シェーグレン症候群

 シェーグレン症候群は唾液腺や涙腺などの外分泌腺を首座とした全身性の自己免疫性疾患ですが、この病気が発症する詳しいメカニズムは分かっておらず、現状では対症的な治療に限られています。シェーグレン症候群を患っている患者さんたちは慢性的な唾液腺炎や涙腺炎の結果、唾液や涙液量の低下をきたし口腔内や眼の乾燥症状に苦しんでいます。当教室の髙橋裕樹教授は日本シェーグレン症候群学会の理事長を務め、北海道内のシェーグレン症候群の専門医の一人として数多くのシェーグレン症候群患者さんたちを診療してきました。また中村浩之助教は米国国立衛生研究所へ留学しシェーグレン症候群の病態研究に従事してきました。当教室ではその診療実績と経験を活かし、シェーグレン症候群の病態解明に関する研究を行っております。

 私たちは涙腺や唾液腺におけるインターフェロン応答に注目しその病態を解明したいと考えております。なぜなら涙腺や唾液腺は単に涙や唾液を産生する腺組織ではなく、あらゆるウイルスの侵入に備える抗ウイルス免疫の最前線として重要だからです。実際に多くの研究が様々なウイルス感染症とシェーグレン症候群発症との関連性を報告し、またゲノムワイド関連解析ではIL12AやIRF5、STAT4といったインターフェロン応答に関連する遺伝子多型が、シェーグレン症候群の発症リスクとして特定されました。すなわち、私たちは唾液腺または涙腺でのウイルス感染に対する異常なインターフェロン応答がシェーグレン症候群の発症要因になっているのではないかと考えております。

 中村浩之助教は留学中の仕事の中で、シェーグレン症候群患者の唾液腺上皮細胞においてインターフェロン誘導タンパクの一つであるリソソーム関連膜蛋白3 lysosome-associated membrane protein 3 (LAMP3) が異所性に高発現しており、リソソームの機能異常を介して唾液腺機能障害の一因となっていることを明らかにしました。さらに予備的検討において、唾液腺上皮細胞のLAMP3発現レベルはシェーグレン症候群の全身性合併症の有無と相関することが分かりました。そのため、唾液腺上皮の異所性LAMP3発現が局所の唾液線機能障害を越えて全身性自己免疫疾患の発症へとつながるメカニズムの解明を米国国立衛生研究所と共同で継続研究しております。本研究で得られる成果によって唾液腺上皮の異常から免疫寛容の破綻が生じる詳細な機序が明らかになるとともに、シェーグレン症候群に対する根本的治療の開発へ繋がることが期待されます。