ロタウイルス研究の現状について、2006年9月〜2007年7月までにオンラインまたは誌上に公表された論文から、いくつかを抜粋して紹介する。この間の研究成果として注目されるのは、ワクチンの費用対効果に関する報告と、抗原血症を起こしている患者血清中に感染性ウイルスが見いだされたことなどである。その他、これまでにないVP4遺伝子を持つA群ロタウイルス(ARV)株がいくつか検出されている。
1.疫学・臨床
- ドイツにおいて少数ながらG10P[6]や G10P[8]のARVを検出(Arch. Virol. 2007、published by online)
- 中国の小児からG5P[6]を検出(J. Clin. Microbiol. 45: 1614)
- ネパールの調査ではG12型がARVの20%を占め、その中にG12P[25]という珍しい株が存在した(J. Clin. Microbiol. 44: 3499)
- ARVにおいて、ブタがヒトや他の動物種の新型ウイルスのリザーバーである可能性(Vet. Microbiol. 2007、published by online)
- ウシから新たに検出されたG5型ARVは、ウシ由来株とブタ由来株のリアソータントの可能性(J. Clin. Microbiol. 44: 4101)
- ウシから初めて検出されたG3P[3]のRUBV3株は、サルロタウイルスRRV 株やヤギロタウイルス株と遺伝的に関連(Arch Virol. 2007、published by online)
- イタリアにおいて小児胃腸炎のから検出されたPA260/97株(G3P[3])は、遺伝的にイヌARVに酷似(Emerg. Infect. Dis. 13: 1091)
- タイでブタから検出されたCMP034株(G2)のVP4はP[27]の可能性(Virology 361: 243)
- イタリアでブタから検出された344/04-1株(G5)は、新奇なVP4遺伝子(P[28])を保有(J. Clin. Microbiol. 45: 577)
- 日本において成牛の下痢症から、新奇なGおよびPタイプのARVを検出(Vet. Microbiol. 123: 217)
- バングラディシュの散発性下痢症から検出されたB219株とADRV-Nは、ヒトロタウイルスの新たな群に属する(Arch. Virol. 152: 199)。
2.ワクチン・感染防御
- フランスにおけるRotaTeq使用は、十分な費用対効果が見込める(Vaccine 25: 6348)
- ラテンアメリカとカリブ海の8ヵ国において、ロタウイルスワクチンの費用対効果が十分見込める(Rev. Panam. Salud. Publica. 21: 205)
- アメリカにおいてRotaTeqのルーチン接種による費用対効果が、現時点では十分には見込めない可能性がある(Pediatrics 119: 684)。
- VP6とLT(R192G) またはCTA1-DDをマウスに経肛門免疫することで、EDIMに対する感染防御が成立(Vaccine 25: 6224)
- VP6とアジュバント〔LT(R192G)〕を経鼻的に免疫したマウスにおいて、CD4+のT細胞が産生するγINFとIL-17がロタウイルスの排泄阻止に関与(J. Virol. 81: 3740)
- VP2とVP6で構成されたウイルス様粒子を経鼻または経肛門接種することで、ウイルス特異B細胞が誘導された(J. Leukoc. Biol. 2007、published by online)
- VP6をコードするプラスミドを針不要の「Biojector」によりマウスに接種したところ、感染防御効果が得られた(Vaccine 25: 3215)。
- 分泌型IgAのモノクローナル抗体は、細胞内中和によりロタウイルス増殖を阻止(J. Virol. 80: 10692)。
- 抗原虫薬のニタゾキサニド(Nitazoxanide)は、成人におけるウイルス性胃腸炎の有効な治療薬になりうる(Aliment. Pharmacol. Ther. 24: 1423)
3.腸管外感染
- ロタウイルス胃腸炎の小児において抗原血症とウイルス血症は当たり前のことだが、血清中のRNA量は糞便に比べ極めて少量である(J. Infect. Dis. 194: 588)
- 抗原血症を起こしている小児の血清から、100%(11/11)の割合で感染性ウイルスが見いだされた(PLoS Med. 4: e121)
- ロタウイルス胃腸炎は、可逆的な脳波の変化をもたらす(Brain Dev. 2007、published by online)
- 胆道閉鎖症のマウスモデルにおいて、ウイルス株により症状の程度が異なる(J. Virol. 81: 1671)
- 1型糖尿病モデルマウスにサルロタウイルスRRV株を感染させると、ウイルスが腸管外へと伝播し、糖尿病の発症が遅延する(J. Virol. 2007 81: 6446)
4.ウイルス遺伝子
- G1型ARV株間におけるintragenicリコンビネーションの発生について(J. Virol. 2007、published by online)
- VP3に関連した宿主域制限は、本遺伝子の動物種特異的性質に由来(Virus Genes. 33:143)
- ヒトARVのVP6遺伝子は、これまで考えられていた以上に多様性に富む(Virus Genes. 2007、published by online)
5.ウイルス感染・増殖とウイルス蛋白
- ARVの第11遺伝子分節がコードするNSP6は、1本鎖および2本鎖RNAに同程度に結合する蛋白質である(Virus Res. 2007、published by online)
- 2重殻のサブウイルス粒子に、酸性pHとカルシウム存在下においてリコンビナントVP4とVP7を加えることで、感染性ウイルス粒子が作製できた(J. Virol. 80:11293)
- NSP1の亜鉛結合モチーフは、インターフェロン制御因子3のプロテアソーム依存性分解、およびNSP1自体の安定性に不可欠である(J. Gen. Virol. 88: 613)
- NSP1はインターフェロン制御因子に対して、幅広いスペクトラムを持つ拮抗物質として作用する(J. Virol. 81: 4473)
- 培養細胞におけるウイルス増殖やウイルスmRNAの転写において、NSP3は必須ではない(J. Virol. 80: 9031)
- NSP4は、ウイルス感染CaCo-2細胞において頂端表面(apical surface)から分泌される(J. Virol. 80: 12343)
- NSP4のC末端〜137番目のアミノ酸部分が、構造上および生物性状発現に重要(Arch. Virol. 152: 847)
- NSP4は誘導性酸化窒素合成酵素の発現を促し、それにより生成された酸化窒素により下痢が誘発される(J. Gen. Virol. 88: 2064)
6.検査法
- G12型も検出できるようARV用マルチプレックスRT-PCR法を改良した(J. Med. Virol. 79: 1413)
- ARV検出用リアルタイムPCR法の定量性を検討(J. Virol. Methods. 137: 280)
- ARV、C群ロタウイルス、およびF群のアデノウイルスをそれぞれ検出可能なリアルタイムPCR法を開発(J. Clin. Microbiol. 44: 3189)