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第41回日米医学ウイルス性疾患専門部会の報告


中込 治

長崎大学大学院医歯薬学総合研究科感染免疫学講座


 第41回日米医学ウイルス性疾患専門部会は, 7月24日と25日の2日間にわたり米国メリーランド州ボルチモアで開催された。ウイルス性胃腸炎のセッションはスタンフォード大学Harry Greenbergと長崎大学の中込治の座長のもと初日に行われ,米国側5題,日本側4題,合計9題の発表があった。内容的にはロタウイルスに関する演題が7題(日本3、米国4),ノロウイルスに関する演題が2題(日本1、米国1)であった。

 米国側の発表:Greenbergは“Primary human intestinal and systemic dendritic cell responses to rotavirus”という演題で,ロタウイルス感染において樹状細胞の果たす役割を解明する実験結果(骨髄系樹状細胞と形質細胞様樹状細胞ではロタウイルスに対する感受性が異なり[mDC > pDC],サイトカインの産生パターンにも差が認められる[インターフェロンαの主体はpDC])を紹介した。経鼻、筋注、経口などの感染ルートの中で,経口感染がα4βおよびCCR9を発現している粘膜のTおよびB細胞をもっとも効率的に刺激するとともに,CD8陽性T細胞のbroadest responseを誘導すると報告した。Patton (NIH)は“Rotavirus antagonism of the host innate immune response” という演題で,ロタウイルスが感染に際し,非構造タンパク質であるNSP1がプロテアソーム依存性経路の中でユビキチンリガーゼのような働きをすることにより,IRFタンパク質の崩壊をもたらし,宿主の自然免疫(IRFはインターフェロン産生を制御するタンパク質である)を回避する上で重要な役割を担っていること(すなわちvirulenceを規定する因子になっていること)を報告した。Kapikian (NIH)は“Recent advances in the development of a multivalent human-bovine (UK) rotavirus reassortant vaccine designed for use in infants in developing countries”という演題で,ロタウイルスワクチンの現状を展望するとともに,彼らが現在もっとも力を入れている途上国でのBRV-UKワクチンについて報告した。このKapikianの報告に引き続き,今年の春以来米国で問題になっているRotaTeqの使用と川崎病との関係について,FDAの担当者から特別発表があったが,現在の結論は両者の間に因果関係は認められないというものであった。米国側の最後の発表はGreen (NIH)による“Animal models for the study of norovirus replication”であり,第一にチンパンジーを使ったノロウイルス感染モデルでの免疫応答とウイルス排泄のモニタリング(チンパンジーは無症状),第二にマウスノロウイルスの感染モデルについて有望な実験系であるとの報告があった。

 日本側の発表:長嶋茂雄(札幌医大)は“Whole genome characterization of a human rotavirus strain B219 that belongs to a novel rotavirus group”という演題で,バングラデシュで発見されたA~G群のいずれのロタウイルスとも異なる特異なロタウイルスの全塩基配列について解析結果(A〜C群のどのウイルスとも塩基配列上のidentityは非常に低いが,基本的な構造上の特徴は保存されていること)を報告した。本村和嗣(感染研) は“Genome analysis of norovirus GII4 variants spread in Japan during 2006-2007 winter season”という演題で,昨シーズン(2006年10月から2007年1月)にわが国で大流行を起こしたノロウイルスに関する疫学的ならびに分子疫学的解析(系統樹上2つのGII.4株の存在)についての報告を行った。中込治(長崎大)は“Molecular epidemiology of rotavirus: the genetic relationships among the VP7 genes of various G1 rotavirus strains that dominated in Akita, Japan during a 10 year period”という演題で,同一地域で長期間にわたってdominantなウイルス株として出現するG1株の塩基配列を調べると,G1株の相対頻度が増加するときには抗原決定部位に変化を伴った異なるlineageの株が出現していることを報告した。中込とよ子(長崎大)は“Molecular epidemiology of rotavirus: emergence of G12 strains in 2003-2005, Nepal”という演題で,ネパールは下痢症による乳児死亡率の高いアジアの最貧国であり,ロタウイルスワクチンの導入が望まれるが,この国における2年間の分子疫学的調査でによって,世界の他の地域よりはるかに多いG12ウイルス株が持続的に出現していることを報告した。


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