1. はじめに

 ノーウォークウイルスやサッポロウイルスを代表とするカリシウイルス科ウイルス(Caliciviridae)はウイルス性胃腸炎やウイルス性食中毒の原因として重要な位置を占めている。カリシウイルス科のウイルス、とくにヒトに胃腸炎を起こすカリシウイルスの分類と命名は錯綜して来たが、国際ウイルス命名委員会(International Committee on Taxonomy of Viruses: ICTV)の 第7次報告が1999年8月に公表された。この第7次報告の中には、ウイルスの分類と命名の全般にかかわる重要な事項として、ウイルス種(species)を分類体系上で重視するという姿勢を明確にしたことが注目される。第6次報告までは、ウイルス種を記載する際、正書法(orthography)の規則に従わず、固有名詞や文頭を除き小文字で書きはじめ、ロ−マン体(普通書体)を使ってきた。これはとりもなおさずICTVがウイルス種を中途半端に扱ってきた経緯を反映している。しかし、今後はウイルス種の記述にあたって最初の文字を大文字にし、かつ単語全体をイタリック体(斜字体)にすることが正式のものとなった。要するに、「科(family)」や「属(genus)」と同格の扱いである。

 ウイルスの分類と命名を決める目的のひとつは、意思疎通を容易にし、誤解を避けることにある。したがって現実の世界で使わなければ意味がない。使うのはだれか。それは研究者であり、行政関係者であり、感染症を扱う臨床医である。 ICTVの 第7次報告に基づくカリシウイルス科のウイルス名は、食品衛生法で規定されているウイルス名、臨床や医学教育の場で使われているウイルス名と照らし合わせて、混乱の原因となっている。本稿は、わが国の下痢症ウイルス研究者がワーキンググループを組織し、ICTVの分類と命名をわが国の現状にどう適用していくのかという問題に、統一見解を示したものである。


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