話題提供

分子疫学的方法による1999-2000年の小児アデノウイルス下痢症の検討


李 蕾1、清水 英明2、西尾 治3、沖津 祥子1、牛島 廣治1
(1東京大学大学院医学系研究科発達医科学教室、
2川崎市衛生研究所、3国立公衆 衛生 院)


[目的]
 現在小児下痢症ウイルスとして確立されているウイルスは4種:ロタウイルス、アデノウイルス、カリシウイルス、アストロウイルスである。その中冬期下痢症を起こすのは主としてロタウイルスである。次いで多く検出されるのは腸管アデノウイルスである。アデノウイルスは現在までA-F亜群、1-51血清型に分類されている。このうち、F亜群の40、41型は腸管増殖性アデノウイルスとして小児下痢便から多く検出されている。近年、腸管アデノウイルスの疫学研究は少なく、今回日本の5地域における小児下痢症からのアデノウイルスを特に分子疫学的方法を用い調べた。

[材料と方法] 
 1999年7月から2000年6月まで日本(札幌、東京、舞鶴、大阪、佐賀)の5地域における小児急性下痢症患者766便検体を対象とし、アデノウイルスポリクローナル抗体を用いたELISAで(サンドイッチ法)スクリーニングをした。 陽性検体はHexon遺伝子の領域に設定されたプライマーを用い、nested PCRを行い956bpの産物を得、制限酵素(EcoT14I, HaeIII, HinfI)を用いたRFLP(Inagawa.W et al.,1996)を行い、血清型を判定した。この方法で血清型不明の検体に対し、中和試験及びFiber遺伝子領域のプライマーを使用し、PCR(Wanhong Xu et al.,2000)を行い、血清型を判定した。

[結果] 
 766検体中49検体(6.4%)がELISA陽性であった。nested PCRにより49検体中43検体が陽性であった。nested PCRのRFLPで41型が32検体(74.4%)、8型が3検体(7.0%)、3型が1検体(2.3%),型判定不明が7検体(16.3%)であった。RFLPで型不明の検体は中和試験により、3検体は2型であった。2検体はFiber遺伝子領域のPCRを用い、40型と判明した。従って、2型、40型のRFLPのパターンは従来報告されているものと異なっていた。他の2検体は培養ができず、PCRも陰性であった。アデノウイルスは1年を通じて検出されたが、季節的な頻度の差がなかった。3歳以下は36検体(83.7%)であった。

[考察]
 PCR-RFLPの方法により1999年7月-2000年6月の日本のアデノウイルス下痢症の状況がわかった。F亜群の41型が最も流行していた。40型の検出は少なかった。80年代初期には40型は41型より流行していたが、1990年以降には41型が主流となったと報告されている。今回さらに1999年-2000年にもこの傾向が続いていることを確認した。今回腸管アデノウイルス以外のアデノウイルスで検出されたのは血清型2、3、8型であり、C亜群とD亜群に属する。C亜群のアデノウイルスは長期間糞便中に排出されることが知られていてこれらのアデノウイルス感染が下痢症の病因ではないとは言えない。Hexon領域のPCR-RFLPの方法は従来の中和試験が要らずに、アデノウイルスの14血清型が判定できるので、小児下痢症のアデノウイルスの疫学研究には有用な方法である。今回2件の40型検体、3件の2型検体はこのRFLPのパターンが従来報告されているものにより、判定できなかったが、今後このパターンを標準パターンとしてアデノウイルスの疫学的研究を続けていきたいと考えている。


←Back   抄録目次   Next→
トップページへもどる