新任教授・役職者

新任のご挨拶

附属病院長(病院経営管理学) 土橋 和文

はじめに

 北海道150年の今年、4月1日付で附属病院長を拝命いたしました。医学部28期(昭和56年卒)土橋です。この場をお借りしまして同窓会会員の皆様に御礼と御挨拶を申し上げます。諸先輩および同窓会会員諸氏におかれましては、平素の札幌医科大学・附属病院への御厚情と多大なる御尽力に、深く感謝を申し上げます。元より、浅学菲才の身ながら、附属病院移転改築と医療変革・働き方改革など、重要な課題が山積の時期に舵取りの機会を頂きました。身が引き締まる思いと、落ち着かない毎日でございます。

1. 変更された附属病院長の選出制度

 まず、大学病院での附属病院長の選出制度が変更された経緯についてご説明申し上げます。特定機能病院での複数の医療事故等を経て、厚生労働省では、医療安全・新規および未承認医療・臨床研究等での体制強化を指示いたしました。このうち、医療安全については「附属病院長のガバナンス」の担保が特に強調され、全病院への「特別」および「定例立ち入り」の場においても、病院長へのあたかも「口頭試問のごとき問答」が毎回あり、閉口いたしておりました。
 平成28年12月には「基本取りまとめ」がなされ、平成31年度から「本格実施」となります。厚生労働省から平成30年度の新規選考実施については前倒の指示がなされました。三本柱の「資格要件」では、医療安全業務については院内医療安全委員会への参画と複数回開催の第三者機関講習会(現在は、病院評価機構で年4回開催)等への年1回以上の継続出席を課されました。加えて、札幌医科大学ではこれまで、残る二本柱の「附属病院長の職務権限の明確化」「病院運営のモニタリングと監査」については充分な体制を敷いてまいりました。しかし、病院長選任基準が明確化され、選任法をこれまでの推挙の後、「病院職員の投票による」ものではなく、「広く候補者を募った上で、外部委員を含めた選考検討委員会で適格候補者を選任し、大学議決機関で決定する」と変更となっております。当院においては、「民意は健全」と思う小生には、正直言って違和感がありますが。今後、それぞれの職能の長には、これに準じた公選制を導入せざるを得ないと思います。
 古来より、「正義と横暴」、「思慮と卑劣」、「勇気と野蛮」、「節制と臆病」は表裏一体と称されます。附属病院長の責任を回避するものではありませんが、「人・物・金・哲学」のいずれの決定権のない状況での「ガバナンス」の過剰な強調は的外れの指摘であり、「マネジメント」程度が、この大きな組織では最適と思っています。個人としては、「したいことをできない大学病院には誰も残らない」のは熟知しています。三猿の真逆となりますが、「よく聞く」「よく見る」「すこし言う」を旨に、医療者の支援者に徹する覚悟です。

2. 附属病院の課題について

 さて、本題です。本学附属病院は昭和25年に開院後、70年弱の年月を経ましたが、使命(ミッション)・信条(クレド)は単純明確かつ不変であります。すなわち、「患者さまに信頼、満足、安心していただける安全で質の高い医療を提供するとともに、高度な先端医療の研究・開発に取り組み、人間性豊かな優れた医療人の育成に努め、北海道の地域医療に貢献することを目的とします」としています。偏に諸先輩諸兄の文字通り粉骨砕身の御努力により、当地での「地域医療の守り人を拝出する」施設として、極めて高い評価を得て参りました。

 本学志望する多くの学生さんが「同窓の皆様が各地で働く姿勢に触発された」、また医学生の医療実地実習後に、「医療者としての覚悟に感銘した」との発言を聞くたびに、私事のようにうれしくなります。生涯にわたる同窓会会員の相互結合の強さ一体感は、本学の大きな特徴となっています。今後とも良き伝統は継承し、卒前・卒後の一貫した教育、社会に影響力のある医療の実践と共同研究は、医育機関として生き残りの上では必須となります。
 しかし、人口高齢化・地域偏在と社会疾病構造による医療環境の変化と地域医療計画の策定、医療の高度先進化と機能分担、多職種および病院間・医療・介護の連携強化、長時間労働と女性医師などの医療者の働き方改革、医学教育制度の変化:臨床実習の長時間化と国際認証、OJT(On the Job Training)からの脱却と医療へのIoT(Internet of Things)への積極的参入、新専門医制度、医療効率化と医療職の医業集中(タスク・シフティング)、住民・患者のヘルスケア意識の向上、個人保護法・倫理規定と臨床研究制度の激変など、大学附属病院に要求される臨床・教育・研究のどれをとっても、変革範囲と要求される速度感は、驚愕に値します。 

