下痢症ウイルスの発見から30年以上経過した。その間免疫学的方法、遺伝子学的方法の進歩により、今では臨床の場でも診断が可能となった。しかしながらまだ診断がつかない場合があり未知のウイルスよる下痢症の存在も考えられる。さらに治療薬、予防としてのワクチン開発など解決しなければならない課題が残っている。
私は1979-1981年の海外留学時ブニヤウイルス科の分類を分子遺伝学的手法で行ったのを契機として、帰国してからロタウイルスの分子疫学を始めた。最初はRNA-PAGEによったが、近年はRT-PCR法を使うようになった。さらにノロウイルス感染症をはじめとするウイルス性下痢症の遺伝子診断が可能となり、遺伝子解析により流行疫学を明らかにしてきた。
ヒトのロタウイルスのGタイプは1,2,3,4,9が主要であるがその頻度には変化がみられた。それぞれのGタイプの中にlineageが見られ、これらは国、年である特定のlineageが優位に出現することがわかった。ヒト−動物ウイルス間のリアソータント、分節内でのリコンビナントが見出された。我々のグループでは新しいPタイプを報告し、アジアの国々での分子疫学を行った。
ロタウイルスに関する最近のトピックスはその遺伝子、抗原が患者急性期の血液中で検出されることである。腸管感染ウイルスであることから血液に移行することは必然性があるかもしれない。痙攣、脳症などロタウイルス感染症の合併症が注目されるようになり、脳症は現在ホットな話題となっている。我々の研究は口火を切った。
ノロウイルスはゲノグループ内、ゲノタイプ内でのリコンビナントおよび点変異が頻繁におきており、毎年新しい株の流行がみられる。これらの現象は世界規模で認められる。ノロウイルス感染症でもロタウイルスほどではないがウイルス遺伝子が血液内で見出されている。脳症、痙攣などの報告もある。我々の成績を報告する。
アデノウイルス、サポウイルス、アストロウイルス、アイチウイルスなどでも同様な分子疫学を行い新しい知見を得た。
臨床の場においては簡易な迅速診断法が望まれる。かつてlatex凝集法により行われてきたロタウイルス、アデノウイルスの診断が、今はイムノクロマト法に置き換わってきた。我々はノロウイルスを検出できるイムノクロマト法を現在検討中である。一方、微量のウイルスの検出や幾つかの特徴をもった遺伝子診断法も開発されている。我々はこの方面の開発にも携わってきた。
これらの研究は、東京大学大学院医学系研究科の職員(沖津祥子、柳生文宏)、大学院学生とともに国内外の研究者および臨床医との共同研究である。