【目 的】
我々は、ヒトC群ロタウイルス(以下CHRV)がA群ロタウイルスに比較して集団発生の可能性が高いことを指摘するとともに、集団発生時に迅速な検出を行うためのCHRV検査法を開発してきた。1999年に県内の1小学校で初めてCHRVによる急性胃腸炎の集団発生事例を経験し、引き続いて2000年にも県内の教育研修施設において集団胃腸炎事例が確認されたので、事例ごとにその概要を報告するとともに、発症時間等から感染経路等を推定した。
【材料と方法】
患者の発症状況を調査するとともに、患者と調理従事者から採取した糞便について食中毒細菌検査及びウイルス検査用材料とし、電子顕微鏡観察(EM)、A群ロタウイルス検出用ELISA法(ロタクロン TFB社)及び当センターで開発したCHRV検出用ELISA法・RPHA法(RPHA法検査試薬はデンカ生研?で作製)によるウイルス抗原検索を実施し、さらに、給食の一部及び患者・調理従事者の糞便についてCHRV検出用逆転写PCR法を実施した。
【結 果】
(1)1999年の事例:5月15日〜6月3日に在籍者210名(各学年1クラス)中76名(36.2%)が発症した。学年別発症率は1年生50.0%(20/40)、2年生61.5%(16/26)、3年生31.6%(12/38)、4年生19.2%(5/26)、5年生26.2%(11/42)、6年生31.6%(12/38)であった。これらの患者のうち5月15日〜24日に発症した患者20名の臨床症状は、嘔吐・嘔気85.0%、下痢・軟便80.0%、発熱55.0%、腹痛40.0%で、有症日数は1〜10日(平均4.8日)であった。
患者糞便からは食中毒細菌は検出されなかったが、EMにより、75.0%(15/20)でロタウイルス様粒子が観察された。この陽性検体全例からELISA法及びRPHA法でCHRVを検出し、調理従事者の糞便からは食中毒細菌及びEM、ELISA法、RPHA法によるウイルスは検出されなかった。全在籍者の発症ピークは5月21日であったが、CHRV陽性例患者のうち最も早い発症日は5月15日(検体採取日の病日は12日)で、最も遅い発症日は5月23日(検体採取日の病日は3日)であり、両患者の検体ともRPHA価は≧320と高値で、培養法でもCHRVが分離された。
患者糞便20検体中RPHA陽性の15検体は全て1st PCRにより増幅産物が確認され、RPHA陰性の5検体中3検体が2nd PCRで陽性となった。また、調理従事者糞便5検体中1検体からも2nd PCRでCHRV遺伝子が検出された。一方、給食7品目からはCHRV遺伝子を検出することができなかった。
(2)2000年の事例:生徒及び教職員併せて172名のうち87名(50.6%)が胃腸炎症状を訴えており、患者の31%が5月27日に集中して発症していた。主な症状別の発症率は腹痛87.4%、下痢50.6%、嘔吐・嘔気21.8%、発熱12.6%、頭痛14.9%であった。学校別の有症者数には差がなかったものの、F小学校の患者の方が症状の重い傾向が認められた。
患者糞便のEMによるウイルス検索の結果、3名でロタウイルス様粒子が観察されたため、ELISA法及びRPHA法を実施したところ、A群ロタウイルスは全例陰性であったものの、EM陽性例のみからCHRVが検出された。しかしながら、検出率が低く、CHRVを原因ウイルスとして特定できなかったため、CHRV検出用逆転写PCR法を実施した。その結果、21名(65.6%)からCHRVの遺伝子が検出された。なお、調理従事者に同様のウイルス検索を行ったが前例陰性であった。
CHRVは患者の発症日に関わりなく検出されており、研修初日に発症した患者5名中3名(F小学校2名及びK小学校1名)からもCHRV遺伝子が検出された。学校別の検出率では、F小学校が61.5%及びK小学校が68.4%と差はなく、またクラス別の検出状況にも大きな差は認められなかった。
【考 察】
1999年の事例では、患者発生状況から共通食である学校給食も感染経路に関与している可能性はあるものの、在籍者の発症日には20日間の幅があり、CHRVが検出された患者に限った発症日でも8日間の幅があることや、感染者が1,2年生に多い傾向が認められたこと等から、「ヒト→ヒト感染」が主たる感染経路であると推定された。しかしながら、無症状の調理従事者からCHRV遺伝子が検出されたことから、調理従事者による給食の汚染が感染を拡大させた可能性も考えられる。
2000年の事例の感染経路については、両校とも研修初日に発症した患者からCHRV遺伝子が検出されていたこと、及び調理従事者からはCHRVが検出されなかったことなどから、「ヒト→ヒト感染」が強く疑われた。