3.附属病院改築について

 当院の喫緊の最重要課題は、附属病院の新西病棟移転と旧南北病棟改修による再編でありますが、病院整備については山下敏彦 前院長が、前号の同窓会誌(AMICUS30号)に詳細に書かれておられます。ご参照ください。当附属病院は、日々5000人余の人々が交差する巨大空間であります。医療の「実践の場」のみならず「生命科学との統合や未来を語る場」であります。附属病院では、これまでの狭隘化解消と新たな機能を付託すべく改築中です。平成30年4月6日、同窓会・後援会の皆様への内覧会が行われました。
 今後の改築では「病床群の配置と削減」、「中央診療部門整備(中央手術室と中央ICU一括整備、救命センターから目的別機能の強化:多重外傷・火傷、災害医療、疾患別治療室、精神科救急)、特殊治療センター(内視鏡、IVR、化学療法・腫瘍治療部門、神経機能センター)」「同一階層配置による多職種チーム医療」、「リハビリ等の外来強化と日帰り手術支援」が可能となる設備配置です。
 未来医療としては、神経再生医療の臨床応用、地域医療構想への参画、五疾患五事業関連(がん、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病、精神疾患、救急および災害医療、小児および周産期、僻地医療と広域連合など)とゲノム・遺伝医療への手配が必要となります。また、これらの課題に対応すべき若手医療職を中心とした附属病院の将来構想(新棟計画、地域医療のための遠隔地医療、女性・労務環境問題、外来機能強化など)の提言を頂く機会を設けたいと思います。

4. 病院管理について

 医業集中のための病院管理体制(タスク・シフティング)が重要課題であります。具体的には、医療秘書と医事職員による疾患別フロアサポーター制度と徹底的クリニカルパス化による業務軽減を図ります。このフロアサポーター事務部門では、部門別目標設定(特性別KPI、部署別収支導入)、物流と在庫調整、医事請求業務(保留・未請求・未収対策)、DPC対策(機能係数対策、病名見直)を一括担当することになります。 
 医療安全・医療の質では、医療安全制度の更なる充実と人材教育、ピアレビュー強化(モニタリング、QICI制度)が必要である。医療の唯一の財産である診療情報は、診療録標準化と医療情報の集中管理、研究支援強化、遠隔連携が必要である。また、医療人の定数配置と労務環境の改善時間外労働の問題として宿直体制の見直しがある。次に医療連携としては、患者ないし医療人の移動の無い疾患ネット支援(関連病院連携)、IT構築(画像、症例、救急医療など)が必要となります。
 また、当院では連携センター部門が日常業務の規模と合致しておりません。この点は、同窓会員の皆様から、常々拝聴する「明確な欠陥」であります。おそらく、どの病院より実質的な「空床」があります。「大学病院は混んではいないのです」、附属病院でも在院日数が10日前後となり、さらなる見える化と有効活用が必要であります。

5. 教育・研究支援・市民発信などについて

 学部教育と卒後研究の一括運用による医療人の生涯教育モデルの運用、研究マインドの醸成と研究環境対策は最重要課題である。まず、卒前から卒後(初期・後期研修、専門医および大学院教育、臨床研究、再教育)、学会専門医登録などの支援、教育センターの強化による教育関連施設との関係強化、再教育(アフターケア)への教育資源の提供は有益であります。幸い、白鳥正典先生を専従教員とし、兼任教員と併せ6名体制となりました。今後、多くの臨床教授教員の皆様との意思疎通の上、共通認識での研修充実を図ってまいります。
 さらに、患者を中心とした今後の実地医療では医師・看護師のみならず多職種の連携が必要となります。想定される全ての人的資源を持つのが附属病院であります。具体的には看護師教育としての卒前研修と看護キャリアセンター、PT/OTの全国研修制度も附属病院として全面的にサポートしていきます。加えて、大学側のスキルスラボの有効活用による短期研修のプログラムへのご要望にも答えて参りたいと存じます。
 一方、圧倒的指導力と丁寧高度な医療は大学病院の魅力でありますが、経験的に「働き易い」とは考えておりません。症例数、専門医教育と分野、総合医療のレベル、臨床研究、標準化医療、若干の例外を除きどれも当然最高位であり、マインドに帰結できると思います。探求心と教育力を持った臨床医の育成と最先端医療への道程とチャンス(国内外留学・新規医療研修など)を示す必要があります。
 臨床研究の支援体制整備、臨床研究中核病院制度・認定臨床研究審査委員会機能への対応、ゲノム医療の推進が挙げられます。この度、樋之津 史郎先生に医療統計学担当教授として新たに赴任いただきました。臨床研究の統括とモニタリングを実施できる体制となります。先に述べましたが、札幌医大と教育関連病院などとの連携は他に例のないほど強固であります。「古き医局制度」の弊害として語られることも多いですが、継続可能な仕組みに改組する必要があります。北海道は広域であり、補助手段としての遠隔連携の仕組み構築と利用可能な稀少疾患および一般疾患の登録も必要となります。

6. 働き方改革について

 政府が進める働き方改革は形式的な労務時間を概括的に論じているにすぎません。能力と意欲を最大限発揮できるキャリアと働き方をフル・サポートすることが本質であります。しかし、 医療機関の人材・労務マネジメント体制、女性医師支援の重点的な強化、地域医療支援センター及び医療勤務環境改善支援センターの実効性の向上、リソース・マネジメントは当然必要となると思います。

おわりに

 長々と書かせて頂きました。附属病院での部局長等の人事については別表に掲載させていただきました。札幌医科大学および附属病院にとって、次世代の育成と登用はことに大切な懸案です。同窓会会員の皆様にはこれまでにも増して、札幌医科大学および附属病院職員、そして未来の担い手への、更なる御厚情とご指導を拝借いただきたくお願い申し上げます。