3.ウイルス性食中毒原因の遺伝子検査標準法確立と全国行政対応整備に関する研究
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【目的】 当班研究目標の第1は国内ウイルス性食中毒遺伝子診断(RT−PCR)法確立、第2は国内のウイルス性食中毒の分子疫学的実態解明、第3は食品衛生行政推進のため体制整備に向け施策提言を行い、第4に環境・食品ウイルス汚染制御を目指しSRSVの国内生態・動態を把握するべく断面調査を行い、次世代の環境・食品安全制御技術の研究開発へ展開させることにある。
【方法】 「食品を介した健康被害」即ち食中毒に対する行政の円滑対応を図るため、食中毒遺伝子検査技術の確立と整備について研究者は連携強化を図り、国内ブロック(北海道、東北、関東甲信越、中部、中国、四国、九州、沖縄)の拠点にてウイルス性食中毒患者、食品、環境試料等からの小型球形ウイルス(SRSV)遺伝子検出効率向上と確立を目指し、分子疫学解析を行い食品衛生行政対策に資すると共に内外学会、学術誌に成果を公開し厚生科学研究事業総括報告書を発刊する。
【結果および考察】
1.RT−PCR法改良 効率の良い核酸抽出市販キットも導入しRT−PCR法術式の無駄を省き簡素省力化(逆転写とPCR増幅も同一管内反応とするなど)を図り改良法提案と普及に努め、同時に国内ウイルス性食中毒の分子疫学解析へ以下応用を図った。
(1)遺伝子抽出に市販キットを積極的導入し効率性と有害廃棄物対策を実施
(2)RT−PCRでは逆転写(RT)と遺伝子連鎖増幅(PCR)は別個反応系で、ネステッ
ドPCRは実施しない方がよい。検出過程で核酸汚染を懸念
(3)国内SRSV診断用ユニバーサルプライマーの独自設計
米国ノーウォーク・ウイルスを代表とするSRSV遺伝子型群G1、スノーマウンテン、メキシコ、トロント・ウイルスを代表とするG2の国外株からORF1共有塩基配列をもとに診断用プライマー(当班提案は厚生省検査指針平成9年1月付通知)を設計した。しかし、国内には異型G2出現傾向が高く日本固有のウイルス遺伝子群割合が全体の約5割以上あることが班研究で明らかとなった。1989年から1998年まで検出した約7千株のSRSVから200株の遺伝子配列を抽出し、ユニバーサルプライマー設計と実証試験を実施中。食中毒患者(糞便)と食品(生かき)からの検出感度が向上し、国内SRSVの遺伝子群約8割以上が検出可能となった。
2.SRSV分子疫学 当班では国内18地域のウイルス性食中毒患者・原因推定
食品等から検出された約7千株をもとにSRSV遺伝子配列決定を実施した内、約200株を選出した。このような組織的分子遺伝学的解析がSRSV研究で実施された例は内外にない。我々はこれらの188株をもとにORF1(RNAポリメラーゼ領域)塩基配列とアミノ酸配列を比較検討した。これら独自の遺伝子情報をもとに、ウイルス系統樹比較解析を行い、SRSV検査用ユニバーサルプライマーを設計した。その検出効率とその向上は平成11年度現在もなお検証中であるが、汎用SRSV診断検査用日本独自のユニバーサルプライマー設計をほぼ完了した。それら有用性と検出効率の検証が終了次第、遺伝子情報の開示を行う予定である。SRSV遺伝子配列解析から国内株はおおよそ2種の遺伝子群型に分別されるが、特にG2に5種の群型内亜型が存在することも明らかとなった。新亜型の1つはG2代表株であるスノーマウントやトロント、メキシコとも特徴が異なり新種群として我々は暫定的にJPN−1とした。他の1つは由利株で代表される特異なG2の種で、これは限られた年度で短期に出現したことが明らかとなった。われわれはこの由利型G2をJPN−2と名付けた。国内SRSV分布は、G2/JPN−1》G2/JPN−2》G1/NVLの出現頻度でG1/NLVは全体の1割程度であった。
以上のSRSV遺伝子解析と分子疫学の結果、我々は独自に新規汎用診断ユニバーサルプライマーを設計せねばならなかった。RT?PCR法改良とその普及、国内SRSV食中毒の分子疫学成果は必ずや食品衛生行政の推進と全国対応整備に役立つものと確信する。