「退職にあたり:放射線医学の40年間を顧みて」

札幌医科大学 医学部放射線医学講座 教授 晴山雅人

 1972(昭和47)年に札幌医科大学を卒業後国立札幌病院、国立函館病院において放射線医学、特に放射線治療を研修し、1983(昭和58)年に現在の病棟や外来棟が新稼動する時に再び札幌医科大学に勤務した。当時は今よりもさらに小さな教室で、当直は4名の医師で行っていた。放射線治療患者さんもコバルト外部照射患者20名弱、ライナック患者10数名と現在の患者数の3分の1程度と少なかった。森田前教授のご了解のもと、放射線治療の重要な柱である小線源の充実を目指し、子宮癌や耳鼻科領域の腫瘍に対する腔内照射や組織内照射(セシウム針)の確立を行った。わが国では、癌患者の死因は徐々に増加し第1位となり、現在は癌患者さん4人に1人以上の約27%が放射線治療を受けている。放射線治療は担癌臓器の機能と形態を温存でき、患者の全身状態へ負担の少ないことが特徴で、放射線治療の役割は増して行くと推定される。 1998年に教授に就任し、放射線治療患者さんの増加と放射線診断装置進歩および導入により近代的な放射線医学の進歩と重なる時代を過ごす事ができた。

 この間、理学的および生物学的進歩に伴い、放射線療法は大幅に進歩してきた。当大学で特に力を入れて行った疾患を記載する。

  1. 乳房温存療法:乳房温存療法は治療法の60%以上を占め、女性にとって高いQOLが得られる時代になってきた。当院でも1990年に2名のみであったが、最近は年間約250名以上に増加している。以前は腫瘍径が小さな時にのみ適応とされたが、現在は病巣が大きくとも本治療がなされるようになってきた。また、手術標本による断端陽性例に対しても、放射線治療の有効性が外科医に認知され、さらに患者の増加をみている。また、摘出術にて断端に少量の残存腫瘍があっても放射線治療により制御がなされる。
  2. 化学放射線療法:進行食道癌の無作為比較臨床試験で、5-FUと cisplatinの同時併用が放射線単独治療よりも有意に高い生存率を示した。 現在、手術とほぼ同等の治療成績が得られ、進行食道癌に対する標準的治療法と考えられている。当院の治療成績も極めて良好である。さらに頭頸部癌においても高い治癒率を得ている。
  3. 前立腺癌:放射線治療技術の進歩により多分割絞りをコンピュータ制御し、正常組織への線量を減じ、前立腺のみに高線量の照射が可能となる強度変調放射線治療(IMRT)や画像誘導放射線治療(IGRT)により、放射線治療成績は手術とほぼ同等で副作用も低く治療されるようになった。さらに125Iシード組織内照射により短期間で治療をなすことができる前立腺癌患者の増加を見ている。

 今後の課題は従来のphotonによる放射線治療では如何に工夫を行っても克服できない、線量分布の問題点がある。そのためには、粒子線治療が必要である。我が国において現在9つの施設にて治療が行われている。従来の放射線と比べ、物理学的な線量集中性と生物学的効果比も高く良好な局所制御率の向上が期待されている。2000年に北海道庁においても設置の検討がなされたが、費用対効果の点から導入の道が絶たれた。従来は、郊外型、サッカー場の広さ、100億円であったが、最近は小型化され、都市型、テニスコート、30億円程度となり、今後北海道における本治療の確立に貢献して行きたいと考える。

 1989年MRI装置、1991年に治療計画用CTが導入され、札幌医科大学放射線科での放射線診断学がスタートした。その後、診断装置の進歩は目覚ましく、画像診断なくしては詳細な診断や治療ができない状況となっている。2011年より札幌医科大学放射線科は放射線治療科と放射線診断科に分離された。放射線医学の新しい時代が展開され、さらなる大放射線科と飛躍することを期待したい。