特別企画

昨冬のノロウイルス感染症の施設内集団発生例について


岡部信彦


国立感染症研究所感染症情報センター


 2005年は「ノロウイルス」で年が明けた感があった。新たなウイルスが出現したわけでもなく、病原性が変異したわけでもなく、患者発生が異常に増えたわけでもない冬の感染性胃腸炎の代表的病原体の一つであるが、一般の人にとって耳慣れないウイルス名であったこと、いわゆる医療ミスによる院内感染事例ではないかと受け取られたことなどもあり、社会的に大きく注目された。

我が国におけるノロウイルス感染症の公的な状況は、1)食中毒法による届出に基づく食中毒統計、2)感染症法に基づく5類定点報告疾患「感染性胃腸炎」 3)地方衛生研究所等で、定点医療機関の約10%から提供される臨床検体による病原体サーベイランスおよび、食中毒・集団発生調査・その他からの検体によるウイルス検出情報 によって得られている。したがって今回のような高齢者施設はもちろんのこと、成人層におけるノロウイルス感染症の実態は不明といわざるを得ない。

 今回きっかけとなった広島県での事例について演者を含む調査委員会は、食品由来のものではなく人・人感染によるものであり、介護行為を介しての感染拡大の可能性があり、被介護者が高介護を要したことは感染の拡大、重症化につながった可能性がある、とした。この点の詳細は福山市保健所より報告される。

 高齢者の集団生活の場における一般的な感染症の問題をどう取り扱うか、高度介護施設と医療の関わりに関する問題、ターミナルケアの抱える問題 などが浮き彫りにされ、厚生労働省では、高齢者施設等におけるノロウイルス集団発生事例に関する任意報告調査を3ヶ月間行い、236施設7821例の報告を得ている。また研究班を組織し、高齢者福祉施設における感染管理マニュアルなどの作成を行った。

 これらの一般的疾患について発生ゼロを目標とするのは困難であるが、感染拡大を小規模にとどめるための日常的努力は必要である。

 介護施設におけるノロウイルス集団感染事例から得られた教訓、その後の対策の経過などについてご報告申し上げる予定である。


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