分子・器官制御医学専攻:分子腫瘍医学領域 |
腫瘍分子医科学 |
スタッフ 教授 佐々木 輝 捷 講師 佐々木 洋 子 |
細胞機能制御系の指揮者チロシンキナーゼの新しい機能 |
私達の体を構成する細胞は、それ自体が独立の生命体とも言えるものであるが、そのような細胞の集合体である個体が、全体として統一のとれた存在である理由は、増殖、分化、死、移動、組織構築など個々の細胞のあらゆる活動が、細胞外からのシグナルにより制御されており、また、それぞれの細胞も他の細胞を制御するシグナルを生成している事による。したがって、これらのシグナルの生成と受容のしくみは、細胞と個体を物質レベルで理解するために、まず解明しなければならない生命過程である。タンパク質チロシンリン酸化は、細胞が受容したシグナルの伝達において、最上位に位置する指揮者のような存在である。 私達は、非受容体型タンパク質チロシンキナーゼCAKβ/PYK2を世界に先駆けてクローン化し研究している。CAKβには数種類のアダアプタータンパク質が結合し、この複合体が、c−Src活性を制御し、細胞移動と細胞質分裂を制御すると考えられる。私達は、現在、細胞における焦点接着キナーゼ(FAK)とCAKβとの機能の違いに注目し研究している。 |
研究テーマ |
1 非受容体型タンパク質チロシンキナーゼCAKβの活性化機序とシグナル伝達における役割に関する研究:特にCAKβによる細胞移動と細胞質分裂の制御のついて。 2 分子会合モジュール・タンパク質、Efs、の関与するシグナル伝達路の解明。 3 焦点接着に局在すると共に核移行もするCAKβ結合タンパク質Hic−5の機能に関する研究。 4 細胞接着シグナルの受容におけるタンパク質チロシンキナーゼの役割に関する研究。 5 タンパク質チロシンキナーゼによる神経細胞機能の調節に関与する研究。 |
研究内容の具体例 |
1 | 組み換えアデノウイルス、TC誘導発現系、microinjectionなどにより、野生型及び優勢負変異などの変異CAKβを培養細胞でcDNAから発現する系を用いて、CAKβの関与する細胞内シグナル伝達路に関し、CAKβによる細胞の生存維持、CAKβの核移行と細胞核における機能、細胞の伸展接着、細胞移動、細胞質分裂、細胞骨格系の制御などを研究しています。また、CAKβ結合タンパク質cDNAのクローン化を進めています。 |
2 | 私達がCAKβ結合タンパク質としてクローン化した焦点接着局在タンパク質Hic−5の細胞生物学的機能を研究しています。組み換えアデノウイルス、Tc誘導発現系、microinjectionなどにより、野生型及び変異Hic−5を培養細胞でcDNAから発現する系を用いて研究しています。 |
3 | Casファミリーに属する新しいシグナル伝達タンパク質Efsを世界に先駆けてクローン化し、その細胞生物学的機能を研究しています。Efsは、SH3ドメインを有し、更にSH3及びSH2ドメインに対する多くのリガンド配列を合わせ持つドッキングタンパク質であり、チロシンリン酸化に伴って、Src族チロシンキナーゼのFynなどを結合し活性化することが解っております。現在、私達は細胞内シグナル伝達におけるEfsの機能及びEfsの細胞内移動を研究しています。 |
大学院での研究生活について | |
@ | 遺伝子工学と細胞培養、タンパク質の生化学と免疫化学を研究手段に、細胞の機能を研究しています。 |
A | クローン化タンパク質の機能を細胞の構造と関連付けて研究しています。この目的のために蛍光抗体法、画像処理機能のある蛍光顕微鏡、共焦点レザー顕微鏡などを利用しています。 |
B | 小世帯(現在7名)の家族的研究室です。 |
大学院修了後の進路 | |
大学院修了後の進路は様々であるが、留学を希望する者に対しては留学先を紹介している。 |
分子・器官制御医学専攻:分子腫瘍医学領域 |
腫 瘍 病 理 学 |
スタッフ 助教授 佐 藤 昌 明 講師 小 泉 基 生 |
疾病の機序を最先端の方法論で |
私達の研究室は病理解剖、生検組織診断、細胞診断により、臨床医学に貢献することはもとより形態学、免疫病理学、分子病理学、細胞生物学など現代医学の推進に必要な殆どの方法論を駆使して、特に癌を中心に総合的に解析している。一つの研究室がこのように多くの研究手段を持ち、若い研究者諸君の将来の発展に有力な武器を与えることができるのは、全国でも少ないと考えている。 |
