カリシウイルス科ウイルス(Caliciviridae)の分類体系は、ICTVの第7次報告により大きく変わった。この変更により、従来Norwalk-like virus、SRSV、ヒトカリシウイルスなどと多様に通称されてきた「ヒトに胃腸炎を起こすカリシウイルス科ウイルス」の分類体系と名称が確立した。実は、ICTVの第6次報告に従えば、上記の通称名のうち、ヒトカリシウイルスという用語を用いるのがもっとも正式な用法であったことになるのだが、これは広く用いられるに至らず、第7次報告にとって代わられた。この例が示すように、ICTVの正式学名といえども、実際にそれらのウイルスを扱うウイルス専門家の間で、広く使用されなければ意味がないものとなってしまう。さらに困ったことは、どのような名前が広く使用されるかが、Fields Virologyをはじめとする米国の有力教科書やMMWR(CDC)などによって事実上決まってしまうことである。これをde facto standardと言うのだそうだが、必ずしも望ましいことではない。
個別の分類体系の変更の一部としてカリシウイルス科ウイルスの分類体系が修正されたのに加え、ICTVの第7次報告は、今まで重視されてこなかったウイルス種(species)を分類体系上にきちんと位置付けるという大きな流れを明確にした。 そこで、昨年のウイルス性下痢症研究会の議論を機に、下痢症ウイルス研究者の有志が、国際的視点を保持しつつ、わが国で、ヒトに胃腸炎を起こすカリシウイルス科ウイルス(Caliciviridae)の分類と命名を広く正しく普及させるため、用語の使用に関するウイルス専門家の統一的見解を提案しようという作業を継続してきた。この作業グループの提案について、本年五月に開催された臨床ウイルス学会のカンレント・トピックスの場で公表した。これに、臨床ウイルス学会での批判をふまえて、さらに明解な提案とすべく修正を加えた。作業グループの提案の骨子は、Norwalk virusノーウォークウイルス、 Sapporo virusサッポロウイルスというICTVの分類の正式ウイルス種名が分類の中心あることを確認し、これを分類の基本として広く使用していこうというものである。