北海道公立大学法人 札幌医科大学医学部 衛生学講座

臨床研究の情報公開/研究紹介

  • 臨床研究の情報公開
  • B群溶血性レンサ球菌(Streptococcus agalactiae)(Group B Streptococcus, GBS)の薬剤感受性評価と分子疫学的解析

  • 研究紹介
  • 当講座で大学院生(修士・博士課程)、訪問研究員等として研究を行なうことに関心をお持ちになり、ご質問等がある場合は以下(小林)までお問合せください。
    E-mail:nkobayas※sapmed.ac.jp (※は@に置き換えて下さい)


    1. A群ロタウイルスの分子疫学的研究
    2. B群ロタウイルス、C群ロタウイルス、H群ロタウイルスの分子疫学
    3. ロタウイルスの分子遺伝学
    4. その他の下痢症ウイルス
    5. 黄色ブドウ球菌(MRSAを含む),コアグラーゼ陰性ブドウ球菌の薬剤耐性と分子疫学
    6. 腸球菌の薬剤耐性と分子疫学
    7. 肺炎球菌の血清型分布と薬剤耐性に関する遺伝学的解析
    8. 多剤耐性グラム陰性桿菌の分子疫学
    9. 感染症の時系列解析
    10.顧みられない病気(熱帯感染症)への研究支援

  • 1. A群ロタウイルスの分子疫学的研究
     下痢症は急性呼吸器感染症とならび、世界中で最も罹患率の高い感染性疾患である。ロタウイルス(A群)は乳幼児の重症下痢症の原因として最も重要なものであり、先進国・開発途上国ともに普遍的に分布している。ロタウイルス下痢症により、開発途上国を中心に毎年18万人以上の乳幼児が死亡していると推定される。ロタウイルスによる下痢症の重症化予防と疾病負担の低減のため、2006年より欧米諸国を中心に生ワクチンが導入され、その成果が挙がっている。わが国でも2011年より本ワクチンの使用が承認された。しかし、ロタウイルス下痢症による乳幼児死亡率の高い南アジアやアフリカの開発途上地域では、ワクチンの導入が遅れており、その恩恵には十分与っていないのが現状である。ロタウイルスはヒトのほか多くの哺乳動物や鳥類に分布し、様々な抗原型・遺伝子型が知られる。ワクチンを含めたロタウイルス下痢症のコントロールを行うには、野外流行株の遺伝子型を常に把握する必要があるほか、ヒトロタウイルスにおける新興型の動向や遺伝子変異の監視、動物からヒトへのウイルス伝播などについても調査することが重要である。我々は開発途上国を主要なフィールドとし、ロタウイルス下痢症対策の基礎データとして重要なヒト・動物ロタウイルスの分子疫学的研究を行っている。最近ではロタウイルスの全遺伝子分節(11本)の遺伝子配列の決定とそれに基づく系統解析に力を注いでおり、ヒトロタウイルスの伝播・起源に関する新知見を多数発表している。

  • 2. B群ロタウイルス、C群ロタウイルス、H群ロタウイルス
     乳幼児に下痢症を起こすA群ロタウイルスのほかに、ヒトに感染するロタウイルスとしてB群、C群、H群が知られる。B群、H群ロタウイルスはおもに成人に下痢症を起こす特異なウイルスであり、アジア5ヵ国(インド、ネパール、バングラデシュ、ミャンマー、中国)のみで検出されている。C群は比較的年長の小児に下痢症を起こすウイルスで、低頻度ながら世界中に分布する。H群は、我々がバングラデシュで発見し、新種のロタウイルスとして2008年に全遺伝子配列を報告したウイルスである。我々はそれらのウイルスに関する疫学的調査に加え、全遺伝子配列と多様性を解析することにより、下痢症ウイルスとしての意義と自然界における生態の解明に向けたアプローチを試みている。

  • 3. ロタウイルスの分子遺伝学
     ロタウイルスはレオウイルス科の一員であり、11本の分節化した二本鎖RNAをゲノムとして有する。それゆえ、異なるロタウイルス株の混合感染により、遺伝子分節の組み換え、すなわちリアソートメントが容易に起こる。また遺伝子分節が部分的に重複したり欠失したりするリアレンジメントが知られる。リアソートメントとリアレンジメントは、点変異とならびロタウイルスの遺伝子進化の主要な成因である。我々はそれらの起こる機序について、ロタウイルス株の混合感染実験、変異遺伝子の配列から解析しており、自然界におけるロタウイルスの変異の理解や感染対策に役立てたいと考えている。

