5. おわりに

 本稿は、雑誌「ウイルス」に掲載された「カリシウイルス科、特にヒトに胃腸炎を起こすウイルスの分類と命名について」という総説を出発点に、議論を繰り返し、第41 回臨床ウイルス学会のカレントトピックスのセッションでワーキンググループの統一見解として提言した内容を当日のディスカッションを反映させ、加筆修正したものである。本稿の性質上、いちいち文献を引用することはしていない。関連文献のほとんどは参考文献としてあげた2つの総説的解説論文に見い出すことができる。

 ウイルス名は国内ばかりではなく、国際的に情報の発信や受信をする場合にも重要な意味をもつ。ここにまとめた提言がわが国で広く受け入れらることを希望する一方、カリシウイルス科ウイルスの記述にあたってウイルス種名を使用することと、ヒトカリシウイルス(human caliciviruses) という名称を今後一貫して使用しないということについて、国際的にもコンセンサスを得る必要があろう。

  このほかワーキンググループでは"Norwalk-like viruses"と "Sapporo-like viruses"の属名は、カリシウイルス科の他の属名にならい、4文字からなる単語でかつプロトタイプ株であるNorwalk virus/68株や Sapporo virus/82株などの歴史的先行性が類推できるものを支持するという見解がまとめられた。さらに、ICTVが関与しないウイルス種より下位の分類、すなわち、genogroup やcluster について、国内でのコンセンサスはもとより国際的コンセンサスが得られるような統一的基準づくりが必要であることも認識された。これは、分子疫学を行う研究者には特にかかわりが深いことで、やはりワーキンググループを作って進めて行くべきであろう。

 最後に、ここにまとめた提言は、ウイルス性下痢症研究会のメンバーが構成員となっているワーキンググループのあくまでも私的な提言である。日本ウイルス学会や日本臨床ウイルス学会の公式な見解ではなく、いかなる強制力もない。しかし、専門家が時間をかけて議論を積み重ねた結果到達したコンセンサスであり、尊重していただければ幸いである。不明な点や改善の余地などについての御意見はメンバーに寄せられたい。


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