トピックス

「7th International Symposium on positive-strand RNA viruses の報告」


国立感染症研究所 ウイルス第2部  岡 智一郎


 第7回プラス鎖RNAウイルス国際シンポジウムは5月27日から6月1日まで6日間、アメリカ、サンフランシスコのパレスホテルにおいて開催された。参加者は468名で、口演61、ポスター275の発表があった。今回はそのうち下痢症に関連するカリシウイルス(ノロウイルスおよびサポウイルス)についての主な発表内容を紹介する。

 ノロウイルスについて
 ここ数年注目されているノロウイルス (NoV)の組織血液型物質に対する結合性に関する検討結果が複数の研究グループによって報告された。NoV中空粒子を用いたin vitroの系、ボランテイアによる in vivoの系を用いて、血液型物質がヒトNoVの結合、あるいは感染成立と深く関連することが示唆されたものの、ウイルス株によって結合に利用する組織血液型物質が異なること、さらに血液型物質には結合しないウイルス株が存在することが示され、血液型物質がNoVのレセプターと言えるのか、慎重に検討を続ける必要があると思われた。ヒトNoVはいまだ細胞培養系、実験動物系の成功例がない。我々はNoVのゲノムを哺乳動物細胞系に導入した検討結果について報告した。NoV遺伝子の複製、非構造タンパク質の発現は認められたが、構造蛋白質が発現されず、ウイルスの粒子は認められなかった。同様の報告がEstesラボからも報告された。哺乳類細胞内での構造蛋白質の発現がNoVの細胞培養系の確立の鍵である可能性がある。NoVに関する興味深い報告として、ヒトとは病原性が異なるが、マウスから分離されたNoVが特定の培養細胞で増殖することが報告された。今後このウイルスをモデルとしてNoVの感染メカニズムなど、基礎的な研究が進展する可能性がある

 サポウイルスについて
 サポウイルス(SaV)は、NoVと同様にヒト嘔吐下痢症の原因ウイルスであるがウイルスの分離例が少なく、臨床的にも基礎的にも研究が遅れている。しかしながら遺伝子検出系の改良により、SaVの検出例は近年増加してきている。今回の学会ではJiangらがこれまでに分離された株を用いて、SaVが5つのジェノグループに分類されることを報告したが、NoVがそうであったようにSaVの分類も分離株の増加に伴って、しばらくは混乱が続くことが予想される。また、現在の分類が抗原性の違いを反映するのかという点についても今後の検討課題になると思われる。本学会では我々のグループが異なるジェノグループに対応するSaV中空粒子の作製に成功したことを報告した。今後、ジェノグループ間での交差反応性の検討、および抗原抗体検出系の開発を進める上で有用であろう。SaVはゲノム上に2つ(ジェノグループによってはさらにもう一つ)のオープンリーデイングフレームを有し、ORF1には非構造タンパク質および構造タンパク質がコードされると考えられている。我々はin vitro transcription/translation syastemを用いてSaV ORF1を発現させ、プロセッシング産物を解析し、SaV ORF1の切断地図がNH2-p11-p28-p35 (NTPase)-p32-p14 (VPg)-p70 (Pro-Pol)-p60 (VP1)-COOHであることを報告した。さらに、このプロセッシングがORF1上にコードされる自身のプロテアーゼによって行われることも見いだした。今後は各切断点の解析を通じて、SaV非構造タンパク質の機能について検討を進める。
 ヒト由来のSaVはNoVと同様、いまだ細胞培養系も実験動物系も存在しない。しかし、ブタから分離されたSaVであるcowden株は、細胞培養系が確立されている。これまでcowden株の培養細胞での増殖には、培養液中にブタの腸内容物の濾過液を添加する必要があると報告されていたが、今回の学会でcowden株の増殖に必須な添加因子が胆汁酸であることが同定された。このような知見が現時点で培養増殖系のないヒト由来のNoVやSaVにも適用可能であるか、今後の展開が興味深い。


←Back   抄録目次   Next→
トップページへもどる