院修了後の進路
  大学院修了後の進路は様々であるが、留学を希望する大学院生に対しては、世界の最先端を行く施設での海外留学を推奨している。




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分子・器官制御医学専攻:遺伝子医学領域

分子医学・遺伝子治療学

スタッフ 教授 濱 田 洋 文  吉 田 幸 一

難病に対する新しい遺伝子治療法の開発を目指して
  癌をはじめとした難病の本質的な治療法の開発に取り組み、遺伝子治療法開発の大きな流れを形成して行けるような研究室として行きます。細胞への遺伝子導入と遺伝子発現のための基盤技術の開発を行い、それを用いて、難治疾患の治療のポイントとなる病態の分子細胞生物学的な機構を理解し、ヒトの疾患病態をよく反映した実験動物モデルによる遺伝子治療実験を行って仮説を証明して行きます。さらに、臨床グループとの共同研究により、難治疾患を実際に治癒させうる分子生物治療の樹立を目指します。


研究テーマ
1 遺伝子治療のための基盤技術の開発
2 癌に対する遺伝子治療法の開発
3 難治疾患に対する遺伝子治療法の開発
  a)腫瘍血管新生・血管病変・炎症反応の抑制
  b)特異的な免疫寛容の誘導
  c)幹細胞の基礎生物学と遺伝子治療への応用


研究内容の具体例
 遺伝子治療のための基盤技術の開発
 細胞側の受容体分子との吸着を担うファイバーに変異を導入することによって、癌細胞の特異的標的化が可能な変異アデノウイルスベクターのシステムを確立した。治療への実用化を目指して準備を進めている。
 癌に対する遺伝子治療法の開発
 レトロウイルス、アデノウイルスなどの組み換えウイルスベクターを用いて、薬剤感受性遺伝子や癌抑制遺伝子などを腫瘍細胞へ導入する細胞傷害誘導療法、特異的な抗腫瘍免疫を増強させる免疫遺伝子療法の2つの戦略を中心に基礎研究を行っている。
 炎症・免疫疾患、移植拒絶などに対する遺伝子治療法の開発
a) 人工血管移植後の血管再閉塞の防止を目的に、内皮細胞へのtPAなどの遺伝子導入治療効果を検討している。
b) 異種肝移植、膵臓ラ氏島移植などの動物モデルで、移植拒絶に対する遺伝子導入を利用した治療効果を検討している。
c) 骨髄幹細胞を用いた治療法の検討:マウスのCD34に対する単クローン抗体を作成し、従来の予測に反して、マウスのCD34陰性細胞に骨髄幹細胞としての機能があることを示した。


大学院での研究生活について
  将来、基礎研究や臨床研究の様々な分野で多彩な貢献をしていけるような経験と力量をここで培って欲しい。臨床系の教室からの大学院生・研究生には、多くの努力を要するが、もし、達成できれば確実に臨床応用へつながっていくような、夢のある重要なテーマに取り組んで欲しい。基礎医学系並びに理学部・薬学部・工学部・農学部などの出身の大学院生には、基礎的な技術の開発や知見の積み重ねから生まれる大きな飛躍で世界を目指して欲しい。


大学院修了後の進路
  大学院修了後の進路は様々であるが、世界の最先端を行く施設での海外留学を推奨している。




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分子・器官制御医学専攻:遺伝子医学領域

分子血液病態学

スタッフ 教授 古 川 勝 久

限りなく再生する造血細胞の研究を通して
    生命現象の本質にせまり、疾患の新たな治療へのアプローチを!
 骨髄細胞は、分化増殖して血液細胞を構成するのみならず、血管や骨など様々な器官の形成や再生に重要な働きをしている。造血幹細胞を含む骨髄細胞と、その分化増殖調節機能を分子生物学的に解明することは、生命現象の理解と血液疾患をはじめ様々な疾患の本質的な治療に直結する。


研究テーマ
1 造血調節機構の分子生物学的解析
2 細胞間、細胞-細胞外基質接着機構の解明
3 血球運動機序の分子生物学的解析
4 造血細胞移植時の移植片対宿主反応の解明
5 接着分子を介した抗癌剤耐性に関する細胞内シグナル伝達の解明
6 造血幹細胞とストローマ細胞のクロストーク解明










 ストローマ上で分化した 不死化した骨髄
 赤芽球           ストローマ細胞
研究内容の具体例
1 血小板造血とその調節
 血小板由来TGF−βが血小板造血を負に調節し、骨髄内支持細胞由来のトロンボポエチン(TPO)とのバランスで血小板数が制御されることを初めて明らかにした(Blood 94,1961−1970, Blood 92,46−52)。ET患者の巨核芽球(血小板の幹細胞)におけるTGF−βのシグナルを調べ、Smad4(増殖抑制シグナルを核へ伝える因子)の発現が、プロモーター領域のメチレーションにより低下し、TGF−βによる負の調節からの逸脱がETの原因であることを明らかにした(Blood, 投稿中)。
2 造血と鉄代謝
 日本人で初めて、本邦における鉄過剰症責任遺伝子である可能性が考えられるH−フェリチン遺伝子の点突然変異と、鉄沈着をもたらす機序も明らかにした(Am J Hum Genet 69,191‐197,2001)。また、血中にTfRが存在することを世界で初めて見出し、それが造血能の指標となることを明らかにしてきた。現在TfRの測定キットは全世界で広く用いられている。
3 急性骨髄性白血病(AML)再発の機序とその克服
 AML細胞がVLA分子を介してフィブロネクチンと接合し、bcl2(アポトーシス抑制因子)の発現亢進を介し、アドリアマイシン、Ara Cなどの抗癌剤に耐性となることを明らかにした。動物実験では、VLA4抗体投与により、治療効果が高まることも確認し、白血病治療に新しい戦略を開拓しつつある(Blood,投稿中)。
4 再生医療−人工骨髄作製の試み
 不可能であったヒト骨髄支持細胞(ストローマ)の不死化に成功した(Blood,投稿予定)。ストローマ上で造血幹細胞(CD34+)の増生、赤芽球の培養にも成功した。現在、人工骨髄を試験管内で作製する研究を行なっており、これまでの輸血や骨髄バンクの概念を根本から変える可能性がある(図参照)。
5 血球運動と活性酸素
 マクロファージや、好中球が、自ら産生する活性酸素により、PKCや、small G proteinを活性化し、細胞運動を促進することを見出した。炎症反応や、抗腫瘍免疫の制御に応用するべく研究中である(JBC,投稿中)。


大学院での研究生活について
 研究計画の立案と、その遂行のための実技トレーニングを行う。定期的に、研究の進行状況を発表し、ディスカッションすることで、研究進行の効率化と、幅広い知識の獲得を行う。生活に必要な収入は保証される。


大学院修了後の進路
 内科医としての臨床研修を終了した後は、世界の最先端の研究施設への留学を推奨している。