研究テーマ |
1 癌の増殖制御に関与する遺伝子の包括的解析と分子腫瘍病理学的意義 2 熱ショック蛋白質をはじめとする分子シャペロンの機能と分子病理 3 分子病理学的手段に基づく形態と遺伝子発現及び癌診断と治療への応用 4 癌細胞の特性の細胞小器官病理学的解析 5 各種ヒト癌における悪性度を規定する因子の解析 6 病理診断理論及び診断技術の革新 |
研究内容の具体例 |
癌の増殖制御に関わる遺伝子は、多数同定されつつある。しかし、いまだその分子機序の本質は不明な部分が多い。本研究室では、種々の方法論を駆使して腫瘍病理の形態学的側面と包括的な遺伝子発現制御の研究を行う。最終的には、癌の免疫、癌細胞の接着装置の病理、浸潤、転移をも視野にいれた静的・動的な癌の形態形成に関わる分子同定を成功させ、癌の診断・治療に応用することを研究の目標とする。授業もこのような内容に沿って行われる。 |
大学院での研究生活について |
研究テーマに特別の拘束はなく、研究時間も自由である。同時に行われる診断病理実習のなかで、個人の興味にあったテーマを設定することが、モチベーションを維持するために望ましい。研究計画作成、データの解析等に関しては担当スタッフが必要に応じてアドバイスを行う。 |
大学院修了後の進路 |
大学院修了後の進路は様々であるが、留学を希望する者に対しては留学先を紹介している。また、本学附属病院病理部でさらに研修を行い競争力のある診断病理医を目指すこともできる。 |
分子・器官制御医学専攻:分子腫瘍医学領域 |
遺 伝 子 診 断 医 学 |
スタッフ 助教授 安 達 正 晃 講師 伊 東 文 生 |
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基礎医学研究から21世紀の新しい時医療の進化に貢献しよう! | |
21世紀の医療は、これまでの画一的なものではなく、オーダーメイドによる治療を行わねばならない。それには、病態の把握のみならず、個性の違いを遺伝しレベルで識別する必要がある。これによって、治療法や薬物量を選択し、その患者さんにとって最良と判断された、根拠のある医療を行ってゆけるようになる。したがって、本研究科では、病気の診断に留まらず、個性や病気へのなりやすさなどについて、いかにして分子レベルの診断を下すかを判りやすく概説する。また、本研究科では、診断学に留まらず、分子生物学を駆使して、分子レベルで様々な生命現象を理解するべく研究を推進する。この研究科で医師として必要な科学的な視野を養ってほしい。 |
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研究テーマ |
1 | 癌・アレルギーの遺伝子診断 (1) DNAメチル化 (2) 蛋白質アセチル化及びリン酸化 (3) DNAアレイによる病態の把握(アレルギー応答や癌治療への感受性診断) |
2 | 細胞内情報伝達機構の解析 (1) メチル化、アセチル化、リン酸化を規定するシグナル (2) ストレス応答とシャペロン機構 (3) 遺伝子発現・転写機構 (4) アポトーシス誘導シグナル |
3 | 新しい癌治療の開発 (1) 高アセチル化による癌治療への応用 (2) アポトーシス関連遺伝子を標的とする遺伝子療法 (3) シグナル伝達機構に基づいた抗癌剤の開発 |
研究内容の具体例 |
1 | 癌化と関連するDNAメチル化部位の診断とこれを抑制する機構の解析 |
2 | 癌化と関連する蛋白質アセチル化よる遺伝子発現の解析 |
3 | アポトーシス・ストレス応答シグナルとこれらを応用した癌治療への適用 |
4 | ヒストンアセチル化と癌治療への応用 |
5 | DNAアレイによる個性・アレルギー応答の診断 |
大学院での研究生活について |
札幌医科大学内科学第1講座との連携を保ちつつ、臨床医としてのトレーニングも組み込みながらも、研究重視の生活となる。臨床の雑事や束縛から解き放たれて自分のスケジュールで生活できる喜びとともに、一流の研究に挑戦でき、貴重な経験となる。その価値ある生活から、研究者としての道に進んでいった先輩もたくさんいらっしゃる。 是非、がんばりましょう。 |
大学院修了後の進路 |