  • 4. その他の下痢症ウイルス
     ノロウイルスは我が国でも食中毒や胃腸炎の集団感染の原因として一般に知られるようになったが、小児の下痢症の原因としても重要である。また最近では、主要な流行ウイルスが世界的に蔓延する状況が起きていることも知られる。我々は、ノロウイルスの分布状況やその下痢症のインパクトがまだ十分理解されていない開発途上国において、小児、成人におけるノロウイルスの分子疫学的調査を進めている。 ピコビルナウイルスは二本の2本鎖RNAをゲノムとして持つユニークなウイルスで、ヒトや動物の胃腸炎に関連すると考えられるが、その実態はよくわかっていない。我々は、おもにインドで検出されたピコビルナウイルスを対象として、本ウイルスの遺伝学的多様性や生態について研究を行っている。

  • 5.黄色ブドウ球菌(MRSAを含む)、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌の薬剤耐性と分子疫学
     現代医学の礎となった抗菌化学療法の発展と同時に薬剤耐性菌が出現し、今なお医療の現場における脅威となっている。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は世界的に最も重要な耐性菌であり、従来から知られる病院獲得型MRSAのほか、最近では市中感染型MRSA(CA-MRSA)の分布拡大が懸念されている。我々は札幌医大病院検査部や学外の検査機関の協力を得て、長年にわたりMRSAの遺伝学的特徴とその動向を解析している。一部のCA-MRSAに特徴的なPVL(Panton-Valentine leukocidin)、アルギニン可動性遺伝子要素(ACME)を持つ菌株を多数検出しており、それらの遺伝学的・分子疫学的特徴を継時的に解析している。またMRSAの遺伝学的型別法の開発とその遺伝学的基盤に関する研究も継続されている。特にコアグラーゼ遺伝子の多様性に関しては豊富な遺伝子情報と菌株を保有しており、新規遺伝子型・亜型を同定している。またメチシリン耐性を規定する染色体性可動性遺伝子要素SCCmecの多様性を調べることは、メチシリン耐性の分子進化を知る手掛かりとなる。我々はSCCmecの起源とされる、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌にも注目し、そのSCCmecの多様性の解析から、MRSAのSCCmecの形成について解析を行っている。開発途上国では抗菌薬の使用が、国や医療機関により適切にコントロールされておらず、今では先進国以上にMRSAの蔓延が進んでいる場合があり、感染制御における潜在的問題となっている。我々は開発途上国(バングラデシュ、ミャンマー、ネパール)のMRSAの蔓延状況についても、現地の共同研究者とともに調査を進めている。

  • 6. 腸球菌の薬剤耐性と分子疫学

     腸球菌は尿路感染症の主要な原因菌であるとともに、院内感染の起因菌としても重要であり、特にバンコマイシン耐性を中心とする多剤耐性が問題となっている。我が国では、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)は欧米ほど蔓延していないが、その増加の兆候はすでに見られており、その他の重要な薬剤耐性についてもその動向を監視する必要がある。しかしわが国では腸球菌の分子疫学、薬剤耐性に関する分子遺伝学的研究はあまり行なわれていないのが現状である。我々は最近の臨床分離株を対象として、腸球菌のバンコマイシン耐性、アミノグリコシド高度耐性、マクロライド耐性に関わる遺伝子の分布状況およびニューキノロン耐性に関わる遺伝子変異について継続的に調査を行っている。

