特別講演

ノロウイルスによる食中毒について


西尾 治


国立感染症研究所


 ノロウイルスは従来食中毒の起因として考えられていたが、04年末〜05年に高齢者施設で集団発生が多発してことからから感染症が注目されている。

 1997年5月にノロウイルス(当時は小形球形ウイルス、SRSV)およびその他のウイルスが食中毒病因物質として食品衛生法施行規則に加えられた。この事は国立感染症研究所および地方衛生研究所の先生によって、生食用カキによる急性胃腸炎を呈する食中毒事件の多くは本ウイルスによることを明らかにした。国はこの食中毒を無視する事が出来なくなり、厚生省の食品衛生審議会を経て決められたものである。この後、地方衛生研究所等では食中毒事件発生に際してウイルス検査が実施される事となった。次いで、1998年12月にカキ採取海域の表示することが定められた。

  厚生労働省に届けられたノロウイルスによる食中毒事件数は毎年250件から290件、患者数は8千人から1万2千人で、増加傾向にある。2004年には食中毒患者の45%をノロウイルスが占め、いまや食中毒防止にノロウイルス対策が急務となっている。2001年までは生食用カキが主原因食品であったが、その後カキの無い食事が急増している。依然として、原因食品からのウイルス検出は少なく、食品が特定されないことが、原因究明に大きな妨げとなっている。

 近年は飲料水(井戸水、簡易水道)による食中毒事件も起きており、今後水源対策が必要となっている。

 今日、腸管感染症である赤利、コレラ等の多くの病気が皆無に近い状況に有るにも拘らず、ノロウイルスによる食中毒・感染症が多発している。多発するのは患者のふん便、吐物から大量に、そして症状の消失後もウイルス排泄が10日間程度続ことで、不顕性感染も存在する。それに対して、ヒトは極めて少量のウイルスで感染・発病する。そのうえ、ノロウイルスの感染部位は腸管上皮細胞であり、感染病禦には局所のIgA抗体が重要な役割を担うと考えられるが、IgA抗体は持続期間が短く、同じ遺伝子型に繰返し感染し、さらに多数の遺伝子型が存在し、乳幼児から高齢になるまで、何度も感染すると言える。

 ネコカリシウイルスの成績から推測すると、排泄されたウイルスは物理化学的抵抗性が強く、不活化が容易でなく、自然界で長時間生存可能であり、これらの事が食中毒・感染症の多発要因として挙げられる。

 このことからノロウイルスは現代社会に生き残るウイルス感染症と言える。

 今回示す多くのデータは厚生労働科学研究で多くの地方衛生研究所の協力にもとに得られたものである。


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