Entered: [1997.12.26] Updated: [1997.12.29] E-会報 No. 40(1997年 12月)
第8回 分子生物学交流会

1.ロ−タリ−シャドウィングで蛋白質の分子構造を見る
北海道大学大学院、理学研究科、化学専攻
加藤 剛志


 蛋白質の機能はその構造と密接に関係している.したがって,蛋白質分子の立体構造に関する情報を得ることが機能の研究においても重要となる.こうした目的のための一研究手段として,専門家でなくても容易にできるのが,ロ−タリ−シャドウィング(回転蒸着)法を用いた電子顕微鏡による蛋白質分子の観察である.ロ−タリ−シャドウィング法は,試料蛋白質分子を雲母板に吸着させ,回転させながら斜めから白金などの重金属を蒸着してシャドウィング(影付け)を行う方法で,これによって得られたレプリカを電子顕微鏡で観察する.操作が簡単で,しかも鮮明な電子顕微鏡像が再現性良く得られるのがロ−タリ−シャドウィング法の特徴である.しかし,多量の重金属を蒸着するため,観察される像は実物より太ってしまうので,球状タンパク質より,細長い蛋白質分子の観察に威力を発揮する.また,同様の理由から,分子の微細構造の観察には不向きであるが,以下のように蛋白質の構造に関する有用な情報を得ることができる.蛋白質には,数種類のサブユニットが会合して一つの分子を形成し,生物学的な機能を現すものが少なくない.このような場合,蛋白質分子の立体構造上の各サブユニットの空間的位置関係を調べることが必要となるが,その蛋白質のみを電子顕微鏡で観察してもサブユニットの配置を知ることは困難な場合が多い.しかし,特定のサブユニットに特異的に結合する他の蛋白質(抗体など)との複合体をロ−タリ−シャドウすることにより,立体構造上のサブユニットの位置を電子顕微鏡で観察することができる.同様にして,他の蛋白質分子との相互作用部位などの機能部位の位置や他の機能部位やサブユニットとの位置関係なども知ることができる.こうした情報は,その蛋白質が機能する仕組みを調べるための重要な手がかりとなる.本会では,まずロ−タリ−シャドウィング法の技術や操作についてお話しし,次いで骨格筋や平滑筋ミオシンでの電子顕微鏡観察の結果について紹介したい.


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