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情報伝達制御医学専攻:脳神経科学領域

脳神経機能学

スタッフ 教授 青 木   藩  助教授 藤 戸   裕  松 山 清 治

脳の神秘に立ち向かう、ニューフロンティアに挑もう
 日本でも「21世紀は脳の世紀」とのキャッチフレーズで、脳関連科学振興の国家プロジェクトが動き始めた。今、脳の神秘に挑戦する科学者が世界中で急速に増加している。第2生理では、高等動物全動物標本から単離細胞標本までの多彩な標本系で、多様な手法を用いて脳機能に関する研究を行っている。サイエンスにおける最大のフロンティアともいえるニューロサイエンスに挑む意欲にあふれる学生を大いに歓迎する。


研究テーマ
1 呼吸リズム形成の中枢神経機構          5 シナプスの可塑性と海馬LTP
2 脊髄損傷に対する神経移植            6 末梢運動障害の中枢神経性代償
3 麻酔薬、低酸素の神経作用            7 学習の神経機構
4 神経活動、イオン変化の光記録


研究内容の具体例
 呼吸リズムは中枢神経において形成される。新生児動物から摘出した脳幹脊髄標本を人工脳脊髄液中に生かして、微小電極により神経活動の記録を行う生理的手法や、動物の脳内の特定部位にトレーサーを注入して神経接続を調べる組織学的手法を用いて、当教室で世界で最初に報告した脊髄性呼吸リズムの生成機構の解析を行っている。
 脊髄損傷は損傷部位より下位の脊髄に支配される身体の運動と感覚機能が失われる重大な損傷である。脊髄切断部位への神経組織の移植を行い、脳幹にある呼吸性ニューロンの軸索の移植組織への伸長の検索や動物の歩行運動の回復の解析等を行っている。神経損傷に対する神経系機能回復を試みる基礎研究の発展が期待される。
 脳組織を1o以下の薄い切片にすると、正常な神経回路接続が相当程度保存された状態で人工脳脊髄液中で生かしておける。薬物を灌流液に負荷することにより、細胞内電位パッチクランプ法により麻酔薬等のシナプス伝達修飾作用を解析している。灌流液の酸素濃度を制御することにより、脳組織の低酸素に対する脆弱性の機序と脳保護剤の作用を調べている。
 脳切片にカルシウムイオン指示色素、膜電位指示色素を負荷することにより、神経組織中の細胞内カルシウムイオン濃度や膜電位変化の様子を顕微ビデオ撮影により画像化できる。低酸素負荷によるカルシウム濃度上昇と細胞死の関係を調べている。


大学院での研究生活について
 大学院生は限られた年数内に実験的研究を遂行し、学位論文を提出しなくてはならず、正直言って生活はハードです。しかし、経験豊富な指導教官について実験技術を習得し、自分の研究テーマに挑戦する人生で最も充実した研究生活を送ることができます。また、論文抄読会などで急速に英語力を身に付け、世界で活躍する研究者になれます。


大学院修了後の進路
  大学院修了後の進路は様々であるが、留学を希望する者に対してはカナダ、アメリカ等、留学先を紹介できる。




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情報伝達制御医学専攻:脳神経科学領域

脳神経機能薬理学

スタッフ 教授 堀 尾 嘉 幸  助教授 宮 本   篤  八 田 愼 一
          講師 竹 村 晴 夫                         

分子の薬理学
  蛋白質分子の研究からその生理作用、疾患との関連、さらに治療薬の開発をめざします。具体的には脳を中心として、老化のメカニズム、イオンやチャネルの研究を行っています。


研究テーマ
1 老化の分子基盤
2 チャネル分子の分子基盤と生理機能
3 脳水輸送システムの解明
4 シグナル伝達の分子基盤とその修飾薬


研究内容の具体例
 老化に関与する転写制御因子 Sir ファミリーを取り上げ、組織分布、aging による発現量の変化、 Sir と complex を作る他の蛋白質の解明、生理機能について、cDNA クローニング、培養細胞系での発現、特異的抗体や生化学的手法を用いた研究などから明らかとしていきます。また、Sir によって転写抑制を受ける因子(老化因子)の解明を行います。
 カリウムチャネル、なかでも特にATP感受性カリウムチャネルを中心として、細胞の分化や死における役割を培養細胞系での発現、特異的抗体を用いた研究などから明らかとしていきます。
 脳での水の輸送には AQP4 と言われるグリア細胞水チャネルとカリウムチャネルが関与しています。これらの分子の機能と脳浮腫の関連を明らかとしていきます。
 GTP 結合蛋白質や Ca2+よるシグナル伝達の分子機構を脳や培養細胞系を使って、超高速 Ca2+ 測光や生化学的手法、さらには各種の薬物を用いて明らかとしていきます。