国内外の一流の研究者多数との交流があるので、留学や就職先は豊富である。しかし、そのためには良い研究成果を挙げねばならない。また、指導的立場で臨床医として、さらに発展して頂くという選択もある。 |
分子・器官制御医学専攻:分子腫瘍医学領域 |
腫 瘍 制 御 医 学 |
スタッフ 教授 神 保 孝 一 助教授 近 藤 靖 児 |
講師 大 森 房 之 |
皮膚生物学の分子生物学的研究と皮膚疾患、 皮膚癌への新しい診断法と治療法の確立 |
皮膚は体の外表面に存在し、外からの色々な刺激に対し反応します。例えば皮膚は免疫応答反応における最前線の場です。日光などの外的刺激により皮膚癌等の種々の悪性腫瘍も発症します。我々は皮膚における細胞の生物学的特性を分子生物学的手法を用い解明し、これら所見を直接、種々の皮膚病(例えば色素異常症、皮膚癌、悪性黒色腫)等の病態生理の解明、さらには、新しい診断法と治療法の開発を行おうとしています。 また、皮膚の生理機能としての発汗、紫外線照射とサイトカインの変動、皮膚ウイルス感染症の研究も行っております。 |
研究テーマ |
1 | 皮膚メラニン機構の生物学的・分子生物学的機序の解明 |
2 | メラニン形成関連遺伝子の標的シグナルの解明 |
3 | 特異的細胞形質を利用した皮膚癌の早期診断法及び標的分子治療法を用いた化学療法、放射線療法の確立 |
4 | 皮膚色素異常症の病態、治療法の分子生物学的アプローチ |
5 | 皮膚リンパ腫の病態の解明と特異的診断法・治療法の研究 |
6 | 紫外線照射と皮膚サイトカインの変動 |
7 | 皮膚発汗機構 |
8 | 皮膚ウイルス感染症の分子生物学 |
研究内容の具体例 |
皮膚にはメラニン色素産生細胞(メラノサイト)が存在します。この細胞は種々の外的因子、例えば紫外線等の照射に反応し、皮膚色の増加(色素沈着)を起こします。我々はまず、色素細胞の生物学的・分子生物学的特性を解明する研究を行っております。殊に遺伝子導入法を用いた色素産生顆粒(メラノソーム)の生合成機序に関し極めて強い関心を持っております。その目的はメラニン形成機序を研究することにより種々の色素異常症の病態、さらには、新しい治療法への分子生物学的なアプローチ方法を確立することです。さらには、また、メラニン形成系路という特別な代謝を利用し、これに選択的に取り込まれるような薬剤を開発し、皮膚癌に対する(悪性黒色腫、色素細胞の癌)新しい化学療法、標的治療法、さらには、放射線化学療法を確立するための研究を行っております。具体的には、我々の合成した薬剤を用い実際の人に対する治療を、例えば色素異常症患者に用い極めて良い結果を得ております。さらには、悪性黒色腫、胆癌マウスの実験モデルにおいて、我々の薬剤を用いた標的化学療法、放射線化学療法が極めて有効であることを確認しました。現在これら研究成果を直接、人の治療に応用すべく研究を行っております。同様の研究のアプローチは皮膚リンパ腫に対しても行っております。 |
大学院での研究生活について |
当皮膚科学講座では、皮膚に関して基礎的な研究を行い、その結果を臨床に直接応用することまでと幅広い臨床・基礎研究を行っております。これによって基礎研究と臨床とをバランスよく両立させることができ、さらに、基礎医学知識や臨床技術を幅広く身に付けることができます。(生活費はアルバイト等で不自由のないぐらいは得られます。) |
大学院修了後の進路 |
大学院修了後の進路は様々であるが、留学を希望する者に対しては留学先を紹介している。 |
分子・器官制御医学専攻:分子腫瘍医学領域 |
腫 瘍 免 疫 学 |
スタッフ 教授 佐 藤 昇 志 講師 鳥 越 俊 彦 |
免疫でヒト癌制御を |
腫瘍免疫学の研究の最終目標は、免疫学的機構を利用したヒト癌の制御にある。これらの研究を推し進めるには、免疫学、分子病理学、細胞生物学、遺伝子工学など現代医学の最先端の知識、方法論の修得が必要であり、これらの講義と実習、実験を行う。我々の研究室は、病理学、免疫学を基盤としているが、一つの研究室でこのような多くの研究手段を持ち、若い研究者諸君の将来の発展に有力な武器を与えることができるのは、全国でも少ない。 |
研究テーマ |
1 癌の特異的免疫機構と癌ワクチン開発 2 リンパ球抗原、機能と分子免疫学、腫瘍化の分子機構 3 熱ショック蛋白に代表される分子シャペロンの機能の分子病理 4 抗原の処理、提示と分子シャペロン 5 免疫遺伝学、遺伝子診断 6 シグナル伝達機構とアポトーシス 7 寄生虫病の解析と診断 |
