カリシウイルス科ウイルス(Caliciviridae)の分類体系は、ICTVの第7次報告により大きく変わった。この変更により、従来Norwalk-like virus、小型球形ウイルス(SRSV)、ヒトカリシウイルスなどと多様に通称されてきた「ヒトに胃腸炎を起こすカリシウイルス科ウイルス」の分類体系と名称が確立した。また、ICTVの第7次報告から、ウイルス「種(species)」を「科(family)」や「属(genus)」と同格に扱いイタリック体(斜字体)で表記することになった。 これは、ICTVが分類上のウイルス種を重視するという姿勢を明確にしたことによる。ICTVの 第7次報告に基づくカリシウイルス科のウイルス名は、食品衛生法で規定されている小型球形ウイルスというウイルス名、臨床や医学教育の現場で使われてきて いる小型球形ウイルス、Norwalk-like virusあるいはヒトカリシウイルスというウイルス名と照らし合わせて、混乱の原因となる。そこで、わが国の下痢症ウイルス研究者がワーキンググループを組織し、ICTVの分類と命名をわが国の現状にどう適用していくのかという問題に、統一見解を示すことにした。すなわち、(1)ICTVの第7次報告 で正式に決まった新しいウイルス種名であるノーウォークウイルス(Norwalk virus)とサッポロウイルス (Sapporo virus)というウイルス名を使用し、ヒトカリシウイルスというウイルス名を全廃する。(2)ノーウォークウイルス(Norwalk virus)とサッポロウイルス (Sapporo virus)の同定は遺伝子レベルでの検査を行うことによって可能である。(3)遺伝子レベルでの検査が行われずに、電顕形態学のみに基づいている同定であれば、従来どおり小型球形ウイルスを用いる。ただし、電顕で典型的カリシウイルス様粒子が見られた場合、(これをサッポロウイルス(Sapporo virus)とすることは好ましくなく、ヒトカリシウイルスではなく、単に)カリシウイルスと表記する。(4)食品衛生法にもとづく行政検査に限って言えば、同定方法にかかわらず、小型球形ウイルスという結果報告がなされるのは現行法上やむをえず、このような現状を情報を提供する側も利用する側も認識しておくことが必要である。一方、感染症情報センターへの報告は、上記の提言に従っていただければ混乱が回避されるものと考える。同時に、国立感染症研究所感染症情報センター(以下感染症情報センター)へもウイルス種名で入力できるように提言する予定である。