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ノロウイルスの新知見


片山 和彦

国立感染症研究所 ウイルス第二部


本演題では、ノロウイルスの疫学上の新知見は他演題にお任せし、ノロウイルスのリバースジェネティックス、及び培養細胞を用いた増殖系に関する話題に焦点を絞って紹介したい。昨年から今年にかけて発表されたノロウイルスの増殖系に関する新知見は、大きく2つの種類に分別できる。それは、マウスに感染するノロウイルス(MNoV)とヒトに感染するノロウイルス(NoV)関するものである。MNoVは、Genogroup Vに分別されるノロウイルスの一種であり、マウスの細胞(RAW264.7 cell)で増殖させることができる。英国のインペリアル大学のグループは、MNoVの全長ゲノムcDNAをT7RNAプロ モーター下流にクローニングし、T7 RNA polymeraseを発現する組換えワクチニアウイルスを用いたリバースジェネティックスシステムの構築を試みた。このシステムは、米国ベイラー大学や我々がNoVに用いた既報の方法と同様だが、更に弱毒化を進めたワクチニアウイルスを用いていることに特徴がある。また、MNoVが培養細胞で増殖できることを利用し、このシステムから産出されたウイルスの感染性を、プラークアッセイを用いて証明したところが新しい。しかし、我々の報告と同様、MNoVの場合も、全長ゲノムcDNAからは構造蛋白質が供給できず、感染性ウイルス粒子産生には、ゲノム全長cDNAコンストラクトと構造蛋白質供給用コンストラクトをコトランスフェクションする必要があった。彼らは、我々と同様、ワクチニアウイルス蛋白質がNoVの構造蛋白質発現に負の影響を与えていると考察し、ヘルパーウイルスを必要としないリバースジェネティックスシステムの必要性を示唆した。次に、英国のサザンプトン医科大学のグループは、ワクチニアウイルスを必要としないMNoVのリバースジェネティックスシステムを報告した。彼らは哺乳類細胞内で働くpol IIプロモーター下流にMNoV全長ゲノムcDNAをクローニングし、HepG2細胞内でMNoVのゲノム全長cDNAを発現させた。このシステムでは、全長ゲノムcDNAを細胞に導入するだけで、感染性のウイルスを作出できることが示された。以上のように、培養細胞で増殖させることのできるMNoVは、粒子の感染性の検証が容易であるため、NoVに先行してリバースジェネティックスシステムの構築が報告された。しかし、MNoVの病原性はNoVと異なっていること、特殊なマウスにしか感染しないことなどから、NoVのモデルとなりうるか否かは定かではない。一方NoVは、依然として効果的に培養細胞で増殖させることができない。そこで、米国のタレーン医科大学のグループは、Intestine 407の立体培養により、NoVの増殖に取り組み、NoVの感染性のアッセイシステムを構築した。彼らはNoVの感染を免疫染色法によって確認し、ウイルスの持続的(3日間)感染をRT-PCRによって示した。さらに、NoV感染により細胞傷害が引き起こされることを報告した。また、米国オハイオ大学のグループはNoVをブタに投与し、腸管への感染が成立することを報告した。これらの報告は、NoVの培養細胞や動物を利用した増殖システムの開発に大きな進歩をもたらすかもしれない。本演題では、以上の新知見に加え、我々と米国ベイラー医科大学の共同研究から得られた、NoVのリバースジェネティックスシステムに関する新知見も紹介する。



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