大学院での研究生活について
 研究方向は実際のデータを基にして、スタッフとの discussion を重視しながら決定していきます。大学院生であっても研究のプランニングに積極的に参加していただきます。このためには自らの研究について積極的に勉強し、常に自ら考え、さらに自分の意見を持つことが要求されます。また、海外の研究者と積極的にコミュニケーションすることは研究を発展させる上で必要であるため、海外の学会にデータを発表していただく機会を作ります。


大学院修了後の進路
  留学先については紹介しますが、プロの研究者をめざす人は自らの大学院時代の研究成果をもとに積極的に世界の一流研究室に自ら応募し、自分をアピールし、ポスドクとして採用されることが必要と考えます。




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情報伝達制御医学専攻:脳神経科学領域

神経・筋機能病態学

スタッフ 教授 松 本 博 之  助教授 千 葉   進
                   講師 今 井 富 裕

臨床から神経科学の扉を開こう!
 神経内科は、中枢神経、末梢神経、そして筋肉の疾患の診断と治療を担当しており、ますますその重要性を増していますが、その基礎を支える神経科学は神経化学、神経免疫学、分子生物学、機能的神経生理学などの分野で急速に進歩しています。若い研究者には、最新の科学技術を駆使して神経・筋疾患の病態を解明し、治療に応用することが期待されています。大学院コースで臨床と直結した神経科学の研究に挑戦してみませんか。


研究テーマ
1 感染免疫からみた免疫性末梢神経障害、とりわけ脱髄性病変の病態機序。
2 リウマチ性多発筋痛症及びその関連疾患の画像解析、臨床マーカーの動態からみた病態解析。
3 神経変性疾患患者の呼吸障害機序の解明。対策のための臨床的ガイドラインの作成。
4 パーキンソン病の運動障害に関する研究


研究内容の具体例
免疫性末梢神経障害の病態解明、神経変性疾患の変性過程に関与する分子シャペロンの研究
(1)  Guillain−Barre syndrome,CIDP など、免疫性末梢神経障害の病態と H.pylori 感染との関連性。特に、H.pylori 由来の細胞空胞化因子の変異遺伝子とその産生蛋白の解析。患者髄液に検出される抗空胞化因子抗体の末梢神経における標的分子の検索。
(2)  諸種神経変性疾患の神経細胞死と H.pylori 由来の熱ショック蛋白(HSP)の関連。患者髄液に検出されるH.pylori HSP60 family に対する抗体による、分子シャペロンとしてのヒトHSPの機能的修飾。
リウマチ性多発筋痛症及びその関連疾患の画像解析、病態解析。特に、シンチグラム、MRIの有用性と病態を反映する臨床的マーカーの機能的意義。
神経変性疾患の呼吸障害機序の解明。対策のための臨床的ガイドラインの作成。
 運動ニューロン疾患、多系統萎縮症などの神経変性疾患患者における呼吸・循環動態の解析。特に、咽頭・喉頭筋、声帯の観察技術の開発とその解析。治療法の確立。
経頭蓋的磁気刺激のパーキンソン病治療への応用
 経頭蓋的磁気的刺激の治療効果を以下の項目で検討する。
 (1) パーキンソン症状の臨床的評価
 (2) 前頭葉機能を中心とした高次脳機能評価 : 前頭葉機能、うつ症状の評価、痴呆症状の評価
 (3) 運動障害の神経生理学的検査 : 
  (a) Actigraph用いた運動量の定量、(b) 反応時間の測定、(c) P300を用いた前頭葉認知機能の評価
 (4) 髄液中ドーパミン代謝物の変化
大学院での研究生活について
 関連する基礎講座へのローテーションも可能です。スタッフとのディスカッションを通じ、研究及び論文発表の指導を受けますが、経済面でも心配なく充実した研究ができます。臨床研修についても大学院修了までに日本神経学会専門医となる実力は勿論、内科の分野でも患者をケアするために必要な質の高い実力が培われます。