  • 7.肺炎球菌の血清型分布と薬剤耐性に関する遺伝学的解析
     肺炎球菌は小児から成人まで様々な年齢層で感染症を引き起こし、副鼻腔炎、中耳炎、気管支炎などの局所感染症と、肺炎、髄膜炎、菌血症などの侵襲性感染症の原因となる。またインフルエンザウイルス感染症の2次感染の主要な原因菌として、症状の重症化や遷延にも関与している。侵襲性感染症を起こす肺炎球菌ではペニシリン耐性が以前から問題となっているが、市中の非侵襲性感染においてもペニシリン耐性化、加えてマクロライド耐性、キノロン耐性の増加が懸念されている。小児、成人のための肺炎球菌ワクチンがわが国でも定期接種化されているが、今後ワクチン関連血清型以外の血清型の増加が憂慮されている。我々は市中の非侵襲性感染の原因となる肺炎球菌について、今後の感染対策に資することを目標に、薬剤耐性、血清型・遺伝子型、耐性遺伝子を含めた包括的な分子疫学的研究を進めている。肺炎球菌には現在少なくとも95種類の血清型(莢膜型)が知られ、肺炎球菌感染症におけるその分布を知ることはワクチン対策の基礎データとして不可欠である。従来血清型の決定には抗血清を用いた莢膜膨化試験が必要であったが、莢膜多糖体合成遺伝子群の型特異的遺伝子配列を用いた連続多重PCR法が近年欧米で開発された。我々もいち早くこの方法を疫学調査に取り入れ、さらにこれを我が国の疫学的状況に見合う方法に改変するとともに、新規に報告される重要な血清型を同定する方法を追加する試みを行っている。

  • 8. 多剤耐性グラム陰性桿菌の分子疫学
     2000年代に入り、基質拡張型βラクタマーゼ(ESBL)やカルバペネマーゼを産生するグラム陰性桿菌が世界的な拡がりを見せ、その多剤耐性化が公衆衛生上の重大な懸念となっている。それらの一部は腸内細菌として無症状の保菌者の移動により先進国、途上国を問わず広く分布、拡散しつつあることが示唆されており、その世界的なモニタリングは重要である。我々は最近、バングラデシュにおいて産褥期感染症の起因菌を解析し、CTX-M-15を産生するST131に属する多数の大腸菌を検出したほか、NDM-1、NDM-7を産生する大腸菌を同国で初めて検出した。現在、調査対象疾患をさらに広げ、大腸菌、肺炎桿菌、アシネトバクターなどの臨床分離株におけるESBL、カルバペネマーゼ遺伝子の分布状況と菌株の分子疫学的特徴について、バングラデシュ、ミャンマー、キューバにおいて現地の共同研究者と共同で研究を進めている。  

  • 9. 感染症の時系列解析
     集団における感染症の発生頻度は時々刻々変化し、毎年の季節性の流行や、さらに長い、あるいは短い間隔での流行を形成する。そのような感染症発生の時系列データを用いて、数理モデルに基づくスペクトル解析により、感染症の時間的変動構造の成因を分解することができる。その成果を用いることにより、気象など感染症の発生変動に影響を及ぼす要因との関連が推測できるほか、将来にわたる感染症流行の予測を行うことが可能である。このようなアプローチは、地球温暖化による新興・再興感染症の流行拡大への警戒・対策法の一つとして資すると考えられる。我々は現在まで、国内外の麻疹、インフルエンザ、コレラ、カンピロバクター胃腸炎、ウイルス性肝炎、結核などの流行・発生についての時系列解析を行い、疾患に特有の時間要因の存在とその特徴を明らかにしてきた。今後さらに多くの重要な感染症を研究対象とし、また中国やインドとの共同研究を推進しつつ、グローバルな感染症流行の実態を解明したいと考えている。  

  • 10.顧みられない病気(熱帯感染症)への研究支援
     患者が開発途上国の貧困層に集中しているがゆえに政府・医療者・社会からの関心が払われなくなった熱帯感染症は「顧みられない病気」(neglected tropical diseases:NTD)とも呼ばれる。これは開発途上国の重要な健康問題であり、その対策は世界的な課題とされる。我々はバングラデシュ・マイメンシン医科大学との共同研究の中でNTDを含む熱帯感染症に対する研究支援も行っている。現在までに、代表的なNTDであるリーシュマニア症の他、腸チフス、病原大腸菌感染症、多剤耐性結核、クラミジア感染症、リケッチア感染症の早期診断に関する研究を支援、協力してきた。それらの研究成果は臨床現場での早期治療にも結びつくもので、現地の医療の向上に資することが期待され、今後も協力要請に応じて様々な感染症に関して研究支援を行なう予定である。 *2013年にはバングラデシュで初めて、リケッチア感染症の存在を証明した。この経緯についてはマイメンシン医科大学のホームページにニュース記事として掲載されている。(以下のURL参照)
    http://www.mmc.gov.bd/News & Events.htm
    http://www.mmc.gov.bd/News & Events_1.htm



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