札幌医科大学 医療人育成センター 

  教育開発
研究部門

研究活動の抱負

(1)研究に対する考え方

大学は学生の研究マインドを育てる場である。大学教育の中で学生は能動的学習態度を身につけ、自分で解決する能力を養成する必要があることは言うまでもない。研究マインドを学生に育成し、地域医療を考究する人材を養成したい。
 私がこれまでに行ってきた基礎及び臨床応用研究(蛋白質機能に関する研究に始まり、プロテオミクスによる血漿バイオマーカー研究を展開し、新しい認知症バイオマーカーの提示に至っている)で培ってきた研究マインドを学生示すことも重要であると考えている。




(2)これまでの私の研究概要

生化学を基盤とした研究を行ってきた。

<背景>
 我々はかつてない高齢化社会を迎え、それに伴い認知症患者が増加し続け、患者数が10年前の2倍近くに増大し、大きな社会問題となっている。認知症の中で最も頻度が高いアルツハイマー型認知症(AD)に対する治療と進行遅延への対策のために、分子生物学的研究結果を基にした戦略が注目されている。
 ADはNINCDS-ADRDA,ICD-10,DSM-IVをはじめとする複数の診断基準が存在し、確定診断の困難さを持つ。また、患者数の多さに対して専門医数が少なく、専門医以外の診断による対応が実際のところ行われる。
 一方、高齢化に伴って気分障害(鬱)による認知機能障害が多く現れ、「治療可能な鬱」と「変性疾患のAD」との区別の必要性がある。しかし、高齢者の鬱は、ADや他の疾患に随伴することも認められ、高齢者の複雑な症状ゆえの困難さが問題である。
 ADが神経変性疾患でありながらもヒトの高次機能障害のため、AD研究のための有用な動物や細胞モデルが乏しく、研究の困難さを極めている。また、高齢になるに従いAD有病率が増加することは、老化との関連が伺える。すなわち、時間の経過に伴う生物の諸機能の低下がAD発症に結びつくことが考えられる。
 ADの生化学的特徴は、異常代謝産物(42残基ペプチドAβ42)の過剰産生により、このペプチドが脳内の様々な代謝過程に影響を及ぼし、酸化的ストレスやCa2+-ストレスを引き起こすことである。また、Aβ42自身がオリゴマーを形成し細胞膜に入り込んでCa2+-チャネル活性を持つ、機能障害の分子機構が明らかになってきている。

<これまでの研究結果の概要>
 ADがCa2+-ストレスと関連することを基に神経培養細胞を用いて、分泌蛋白質のプロテオーム解析を行った結果、Aβ42による細胞死が起こる前から細胞培養液中にCa2+・リン脂質結合蛋白質アネキシンA5が増大することを見出した。すなわち、アネキシンA5がAβ42により細胞外に分泌されることが示唆された。更に、老年精神医学専門医の確定診断を受けたAD患者150名、老人クラブ会員である健常高齢者280名の血漿アネキシンA5を調べたところ、カットオフ値2.19ng/mlで、感度82%、特異度78%でADと健常者を識別することができた。このように血漿アネキシンA5は有用なマーカーとなる可能性が示されている。




(3)今後の研究計画

変態を行う生物が形態を大きく変えるが、変態前後のゲノムは同一であり、その形態の差は発現される蛋白質や機能の差によって現れる。すなわち、蛋白質は機能の中心で、病態を解析するうえで蛋白質を見ることは有用である。また血漿にはDNAは存在せず、血漿で病態マーカーを探るには蛋白質そのものを扱う必要がある。近年、二次元電気泳動、質量分析、コンピュータ解析の目覚ましい発展により微量であっても蛋白質を同定することが可能になった。我々は質量分析(LC-MS/MS)を用いたプロテオミクスで蛋白質に目を向けてきている。今後は、認知症、鬱、コントロールを区別する方法を開発していく。



 我々の研究によりADと気分障害を明確に区別する複数の血漿マーカーが提案され、各マーカーの重み付けを加えた新しい鑑別方法の開発が期待される。現在、ADの確定診断のための検査法は乏しく、症状が出現してからの存在診断であるため、進行した状態で認められるケースが多い。進行した状態では、薬物治療の効果が期待できないのが現状である。リハビリテーションや薬物療法は、症状が進行していない早期に行われなければ功を奏さないことが報告されている。





(4)期待される社会的貢献性

本研究では、簡便な血液診断の開発による早期発見を目指している。血液を採取するだけで認知症の診断を補助的に判断することへの貢献になる。したがって、この簡便な方法を開発する意味は大きく、容易な実用化に結びつく。
 認知症の増加は先進諸国が直面する最大の悲劇である。経済発展に裏付けられた医療の進歩、栄養状態の改善、上下水道の整備などにより、国民の医療衛生環境は格段の進歩を見た。しかしながら、これらの努力によってもたらされた長寿社会が、認知症の増加に直結したといえる。加齢が認知症の最大のリスク要因であることは論をまたない。




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