研究内容の具体例 |
1 | ヒト癌抗原の遺伝子クローニングと抗原ペプチドの決定、癌ワクチン開発と癌治療 |
2 | 癌エスケープ反応の分子機序の解明−分子シャペロンを含めた抗原の処理、提示とエスケープに分子の同定と治療への応用 |
3 | リンパ球機能分子の遺伝子クローニング、免疫遺伝学、DNAマイクロアレイ等を利用した包括的解析、リンパ球のシグナル伝達機序とアポトーシス、リンパ球活性化と免疫寛容機構の解明 |
4 | 本学には寄生虫学講座がない。当教室の寄生虫病研究室で石倉肇先生が全道の寄生虫病理診断を受け持っている。石倉先生はアニサキス症の発見者で、アニサキス類縁線虫病研究の第一人者であり、これらの研究もあわせて行っている。 |
大学院での研究生活について |
研究テーマに特別の拘束はなく、研究時間も自由だが、その結果は教室研修会、論文にすぐ現れるので、かえって厳しい場合もある。我々の教室は、病理学を専攻とする。したがって、研究ばかりでなく病理解剖、病理組織診断を通した人体の疾病発症機構の包括的解析も行っている。このことが、たとえば腫瘍免疫学を様々な角度から解析できる機会を与えている。大部屋は人口過密で、夜型人間が多く、若い活気に満ちている。「お酒が飲めないと、つとまらない」というデマが飛んでいるが、飲めなくても大成した人もたくさんいるので、ご安心を。publish or perishは研究室のいわばレジェントといえる。 |
大学院修了後の進路 |
大学院修了後の進路は様々であるが、留学を希望する者に対しては留学先を紹介している。特に我々の研究室と共同研究している世界の最先端を行く施設での海外留学を推奨している。 |
分子・器官制御医学専攻:分子腫瘍医学領域 |
腫瘍細胞生物学 |
スタッフ 教授 工 藤 隆 一 助教授 寒河江 悟 |
講師 齋 藤 豪 |
婦人科腫瘍、生殖生理と腫瘍発生のつながり、癌の早期診断と予防 |
人類の半数以上が女性である。そして日本女性の寿命は世界で最も長い。このように婦人科学は、疾病の予防、管理、治療対象となる人口が最も多いのである。婦人科学は受精前から始まり、新生児期、思春期、成熟期、更年期、中高年期と長期間にわたる生活を円滑に、かつ、充実したものとする上で解明しなければならない研究テーマが山積みである。これら多くの婦人に関する研究テーマから婦人科癌に関する以下の研究を行っている。 |
研究テーマ |
1 婦人科癌の細胞・組織形態と浸潤能 2 婦人科癌の増殖・浸潤能と内分泌学的諸問題 3 卵巣癌治療成績向上のための支持治療法などの研究 4 卵巣癌の予後因子に関する研究 5 婦人科癌の発癌と細胞接着 |
研究内容の具体例 |
1 | 子宮内膜癌、卵巣癌、頸部腺癌の細胞株を用いて細胞形態と浸潤能の相違について invasion assay などで検討している。また、浸潤転移に関する遺伝子についても検討している。 |
2 | 婦人科癌は浸潤・転移能などにエストロゲンやプロゲステロンなどの receptor が関与していると考えられる。これらの事項を研究するため婦人科癌細胞を用いてホルモン添加による実験と培養細胞に性ホルモン receptor を遺伝子導入して増殖や浸潤に影響を与える諸因子の変化を観察している。 |
3 | 卵巣癌の治療成績を向上させるためには大量の抗癌剤投与も必要である。そのために末梢血幹細胞移植と嘔吐制御などを効果的に行う必要がある。そのための基礎研究を行っている。 |
4 | 婦人科癌の成立までには細胞増殖の加速や癌の単クローン性の増殖などの事柄がおきているものと考えられるが、これらのステップにおける細胞接着の関与について分子生物学的に解析している。 |
大学院での研究生活について |
臨床系の大学院であることから手術・外来等と研究の進捗状況を見ながら担当させる。これは大学院生であることによって臨床の力の低下を防ぐことを配慮したものである。少なくとも2年間は主に実験を行う期間としている。生活費は1か月1週間程度の関連病院への出張で得られる。 |
大学院修了後の進路 |
大学院修了後は産婦人科医としての技術を身につけるため2年程度の関連病院での研修を行う。その後、大学での研究活動や大学院生の指導を行うが、留学を希望する者に対しては留学先を紹介している。 |