2005年1月に市内の老人福祉施設において発生したノロウイルスによる感染性胃腸炎集団発生事例について報告する。
【概要】2005年1月7日に,「施設において食中毒のような事例が発生しているのではないか」との通報が保健所へ入り,直ちに同施設に対して調査を開始した。調査の結果,2004年12月末から新たな有症者(下痢,嘔吐または発熱)が発生しなくなった1月半ばまでの間に,有症者は入所者,職員合わせて計67人に及ぶ集団感染事例となった。
【対応】食中毒,感染症の両面から疫学調査を行なうとともに,消毒や二次感染防止等の衛生指導を実施した。市内部で組織する対策会議を設置し対策を検討し,さらに専門家等による調査委員会において原因究明等の検討を行った。また,市内の福祉施設等に対して,感染症対策の啓発・周知を行なった。
【調査結果】(1)発症の状況:12月29日入所者1人が発症(発熱)し,その後,事例探知の1月7日までの発症者数は61人であった。その後も有症者は発生したが1月16日以降新たな発症者は認めなかった。有症者は入所者72人中47人(65.3%),職員69人中20人(29%)であった。この間,入所者の有症者のなかで 7人の死亡者がでた。(2)食中毒の視点からの調査:入所者及び職員の有症者に共通食材はなかった。また食材及び給食施設ふき取りの検査結果,ノロウイルスは陰性であった。(3)感染症の視点からの調査:食事介助など介護を受ける入所者に有症者が高率で発生していた。職員のうち,有症者は介護を行う職種に多かった。検便の結果,有症者38人に加え無症状者17人からもノロウイルスが検出された。遺伝子解析の結果,検出されたノロウイルスはすべてGII/4であった。
【考察】喫食調査の結果等から,給食による食中毒とは考え難いと判断した。一方,有症者の発生状況,職員の勤務状況や,遺伝子解析結果等から,感染源については特定できないものの市中で流行しているノロウイルスが何らかの原因で施設に持ち込まれ,入所者への介護・看護業務などを介して感染が拡大した可能性があると考えられた。なお7名の死亡事例については,ノロウイルスとの直接的関連は不明であった。今回の事例後,本市ではノロウイルス対応マニュアルを作成し再発防止に取り組んでいるところである。