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衛生微生物技術協議会報告


国立感染症研究所  西尾 治


衛生微生物技術協議会第25回研究会が平成16年7月8、9日にさいたま市で開催された。
胃腸炎・食中毒関連ウイルスのシンポジウムでは4題が発表されたので概要を報告する。

1. 「わが国における環境水からのウイルス検出状況」の演題で東京都健研センター  矢野 一好先生が発表された。
 生活環境を取り巻く生活水の調査・研究について報告され、下水流入水、河川水、海水における組織培養ウイルスの検出率およびPCR法によるSRSVの検出率は、下水流入水が地域により100%から29%で、下水放流水は55%から10%、河川水は91%から44%であり、海水はSRSVが11から29%であった。下水処理場から感染性を有するウイルスが河川等に放出され、それがカキ養殖海域まで到達していることが推測され、下水処理施設の改良がカキのウイルス浄化に急務であると結論した。

2.「Sapovirusゲノム解析」の演題で片山和彦、グラント・ハンスマン,岡智一郎、牛島廣治、三好達也、田中智之、宮村達男、武田直和の共同研究で片山先生が発表された。
 Sapovirus(SaV)はゲノム全長塩基配列について、従来報告されている2株とさらに9株について全塩基配列を決定し検討した結果、最も塩基配列が保存された領域は構造蛋白領域の直前に認められ、ノロウイルスのORF1-2ジャンクション領域に相当し、この領域がリアルタイムPCRの標的領域になると思われた。SaVのMc10とC12株のidentityの比較でノロウイルスと同様に、非構造蛋白と構造蛋白コード領域の境界でゲノムの組み替えが起きていることが示唆された。

3.「カキ及び養殖海域のノロウイルス汚染調査」の演題で荒川(西)香南子、中野陽子、山内昭則、杉山 明、中山 治、西尾 治の共同研究で、荒川先生が発表された。
 安全なカキを提供することを目的として、カキ養殖海域に定点を定め、カキの汚染状況と環境因子との関連性を検討し、カキは海水温が10℃以下に1月なるとノロウイルス(NV)が陽性となり始める。海域近辺で50mm以上の降雨が後、海水の塩分比重の低下に伴ってカキのNV陽性が急増した。ヒトにおけるNVの流行の大きさとカキでのNV陽性数の増加との関連が認められた。これらの調査内容を踏まえ、「みえのカキ安心情報システム」を実施している。

4. 「レストラン従事者が原因と推定されたノロウイルス食中毒事例」という演題で飯田國洋、東根英明、植木信介、江原裕子、海部春樹の共同研究で、飯田先生が発表された。
 2003年11月18,19日に長崎方面を修学旅行およびツアー旅行で訪れた10団体の1,477名中790名が嘔吐、下痢、発熱を主症状とする食中毒事件が発生した。この10団体は長崎市内のAレストランで提供された昼食を喫食していた。レストランの従業員、ふき取り、患者のふん便及び吐物の検査を細菌およびノロウイルスについて行った。その結果、レストランの従業員5名、盛りつけ台、患者のふん便および吐物の87件からノロウイルスが検出され、従業員、盛りつけ台および患者からのノロウイルスについてシークエンスを行ったところ全て同一であった。このことからこの事件は「調理過程で複数の食品等を汚染した結果による食中毒事件」と推定された。


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