大学院修了後の進路
  大学院修了後は神経内科及び関連領域の臨床研修を充実させ、日本神経学会、日本内科学会などの専門医資格を取得する。希望する者には海外留学による研究発展も奨励している。




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情報伝達制御医学専攻:脳神経科学領域

精神機能病態学

スタッフ 教授 齋 藤 利 和  今 井 道 夫
                     助教授 小 澤 寛 樹    講師 中 野 倫 仁

脳の世紀・精神の時代への挑戦
 21世紀は「脳の世紀」といわれ、神秘のベールに包まれた脳への挑戦が始まろうとしている。「精神は脳に宿る」ため、精神疾患の病因解明・治療法開発には、ヒト脳高次機能の物質的基盤と同時に精神及びヒト相互のコミュニケーション過程を明らかにする必要がある。ここでは気分障害(躁鬱病)、精神分裂病、薬物依存、老年期痴呆(アルツハイマー病)の身体基盤の解明と治療法の開発並びにリエゾン精神医学領域(緩和医療・慢性疼痛)に関わる生物学的・社会精神医学的研究等をテーマとしている。さらに今後生物学的(脳)精神医学研究を発展させていく上で医療倫理問題と当事者(患者とその家族)との協力関係を社会科学的方法により検討することも研究課題とする。


研究テーマ
1 内因性精神病(気分障害・精神分裂病)の成因と治療・予防をめざした分子レベルからのアプローチ
2 依存形成の生物学的基盤に関する研究
3 アルツハイマー病の病態並びに治療法開発(新規向知性薬の探索)に関する分子生物学的研究
4 ヒト高次認知機能と視空間成立機構に関する神経心理学的研究
5 精神保健に関する社会精神医学的研究


研究内容の具体例
 内因性精神病の成因解明と治療薬の開発を脳シグナル伝達系よりアプローチする。また、DNAチップ法等を用いて疾患関連遺伝子・薬剤反応性関連遺伝子を探求し、患者個人に対する最適な投薬(オーダーメイド医療)等による治療成績の向上をめざす。ポストゲノムにおける研究として情報系蛋白質相互作用に関与する細胞膜内環境と精神疾患の病態に関連を明らかにする。あわせて研究ソースとしての脳バンク、DNAバンクの構築も行っていく。
 薬物依存症の病態解明と生物学的マーカーの開発。WHO、ドイツと共同して血球成分の情報伝達系の変化から依存のモニタリングをもくろむ。また、死後脳を用いた分子生物学的研究やアルコール依存症に関するアポトーシスの関与に関する研究、さらに、たばこ依存症に関する疫学的研究も行っている。
 アルツハイマー病(AD)は、痴呆の原因として重要であり、その病態解明に大きな注目が集まっている。病理的には、アミロイドβ蛋白が脳に沈着する事が特徴的である。このβ蛋白の沈着に関する機序を終末糖化物質(AGE)との関係から解明し、治療法を試みる。また、ADの病態解明と関連する生物学的マーカーや新規抗痴呆薬の探索、さらにADにおける核転写因子(CREB)リン酸化の役割を追究する。
 脳で受け取る情報の約9割が視覚情報であり、その情報処理過程は大脳皮質後方連合野を中心に行われている。精神神経疾患(精神分裂病、躁鬱病、AD)では脳高次機能を支えるこの視空間機能が障害される。そこで最新の神経心理・認知科学的手法によりその機構を明らかにする。

 臨床研究としては、生物学的及び社会精神医学的な方法論を用いてリエゾン精神医学に関する研究(自殺、慢性疼痛、電気けいれん療法、緩和医療)、心理療法に関する実証的研究、集団療法・自助グループの機能・効果に関する研究を行う。

大学院での研究生活について
 大学院生は、独自に研究計画を立て研究を進めることができる。臨床と研究が両立できるプランが用意されており、勤務時間外や週末のアルバイトで生活費は間に合うようになっている。定期的研究ミーティング等により適切な指導を受け、また、国内・国際学会(米国神経科学学会)へも積極的に参加し研鑽を積む。


大学院修了後の進路
 進路は様々であるが、世界の最先端を行く施設での海外留学を推奨している。
 (過去の留学先:ドイツビュルツブルグ大学精神科、米国イリノイ州立大学生理学講座、米国コロラド州立大学薬理学教室、フィンランド国立衛生研究所アルコールセンターなど)