特別講演

わがノロウイルス研究の軌跡と回顧



元岐阜保環研


 「ウイルスの狩人」37年の研究を協働し慶びをともに分かった本会の皆様の長年のご支援とご友情に感謝を申し上げております。72年春、AHC“急性出血性結膜炎”患者からEV70をサル腎細胞で初分離に成功したのを契機に始めたAHCとEV70の研究が16年間、血気盛んな未熟で若き狩人は自問しつつ研究哲学を育み独創色を深めていった時期でもありました。故甲野禮作博士(元予研中検部長)や松宮英視元北大教授に親密なご指導を賜り30歳の節目で医博を拝受し、85年にはこの札幌医大浦沢正三・价子元教授ご夫妻からロタウイルス研究へお誘いを受けたことが下痢症ウイルスへの転進になりました。A群HRVヒトロタウイルス血清型流行疫学で厚生科学研究班を旗揚げ各地方衛生研究所(地研)の仲間と国内初の列島縦断調査を実施しました。班経営経験が後年、92年から3ヶ年の周到準備を経て組織した食品媒介非細菌性食中毒全国実態調査NGO研究班創立の足掛かりとなり、続く厚生科学研究班へと発展しました。それら研究成果はご周知のように、97年5月末の食品衛生法改正の礎となり食品媒介非細菌性食中毒とSRSV関与の国内実態を内外に学術公開するところとなりました。下痢症ウイルス研究者たちの悲願でもあったウイルス性食中毒の公的法的認知以来社会反響も大きく、SRSV(ノロウイルス)疫学や生態学また対策研究、検査技術開発などの分野に大展開をみせ、諸学会で関連のセッションが多設されるなど、堰を切ったような発表ラッシュが今も続いています。ノロ研究のトレンドメークは十分果たしたと思っていますが、自身の研究終盤は原点に戻りノロ診断検査技術開発で完結したいと考え、長く続けてきた研究班もミレニアム解散を宣言しました。それまで開発改良を続けたノロRT-PCR技術も唯一の米企業の特許独占する関連技術に依る限り、研究外利用は必ず特許使用料と法的契約発生は必至で、日本として独創的遺伝子技術開発が是非とも必要だと痛感し97年来、培養可能で熟知したEV70オリジナル遺伝子をモデルにRNA増幅技術開発に孤立無援で挑んできました。非常困難で内心匙投げ行詰まり状態の中、後にパートナーとなって頂く東ソー研究陣との運命的出逢い(神様のお導き?)が起き開発焦点をノロウイルスに特化し開発を進めることとなりました。破壊され易く立体構造が変貌するRNA高分子の直接増幅検出技術樹立のハードルは高いが、必ずや21世紀の生物分野で活用でき食品、環境、そして医療でも安全安心を確認しうる日本から発信する先端技術となる筈と信じています。ウイルス分野での初実用化は是が非でもノロウイルスで成功させよう!と推進してきたのがプロジェクトXたるノロTRC開発でした。ノロ検査TRC反応試薬とリアルタイム計測機器の開発の結果、糞便や食品検体などからのノロウイルス検査同定所要検査時間は、07年現改良試薬でG1・G2群の殆どの亜型を30分以内に判定できるまでになり、他の現行検査法に較べより高感度且つ迅速簡便性を備えた“ノロTRC検査システム”に仕上がりました。05年秋ノロTRCは東ソーから初上市以来、好調に実績を伸ばし社会普及が進んでいますが、本特別講演でノロTRCの最新データも交えて成果を報告したいと存じます。研究人生で、AHCとEV70、HRVそしてノロウイルス(SRSV)に出逢え深く関与できて幸運且つ誇りに思います。顧みれば、良いタイミングで素晴らしき朋友たちとの出逢いと研究発展で数々のプロジェクトも成果を生み、ウイルス胃腸炎研究20年間を一気に駆け抜けすべきことは全部やってきたと大満足をいたしています。

 気象が良い出講免除の日、“天佑”となって“千の風”にのり自由フライトを楽しむ今、「老兵は静かに消えゆくのみ」の意に反し、今回“特講”の任を与えられてしまいました。北海道はわが生涯を通し誠にご縁深きところです。続く「ウイルスの狩人」たちの更なるご健闘と本会の益々のご発展をご祈念申し上げております。     

平成19年8月8日


←Back   抄録目次   Next→
トップページへもどる