エンテロウイルスは1本鎖RNAのエンヴェロープを持たない小型球形ウイルスで、夏風邪の原因ウイルスであり、その他無菌性髄膜炎、手足口病、ヘルパンギーナ等多彩な疾患を引き起こす。また多くの血清型を持ち、毎年数種類の異なる血清型が小児の間で流行している。
エンテロウイルスの流行は血清型によって(1)比較的長い周期で大きな流行を起こすタイプ、(2)短い周期で小流行を繰り返すタイプ、(3)日本で流行したことのない血清型がある。また、(3)のタイプには何らかのきっかけで流行するようになる血清型(echo30)もある。 感染症の流行を疫学的に検討する場合にはウイルス側の要因、ヒト側の要因、環境要因の3つのカテゴリーに分けて調査するのが一般的である。これらの要因が相互に関わり合って感染症の流行が起こっている。 エンテロウイルスの場合にはウイルス側の要因として、熱に強く、乾燥に弱いという性質が、日本においては夏に流行する要因となり、またヒト側の要因として、地域住民の抗体保有状況が流行の周期と規模に影響を及ぼしている。
ノロウイルスの流行については、3つのカテゴリーそれぞれにおける解析が十分に実施されているとは言い難い。我々はノロウイルスの流行の解析にはヒト側の感受性調査が重要であると考えていたが、ノロウイルスについては抗原性さえ明らかではなかった。
国立感染症研究所の武田らがバキュロウイルスによる中空粒子(VLPs)の発現に成功したことをきっかけに、ノロウイルスの抗原性を明らかにする事は出来ないかと考えた。
そこで、ノロウイルスのELISA法開発に参加し、ノロウイルスの抗原性による分類、人側の要因としてそれぞれの抗原性に対する感受性に関する研究を開始した。
ノロウイルスの抗原性の分類には、まずキャプシッド領域の遺伝子配列を基に系統樹を作成し、一つのVLPsの抗血清に対して反応する範囲を決め、それ以外の中から次のVLPsを作成していった。このようにして多くの血清型に対するVLPsの作成と、それに対する抗血清がELISA法によるノロウイルス検出キットの開発に応用された。
一方で抗原性の異なるVLPsの作成によって、人の抗体保有率の測定が可能となったが、ELISA法は中和抗体のみを測定するものではないため感受性調査には不十分である。しかしながらELISA抗体はウイルス流行の軌跡を示すものとして利用可能である。
いくつかのVLPsに対する抗体保有状況を紹介すると共に、今後のウイルス性下痢症研究発展の期待を述べたい。